僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

ミステリ

『動く指』アガサ・クリスティ【感想】隠れた傑作

1943年発表 ミス・マープル3 高橋豊訳 ハヤカワ文庫発行 2019年初クリスティは、ミス・マープルシリーズ第三作。 当ブログでも度々言っていることだが、筆者ぼくねこは海外ミステリをほぼ発表年順に読んでいる。所持している1910~1930年代(約250冊)のミス…

『三人の名探偵のための事件』レオ・ブルース【感想】パロディものと侮るなかれ

1936年発表 ウィリアム・ビーフ巡査部長1 小林晋訳 扶桑社発行 初レオ・ブルース、ということで、まずは簡単に作者紹介からいきましょう。 レオ・ブルースという男 レオ・ブルース(本名ルパート・クロフト・クック)はイングランド・ケント州生まれですが、…

『スペイン岬の謎』エラリー・クイーン【感想】ぶ厚い物語と堅固なプロットが持ち味

1935年発表 エラリー・クイーン9 井上勇訳 創元推理文庫1959年版 本当は島田荘司『占星術殺人事件』の感想を先に書こうと思っていたんですが、このタイミングで本を失くしました。これは、ミステリ界の神“エラリー・クイーン”の「書くな」というお告げなのか…

『ささやく真実』ヘレン・マクロイ【感想】浅見光彦系が好み

1941年発表 精神科医ベイジル・ウィリング博士3 駒月雅子訳 創元推理文庫発行 典型的な悪女と彼女のドス黒い計画、そしてそれに触発され起こる怪事件。ミステリのテンプレとも言える導入部ですが、ここに浅見光彦系主人公(警察がその正体を知らない名探偵)…

『月明かりの男』ヘレン・マクロイ【感想】心理学をオチに使わない贅沢な一作

1940年発表 精神科医ベイジル・ウィリング博士2 駒月雅子訳 創元推理文庫発行 粗あらすじ ヨークヴィル大学を訪れたフォイル次長警視正は、詳細な殺人計画が書かれたメモを拾う。警察官の勘か、妙な胸騒ぎを覚えたフォイルだったが、意を決する前に一発の銃…

『死の舞踏』ヘレン・マクロイ【感想】ホットな死体と、クールな探偵

発表年:1938年 作者:ヘレン・マクロイ シリーズ:ベイジル・ウィリング博士1 訳者:板垣節子 ヘレン・マクロイにチャレンジするのはこれで二度目。初挑戦は、なんの気紛れかベイジル・ウィリング博士シリーズ第5作『家蝿とカナリア』からでした。該当記事…

物語のクセがすごい【感想】G.D.H.&M.コール『百万長者の死』

発表年:1925年 作者:G.D.H.&M.コール(夫妻) シリーズ:ヘンリー・ウィルスン警視2 訳者:石一郎 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。本年も僕の猫舎をどうぞよろしくお願い致します。まだまだ昨年の読書感想が残っているので、まずはそ…

2018年読了海外ミステリベストテン

早いもので2018年ももう終わり。今年は昇格試験の年ということもあって、10月以降ガックリ読書数を落としてしまい最終結果は49冊(うち海外ミステリは45冊)でした。週一ペースを維持できず残念な気持ちもありますが、生涯ベストに肉薄する傑作と国内…

新訳化切望【感想】M.D.ポースト『アブナー伯父の事件簿』

発表年:1918年 作者:M.D.ポースト シリーズ:アブナー伯父 訳者:菊池光 M.D.ポーストという男 探偵役アブナー伯父について 各話感想 『天の使い』(1911) 『悪魔の道具』(1917) 『私刑(リンチ)』(1914) 『地の掟』(1914) 『不可抗力』(1913) …

丁寧な仕事してます【感想】F.W.クロフツ『サウサンプトンの殺人』

発表年:1934年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部12 訳者:大庭忠男 染みわたるわあ~、砂漠で飲むお水くらい染みわたる。アクの強いカー作品を読んだ後ということもあって、真っ直ぐな作品に出会うとすいすい読めてしまいます。 今日紹介するのは…

インパクト良し読後感悪し【感想】ジョン・ディクスン・カー『死者はよみがえる』

発表年:1937年 作者:J.D.カー シリーズ:ギデオン・フェル博士8 訳者:橋本福夫 粗あらすじ 雪片ちらつく冬のロンドンに青年が一人佇んでいる。冒険旅行の終着点であるホテルの前で彼の前に舞い落ちたのは、雪片と見紛う一ひらの紙片。純白の招待状にいざ…

推理小説殺し【感想】キャメロン・マケイブ『編集室の床に落ちた顔』

発表年:1934年 作者:キャメロン・マケイブ シリーズ:ノンシリーズ 訳者:熊井ひろ美 三大奇書と呼ばれる作品(『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』)のどれひとつ読んでもいないのに奇書を語る資格なんて元々ないんですが、本書はアン…

神たる所以【感想】エラリー・クイーン『エラリー・クイーンの冒険』

発表年:1934年 作者:エラリー・クイーン シリーズ:エラリー・クイーン 訳者:旧訳 井上勇 新訳 中村有希 エラリー・クイーンシリーズの短編集を読むのはこれが初めてです。ずっと旧訳版は所持していたのですが、本書が発表された1934年以前の長編を全部読…

この絵から何を読み取るか【感想】アガサ・クリスティ『五匹の子豚』

発表年:1942年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ21 訳者:桑原千恵子 前回の記事『書斎の死体』に引き続き、半年ぶりのエルキュール・ポワロは、今まで彼が解決してきた事件とはひと味違う難事件。 なんと16年も前に解決してしまっ…

ありきたり、を逆手に取った名作【感想】アガサ・クリスティ『書斎の死体』

発表年:1942年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ミス・マープル2 訳者:山本やよい 半年ぶりのクリスティはミス・マープルの第二作。 マープルものの一作目『牧師館の殺人』を読んだのが3年以上も前なので、作品に馴染めるかどうか少々不安でしたが、短…

サスペンス小説の匠による名作【感想】コーネル・ウールリッチ『黒衣の花嫁』

発表年:1940年 作者:ウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ) シリーズ:ノンシリーズ 訳者:稲葉明雄 初アイリッシュです。いや初ウールリッチと言ったほうが良いのか…彼と同じように別名義のあるミステリ作家と言えばエラリー・クイーン(バ…

全章フルスロットル【感想】レックス・スタウト『赤い箱』

発表年:1937年 作者:レックス・スタウト シリーズ:ネロ・ウルフ4 訳者:佐倉潤吾 レックス・スタウト、毎回毎回超えてきますねえ。どんどん面白さが跳ね上がってます。 この記事を『毒蛇』の感想を書いた当時の自分に見せてやりたい。 間違いない、そのま…

500ページもいるかな【感想】ジョン・ディクスン・カー『アラビアンナイトの殺人』

発表年:1936年 作者:J.D.カー シリーズ:ギデオン・フェル博士7 訳者:宇野利泰 まずは 粗あらすじ フェル博士の自室に集まった三人の警察官が語るのは、ロンドンの博物館で起こった奇怪な事件の物語。数種のつけ髭と、石炭の粉舞う異様な博物館で起こった…

狂人探し【感想】G.K.チェスタトン『詩人と狂人たち』

発表年:1929年 作者:G.K.チェスタトン シリーズ:ノンシリーズ 訳者:南條竹則 定期的にチェスタトンを摂取したくなるのなんなんでしょうか。耐性がないと(慣れないと)読みにくい逆説だらけの構成がどこかクセになっているのかもしれません。 衒学的とい…

付録:倒叙寸評【感想】F.W.クロフツ『クロイドン発12時30分』

発表年:1934年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部11 訳者:加賀山卓朗 本書の読了を持って三大倒叙ミステリをすべて読破したわけですが、どうもノってこない一作。 「倒叙」とはいえ、まず最初に殺人が描かれるってのは『殺意』や『叔母殺人事件』…

ソフトボイルドがいい塩梅【感想】E.S.ガードナー『ビロードの爪』

発表年:1933年 作者:E.S.ガードナー シリーズ:弁護士ペリー・メイスン1 訳者:小西宏 粗あらすじ 《謎探偵の推理過程》 弁護士ペリー・メイスンといえば、ミステリ界においても屈指の長寿シリーズです。 40年にもわたり計82もの長編に登場するペリー・メ…

着想の限界か【感想】S・S=ヴァン・ダイン『ケンネル殺人事件』

発表年:1933年 作者:S・S=ヴァン・ダイン シリーズ:ファイロ・ヴァンス6 訳者:井上勇 エラリー・クイーンに多大な影響を与えたとされる、ヴァン・ダインですが、その有名な名前に反して、作品の評価はあまり高くないように思えます。 どうしても、ちょ…

ホームズ時代へのリスペクトが詰まった一作【感想】エラリー・クイーン『チャイナ橙の謎』

発表年:1934年 作者:エラリー・クイーン シリーズ:エラリー・クイーン8 訳者:井上勇 空前絶後の超絶怒涛の“あべこべ殺人”がご登場です。 事件が起こるまでがかなり印象深いので、なるべくボカシながら書きたいのですが、インパクトという意味では超ど級…

ホームズ時代最後の超人探偵【感想】アーネスト・ブラマ『マックス・カラドスの事件簿』

発表年:1914~1927年 作者:アーネスト・ブラマ シリーズ:マックス・カラドス 訳者:吉田誠一 初アーネスト・ブラマということで、先ずはあっさり作者紹介。 彼のことを紹介するのに一番適している単語は「秘密主義」です。どんな集まりにも顔を出さず、要…

絶妙な配合比率で生み出された力作【感想】F.W.クロフツ『ホッグズ・バックの怪事件』

発表年:1933年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部10 訳者:大庭忠男 フレンチ警部シリーズもついに10作を突破しました。ポワロシリーズで言えば『雲をつかむ死』(『ABC殺人事件』のひとつ前)なので、ミステリ作家としても中堅になり油の乗った時…

前言撤回します。【感想】レックス・スタウト『ラバー・バンド』

発表年:1936年 作者:レックス・スタウト シリーズ:ネロ・ウルフ3 訳者:斉藤数衛 多くの批評家がネロ・ウルフもののベストと推す『毒蛇』や『腰ぬけ連盟』に、あまりしっくりこなかったこともあって、期待値はかなり低めだったのですが、今までの3作の中…

ルパンの多面性を堪能【感想】モーリス・ルブラン『ルパンの告白』

発表年:1911年~1913年 作者:モーリス・ルブラン シリーズ:アルセーヌ・ルパン 訳者:堀口大學 年2ルパンの2作目。この感じだと年4は読めそうです。 さすが幾つも邦訳化されているだけって、タイトルも訳者によって様々なバリエーションがあります。当…

全員、嫌い【感想】フランシス・アイルズ『殺意』

発表年:1931年 作者:フランシス・アイルズ(アントニイ・バークリー) シリーズ:ノンシリーズ 訳者:大久保康雄 さてさて、三大倒叙ミステリの一角を落としてから、はや一年余り、ついに第二の倒叙の王に挑むことと相成りました。 その名も『殺意』ですよ…

漢(おとこ)臭いミステリ【感想】F.W.クロフツ『死の鉄路』

発表年:1932年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部9 訳者:中山善之 本書はとにかく漢臭い。ただ、夏場の満員電車のような不快な汗臭さのことでありません。 舞台は「十月もすえ」のイギリス北部。鉄道の見習技師クリフォード・パリーなる三十二歳…

変な武器で変な攻撃してくる刺客【感想】C.デイリー・キング『タラント氏の事件簿[完全版]』

発表年:1935~1979年 作者:C.デイリー・キング シリーズ:トレヴィス・タラント 訳者:中村有希 またまたのっけから意味不明なタイトルで読者を混乱させたことを深くお詫びいたします。 しかしですね。全編読んでみて、どんな作品だったか、短く説明すると…