僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

ミステリ

『ヴォスパー号の喪失(遭難)』F.W.クロフツ【感想】地道さが奏功したりしなかったり

1936年発表 フレンチ警部14 訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ発行 本書はフレンチ警部シリーズの中でも、かなり入手難易度の高い一冊。早川書房によってポケミス版(昭和32年)と文庫版(昭和56年)で発行されて以来復刊も無く、特に文庫版はAmazonのマケプ…

『ドイル傑作集Ⅰ/ミステリー編』アーサー・コナン・ドイル【感想】ドイル流面白さの凝縮版

1888年~1921年 ノンシリーズ短編集(日本独自) 延原謙訳 新潮文庫発行 本書解説で訳者の延原謙氏が述べておられるとおり、世間一般ではアーサー・コナン・ドイルといえばシャーロック・ホームズ、という印象が強いと思われるし、シャーロック・ホームズを…

『緑のカプセルの謎』ジョン・ディクスン・カー【感想】二打席連続ホームラン

1939年発表 ギデオン・フェル博士10 三角和代訳 創元推理文庫発行 ギデオン・フェル博士シリーズ第10作は、摩訶不思議な毒殺事件がテーマの優れたフー&ハウダニットミステリ。前作『曲がった蝶番』(1938)を“ホームラン級”と称しましたが、二打席連続のホー…

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ【ネタバレなし感想】100年先も読まれ続ける等身大の超傑作

2017年発表 山田蘭訳 創元推理文庫発行 2018年の海外ミステリランキングを全て制覇した『カササギ殺人事件』からわずか1年。またもやアンソニー・ホロヴィッツは怪物を世に解き放った。今度は、作者アンソニー・ホロヴィッツ自らがワトスン役(語り手)を担…

『死が最後にやってくる』アガサ・クリスティ【感想】女王にナメられている

1945年発表 歴史ミステリ? 加島祥造訳 ハヤカワ文庫発行 一つ言えるのは、古代エジプトミステリ……ではない、ということ。 本書の事件は紀元前二千年頃のエジプト、ナイルの河畔にあるシーブズ(古代エジプトの都市でいまのルクソール)で起こります。といっ…

『ギルフォードの犯罪』F.W.クロフツ【感想】等身大で原寸大の身近なミステリ

1935年発表 フレンチ警部13 前作『サウサンプトンの殺人』 中山善之訳 創元推理文庫発行 宝石商ノーンズ商会の役員会議から始まる本書は、作者F.W.クロフツがアリバイや鉄道に並んで得意とする企業犯罪がテーマの骨太な一作。 関係者の死と大量の貴金属の盗…

『人形パズル』パットリック・クェンティン【感想】難易度?サプライズ?そんなの関係ねえ!

1944年発表 ピーター・ダルース3 白須清美訳 創元推理文庫発行 人形パズル (創元推理文庫) 作者: パトリック・クェンティン,白須清美 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2013/03/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (11件) を見る 演劇プロデューサ…

『探偵術教えます』パーシヴァル・ワイルド【感想】万人にオススメできる自信作

1947年発表 通信教育探偵ピーター・モーラン 巴妙子訳 ちくま文庫発行 ニューヨーク生まれの奇才パーシヴァル・ワイルドが1947年に上梓した、抱腹絶倒の連作短編推理小説。作者の実体験?を元に生み出された素人迷探偵P(ピーター)・モーランが作中を所狭し…

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティ【感想】クリスティ中期の集大成的大傑作

1944年発表 バトル警視シリーズ 三川基好訳 ハヤカワ文庫発行 クリスティの創造した名探偵たちの一人、バトル警視が探偵役を務める長編。彼は本作以前にも『チムニーズ館の秘密』『七つの時計』『ひらいたトランプ』『殺人は容易だ』で登場しているが、いず…

『カシノ殺人事件』S・S=ヴァン・ダイン【感想】化学と古典の融合

1934年発表 ファイロ・ヴァンス8 井上勇訳 創元推理文庫発行 ファイロ・ヴァンスも第8作目に突入。あらすじを紹介したいのは山々なのだが、どうも憚られる。というのも、創元推理文庫の裏表紙と中表紙のあらすじの中で既に盛大なネタバレがあるからだ。こ…

『すねた娘(怒りっぽい女)』E.S.ガードナー【感想】理想の探偵であり上司

1933年発表 弁護士ペリー・メイスン2 大岡昇平訳 創元推理文庫発行 E.Sガードナーと言えば、推理小説界屈指の多作な作家です。多い時で年5冊ものペースでぼこぼこと作品を生み出した彼の代表的な作品群【弁護士ペリー・メイスンシリーズ】は、ガードナー自…

『ホロー荘の殺人』アガサ・クリスティ【感想】傑作だけど好きにはなれない

エルキュール・ポワロ 中村能三訳 ハヤカワ文庫 粗あらすじ 長閑なホロー荘に集った、秘めた想いを抱えた登場人物たち。彼らが演じる悲劇を最前列で鑑賞したのは、名探偵エルキュール・ポワロだった。死者が口にしたダイイングメッセージが指し示すのは犯人…

『途中の家(中途の家)』エラリー・クイーン【感想】美しさと懐の広さが両立

1936年発表 エラリー・クイーン10 青田勝訳 ハヤカワ・ミステリ文庫発行 『ローマ帽子』から始まる≪国名シリーズ≫をついに読み終え、お次は『災厄の町』以降の≪ライツヴィルもの≫への繋ぎとなる一作です。 探偵エラリー・クイーンがいるのは、ニュージャージ…

『魔法人形』マックス・アフォード【感想】奥深いプロットとモクモク

1937年発表 数学者ジェフリー・ブラックバーン2 霧島義明訳 国書刊行会発行 マックス・アフォードは初挑戦なので、まずは簡単に作者紹介から。 マックス・アフォードという男 マックス・アフォードは1906年オーストラリア・アデレード生まれ。若くしてオース…

『ドラゴン殺人事件』S・S・ヴァン・ダイン【感想】次回に期待

1933年発表 ファイロ・ヴァンス7 井上勇訳 創元推理文庫発行 粗あらすじ スタム邸の屋内プール、通称“ドラゴンプール”で飛び込み事故が発生した。凶報を受けて駆け付けたヴァンス一行だったが、被害者の影も形も無い一方で、紛うことなき伝説の巨竜の痕跡が…

『試行錯誤(トライアル&エラー)』アントニイ・バークリー【感想】奇想天外がぴったりな傑作

1937年発表 鮎川信夫訳 創元推理文庫発行 また、とんでもないものを読んでしまった…恐るべしバークリー。 う~んあらすじの中に展開バレを含みそうなので、恐恐としますが、とある人物が完全犯罪を目論むお話とでも言いましょうか。この、物語の筋が早々に明…

『思考機械の事件簿Ⅱ』ジャック・フットレル【感想】失われた短編たちのご冥福をお祈りして

1906年発表 池央耿訳 創元推理文庫発行 今年初の短編海外ミステリです。 「二たす二は四、いつでも、どこでも、ぜったい四!」が口癖の≪思考機械≫ことオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン博士シリーズ。やっぱり古典ミステリを読むと、心が洗われ…

『オルヌカン城の謎』モーリス・ルブラン【感想】時代がルブランに書かせた愛国の書

1916年発表 アルセーヌ・ルパン9 井上勇訳 創元推理文庫発行 本書をアルセーヌ・ルパンシリーズと呼んでいいのかどうか、まだ悩んでいます。 発表順に言うと9作目にあたる本書は、第一次世界大戦(1914)勃発直後の激動の2年間にモーリス・ルブランによっ…

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ【ネタバレなしなし感想】完璧なイギリスのミステリ

2016年発表 山田蘭訳 創元推理文庫発行 フォロワーの方にオススメしていただいた(おねだりした)一作です。2018年末の主要なミステリランキング全てにおいて1位、と大傑作であることは折り紙付き。Twitter界隈のリアルな評価も高く、読む前から既にブログ…

『曲がった蝶番』ジョン・ディクスン・カー【感想】ホームラン級の一作

1938年発表 ギデオン・フェル博士9 三角和代訳 創元推理文庫発行 ギデオン・フェル博士シリーズはこれで9作目になりました。少しだけおさらいをしておくと、彼の初登場作は『魔女の隠れ家』(1933)当時は“辞書編纂家”という肩書でしたが、その後はロンドン…

『あなたは誰?』ヘレン・マクロイ【感想】作者自信満々の力作

1942年発表 ベイジル・ウィリング博士4 渕上瘦平訳 ちくま文庫発行 建物を建てる時に最も重要な要素は基礎だとよく言われる。基礎がしっかりしていないと、地震や洪水などの災害に見舞われたとき、その家は耐えきれずに脆く崩れてしまうからだ。 これはミス…

『動く指』アガサ・クリスティ【感想】隠れた傑作

1943年発表 ミス・マープル3 高橋豊訳 ハヤカワ文庫発行 2019年初クリスティは、ミス・マープルシリーズ第三作。 当ブログでも度々言っていることだが、筆者ぼくねこは海外ミステリをほぼ発表年順に読んでいる。所持している1910~1930年代(約250冊)のミス…

『三人の名探偵のための事件』レオ・ブルース【感想】パロディものと侮るなかれ

1936年発表 ウィリアム・ビーフ巡査部長1 小林晋訳 扶桑社発行 初レオ・ブルース、ということで、まずは簡単に作者紹介からいきましょう。 レオ・ブルースという男 レオ・ブルース(本名ルパート・クロフト・クック)はイングランド・ケント州生まれですが、…

『スペイン岬の謎』エラリー・クイーン【感想】ぶ厚い物語と堅固なプロットが持ち味

1935年発表 エラリー・クイーン9 井上勇訳 創元推理文庫1959年版 本当は島田荘司『占星術殺人事件』の感想を先に書こうと思っていたんですが、このタイミングで本を失くしました。これは、ミステリ界の神“エラリー・クイーン”の「書くな」というお告げなのか…

『ささやく真実』ヘレン・マクロイ【感想】浅見光彦系が好み

1941年発表 精神科医ベイジル・ウィリング博士3 駒月雅子訳 創元推理文庫発行 典型的な悪女と彼女のドス黒い計画、そしてそれに触発され起こる怪事件。ミステリのテンプレとも言える導入部ですが、ここに浅見光彦系主人公(警察がその正体を知らない名探偵)…

『月明かりの男』ヘレン・マクロイ【感想】心理学をオチに使わない贅沢な一作

1940年発表 精神科医ベイジル・ウィリング博士2 駒月雅子訳 創元推理文庫発行 粗あらすじ ヨークヴィル大学を訪れたフォイル次長警視正は、詳細な殺人計画が書かれたメモを拾う。警察官の勘か、妙な胸騒ぎを覚えたフォイルだったが、意を決する前に一発の銃…

『死の舞踏』ヘレン・マクロイ【感想】ホットな死体と、クールな探偵

発表年:1938年 作者:ヘレン・マクロイ シリーズ:ベイジル・ウィリング博士1 訳者:板垣節子 ヘレン・マクロイにチャレンジするのはこれで二度目。初挑戦は、なんの気紛れかベイジル・ウィリング博士シリーズ第5作『家蝿とカナリア』からでした。該当記事…

物語のクセがすごい【感想】G.D.H.&M.コール『百万長者の死』

発表年:1925年 作者:G.D.H.&M.コール(夫妻) シリーズ:ヘンリー・ウィルスン警視2 訳者:石一郎 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。本年も僕の猫舎をどうぞよろしくお願い致します。まだまだ昨年の読書感想が残っているので、まずはそ…

2018年読了海外ミステリベストテン

早いもので2018年ももう終わり。今年は昇格試験の年ということもあって、10月以降ガックリ読書数を落としてしまい最終結果は49冊(うち海外ミステリは45冊)でした。週一ペースを維持できず残念な気持ちもありますが、生涯ベストに肉薄する傑作と国内…

新訳化切望【感想】M.D.ポースト『アブナー伯父の事件簿』

発表年:1918年 作者:M.D.ポースト シリーズ:アブナー伯父 訳者:菊池光 M.D.ポーストという男 探偵役アブナー伯父について 各話感想 『天の使い』(1911) 『悪魔の道具』(1917) 『私刑(リンチ)』(1914) 『地の掟』(1914) 『不可抗力』(1913) …