ミステリ

『虎の牙』モーリス・ルブラン【感想】細密フィルターを通せば面白い

Les Dents Du Tigle 1921年発表 アルセーヌ・ルパン9 井上勇訳 創元推理文庫発行 前作『(三十)棺桶島』 次作『八点鐘』 本作でアルセーヌ・ルパンシリーズに挑もうとする読者はほぼいないでしょうが、少なくとも『813』は読んでおいた方が楽しめると思い…

『緑は危険』クリスチアナ・ブランド【感想】作者の最高傑作、は伊達じゃない

Green for Danger 1944年 コックリル警部2 中村保男訳 ハヤカワ文庫発行 前作『切られた首』 次作『自宅にて急逝』 完全にミスった。いつもシリーズ作品は、第一作から読むことを習慣にしているのに、間違って2作目から読んでしまった。 まあ、いいか、め…

『怪盗レトン』ジョルジュ・シムノン【感想】想像していたよりもドロッとせず、キリっとしてる

Pietre le Letton 1929年発表 メグレ警部1 稲葉明雄訳 角川文庫発行 次作『死んだギャレ氏』 メグレ警部と言えば、名探偵コナンの目暮警部の名前の由来になった名探偵です。 その記念すべき1作目が本作『怪盗レトン』なのですが、本書に出会うのには本当に…

『フレンチ警部の多忙な休暇』F.W.クロフツ【感想】警察24時が先か、クロフツが先か

FATAL VENTURE Fatal=致命的な Venture=(金銭的にリスクの高いbusiness)投機、事業 ですから、『死をまねく事業』というところでしょうか 1939年発表 フレンチ警部19 中村能三訳 創元推理文庫発行 前作『フレンチ警部と毒蛇の謎』 次作『黄金の灰』 クロフ…

『本命』ディック・フランシス【感想】硬派と軟派のあいだ

Dead Cert 1962年発表 菊池光訳 ハヤカワ文庫発行 ディック・フランシスという男 ディック・フランシスは1920年ウェールズ生まれ。祖父の代から競走馬の世話や騎手、厩舎に関わりのある家庭で育ち、フランシスも幼少期から乗馬をこなすなど馬になじみの深い…

『月光ゲーム Yの悲劇’88』有栖川有栖【感想】大学いっときゃよかった

表紙のおじさん誰?(めっちゃ失礼してたらどうしよう) 1989年発表 江神二郎1 創元推理文庫発行 国内ミステリの傑作を少しずつ読んでいく企画。島田荘司、綾辻行人ときてお次は有栖川有栖に挑戦です。 幸か不幸か、いくら国内ミステリの傑作とはいえ、あら…

『吠える犬』E.S.ガードナー【感想】今日もカッコいいぜ!おれは吠える

THE CASE OF THE HOWLING DOG 1938年発表 弁護士ペリー・メイスン4 小西宏訳 創元推理文庫発行 前作『幸運の脚(幸運な足の娘)』 次作『奇妙な花嫁』 隣人の家の犬が吠えて迷惑だ、という依頼を受けたメイスンだったが、隣人の主張によると犬は吠えなかっ…

『フレンチ警部と毒蛇の謎』F.W.クロフツ【感想】倒叙のようで倒叙でない

ANTIDOTE TO VENOM 1938年発表 フレンチ警部18 霜島義明訳 創元推理文庫発行 前作『シグニット号の死』 次作『フレンチ警部と多忙な休暇』 三大倒叙の一つと呼ばれる『クロイドン発12時30分』を生み出して以降、クロフツの倒叙に対する興味はしばらく色褪せ…

『震えない男』ジョン・ディクスン・カー【感想】展開力を楽しむ

THE MAN WHO COULD NOT SHUDDER 1940年発表 ギデオン・フェル博士12 村崎敏郎訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ―525 前作『テニスコートの殺人』 次作『連続殺人事件』 ネタバレなし感想 飛びつく椅子、揺れるシャンデリア、曰く付きの幽霊屋敷を買い取った物…

『シグニット号の死』F.W.クロフツ【感想】フレンチ警部に旅をさせてやってくれ

THE END OF ANDREW HARRISON 1938年発表 フレンチ警部17 中山善之訳 創元推理文庫発行 前作『フレンチ警部と漂う死体』 次作『フレンチ警部と毒蛇の謎』 フレンチ警部シリーズも第17作になりました。『ヴォスパー号の喪失(遭難)』 『船から消えた男』『フ…

『四人の申し分なき重罪人』G.K.チェスタトン【感想】逆説戦隊

FOUR FAULTLESS FELONS 1930年発表 ノンシリーズ 西崎憲訳 ちくま文庫発行 ミステリ作家としてのチェスタトンの人生の中でも晩年に発表された中編集です。 新聞記者ピニオン氏は特ダネの取材のため、ある高名な貴族の取材のためにロンドンを訪れます。そこで…

閉所愛好家の謎【解決編】 

まさか、問題編を超える文字数になるなんて思いもしませんでした。いかに問題編にちゃんと手掛かりを配置できていなかったか、ということでしょうか。 無駄な記述が多いせいかもしれません。トリックに苛立ってもビン・カンを投げないように。危ないです。 …

閉所愛好家の謎【問題編】

短篇ミステリを書いてみた。 きっかけはTwitterでフォローしているこいさんの謎解きクイズ。 こい on Twitter: "【FILE4:100万円で作家デビュー!】 はじめて見取り図というものを描いた(正解者10名で解答公開) #謎解きクイズ… " めちゃくちゃ面白いのでみ…

『ドラゴンの歯』エラリー・クイーン【感想】遅れてきた思春期

The Dragon’s Teeth 1939年発表 エラリー・クイーン14 青田勝訳 ハヤカワ文庫発行 前作『ハートの4』 次作『災厄の町』 ついにライツヴィルの入り口までたどり着きました。ハリウッドシリーズ最後の一作です。ハリウッドシリーズと言っても、舞台はクイーン…

『エラリー・クイーンの新冒険』エラリー・クイーン【感想】物語同士のギャップも魅力

The New Adventures of Ellery Queen 1935~1939年発表 エラリー・クイーン 中村有希訳(旧版:井上勇訳)創元推理文庫発行 前作『エラリー・クイーンの冒険』 各話感想 『神の灯』(1935) 今回、新旧の『新冒険』と併せて嶋中文庫の『神の灯』も読みまして…

『十角館の殺人』綾辻行人【ネタバレ感想】自分にとっては遅効毒だったみたい

1987年発表(2007年新装改訂) 島田潔(館シリーズ)1 講談社文庫 次作『水車館の殺人』 粗あらすじ 超ネタバレ感想 おわりに 粗あらすじ 調度品の悉くが正十角形を模り、摩訶不思議な幽霊騒ぎや陰惨な怪奇事件が纏わりつく十角館を訪れた、大学の推理小説…

『誘拐殺人事件』S・S・ヴァン=ダイン【感想】ハードボイルドの勢いに押され蹴躓いた一作

The Kidnap Murder Case 1936年 ファイロ・ヴァンス10 井上勇訳 創元推理文庫発行 前作『ガーデン殺人事件』 次作『グレイシー・アレン殺人事件』 ネタバレなし感想 《謎探偵の推理過程》 ネタバレなし感想 さてさてファイロ・ヴァンスシリーズもいよいよ10…

『骨董屋探偵の事件簿』サックス・ローマー【感想】フー・マンチュー以外にも面白いのあるはず、もっと翻訳しませんか?

The Dream Detective 1920年発表 骨董屋探偵モリス・クロウ 近藤麻里子訳 創元推理文庫発行 サックス・ローマーという男 各話感想 『ギリシャの間の悲劇』 『アヌビスの陶片』 『十字軍の斧』 『象牙の彫像』 『ブルー・ラージャ』 『囁くポプラ』 『ト短調…

『ハイヒールの死』クリスチアナ・ブランド【感想】説得力は無いが確かに傑作の萌芽が在った

Death in High Heels 1941年発表 チャールズワース警部1 恩地三保子訳 ハヤカワ文庫発行 次作『ジュゼベルの死』(コックリル警部4) クリスチアナ・ブランドという女 ネタバレなし感想 《謎探偵の推理過程》 クリスティやクイーン、カーと並び称される推…

『フレンチ警部と漂う死体』F.W.クロフツ【感想】名作のポテンシャルはあり

Found Floating 1937年発表 フレンチ警部16 井伊順彦訳 論創海外ミステリ 前作『船から消えた男』 次作『シグニット号の死』 ネタバレなし感想 本作のテーマは王道中の王道、富豪の一家に巻き起こる親族間の争いです。人生の晩年に差し掛かり気力体力ともに…

『その裁きは死』アンソニー・ホロヴィッツ【感想】次もめっちゃ期待しているのは秘密だ

The Sentence Is Death 2018年発表 ダニエル・ホーソーン2 山田蘭訳 創元推理文庫発行 前作『メインテーマは殺人』 ネタバレなし感想 《謎探偵の推理過程》 おわりに ネタバレなし感想 『メインテーマは殺人』に次ぐ、ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ第二…

『テニスコートの殺人』ジョン・ディクスン・カー【感想】終わり良ければ全て良し

The Problem on the Wire Case 1939年発表 ギデオン・フェル博士11 三角和代訳 創元推理文庫発行 前作『緑のカプセルの謎』 次作 『震えない男』 “足跡のない殺人”を扱ったギデオン・フェル博士シリーズ第11作。怪奇や密室といったカーお得意の要素が無いの…

『四つの凶器』ジョン・ディクスン・カー【感想】どんな作り方でもカレーは美味しい

The Four False Weapons 1937年発表 アンリ・バンコラン5 和爾桃子訳 創元推理文庫発行 前作『蝋人形館の殺人』 パリ予審判事アンリ・バンコランシリーズ最終作がついに新訳で登場しました。1958年発表のポケミス版が全然手に入んないんですよねえ。この8…

『幸運の脚(幸運な足の娘)』E.S.ガードナー【感想】ミステリ史初の解決編?

The Case of the Lucky Legs 1934年発表 ペリー・メイスン3 中田耕治訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリー発行 前作『すねた娘(怒りっぽい女)』 次作『吠える犬』 ネタバレなし感想 「“幸運の脚の女性”マージョリーというモデルが詐欺にひっかかった」彼女…

『金蠅』エドマンド・クリスピン【感想】鋭いトリックのその先に

1944年発表 ジャーヴァス・フェン教授1 加納秀夫訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリー発行 次作『大聖堂は大騒ぎ』 初エドマンド・クリスピンということでまずは簡単に作者紹介から。 エドマンド・クリスピンという男 エドマンド・クリスピン(本名ロバート・…

『ガーデン殺人事件』S.S.ヴァン・ダイン【感想】予定調和が心地良い

1935年発表 ファイロ・ヴァンス9 井上勇訳 創元推理文庫発行 前作『カシノ殺人事件』 次作『誘拐殺人事件』 結論から言うと普通に面白かったです。「普通」というと失礼かつ曖昧な表現になってしまいますが、古き良き時代の雰囲気を保ったまま、ミステリにお…

『ハートの4』エラリー・クイーン【感想】ハート♡が邪魔

1938年発表 エラリー・クイーン13 青田勝訳 創元推理文庫発行 前作『悪魔の報復(報酬)』 次作『ドラゴンの歯』 本作は≪国名シリーズ≫と≪ライツヴィルシリーズ≫をつなぐ≪ハリウッドシリーズ≫……ってコレ、ここ何作かのエラリー・クイーンの感想でずっと言っ…

『読者よ欺かるるなかれ』カーター・ディクスン【感想】語彙力崩壊級の問題作

1939年発表 ヘンリー・メリヴェール卿9 宇野利泰訳 ハヤカワ文庫発行 前作『五つの箱の死』 次作『かくして殺人へ』 ネタバレなし感想 めちゃくちゃカッコいいですよねタイトル。響きも良い。「るる」の部分が特に最高です。でもオシャレなタイトルと違って…

『月長石』ウィルキー・コリンズ【感想】安心してください、めっちゃ面白いですよ

1868年発表 中村能三訳 創元推理文庫発行 衝撃的で視覚に訴える殺人事件や目を瞠るトリック、秀逸かつ説得力のある動機、予想を覆す意外な犯人。これらは推理小説にとって必要不可欠なものと言われています。一方で登場人物のリアリティやユーモア描写は付加…

『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ【感想】バイブルにしたい必読書

1944年発表 ノンシリーズ 中村妙子訳 ハヤカワ文庫発行 すごいすごいとは聞いていましたアガサ・クリスティ(メアリ・ウェストマコット名義)『春にして君を離れ』は確かにすごかった。 クリスティ自身が自伝の中で「自分で完全に満足いく一つの小説を書いた…