閉所愛好家の謎【問題編】

短篇ミステリを書いてみた。

きっかけはTwitterでフォローしているこいさんの謎解きクイズ。

こい on Twitter: "【FILE4:100万円で作家デビュー!】 はじめて見取り図というものを描いた(正解者10名で解答公開) #謎解きクイズ… "

めちゃくちゃ面白いのでみんなやれ。

で、変なところに火がついて勢いのまんま書いてみた。

全然推敲できてないし、一丁前に読者への挑戦状とか入れてるし、トリックが二番煎じかもしれないし、ちゃんとオチてるか不安しかないのだが、もうこれ以上考えてもどうにもならないので、出来上がったものを恥を覚悟で投稿してみる。

 

謎解きに挑戦してやろう(というか文章に朱を入れてやろう)という親切な方がいらっしゃったら、暇な時に読んでもらえると大変嬉しい。

解答はコメントでもTwitterのDMでもなんでも良いので気が向いた時に投げつけて欲しい。

 

 

 

 

閉所愛好家の謎

エレベーターは、牛歩の如き速度でのろのろと動いている。人二人がかろうじて乗り込めるほどの狭く古いエレベーターだった。自動扉の上部には製造業者を表す真鍮の札が付いているが、擦り減っていて製作所という文字以外は判別できない。押しボタンは1から7までの数字が縦に並んでおり、1の下に開閉それぞれのボタンが、7の上には緊急と書かれた赤色のボタンと、文字は不鮮明だが黄色のボタンが並列で配置されている。電光表示板の数字はちょうど6から7へと変わろうとしていた。

A「2階を通過するのに1分近くかかったんじゃないか?あと、この振動もどうにかならないのか?」照明以外に何もない染みだらけの天井を見上げながらAが愚痴をこぼした。

「どうにかって、私は業者じゃないんだから」たしかにこのエレベーターの振動は、あまりに不規則で乱暴なため、乗った人間を不安にさせる。私はと言えば、1年間毎日このビルに出勤しているのだ。慣れてしまったのだろう。

「それに」私は電光表示板を指さし言った。

「ここが終着だよ」

心をかき乱す振動音は徐々に収まり、やがて機械音が全て止まった。

A「で?めでたく俺たちは閉じ込められたってわけかい?」

古いエレベーターというものは、一つひとつの動作が遅いものだ。機械音が止んで10秒近く経って、ようやく自動扉はぎいぎいと音を立てて開き始めた。

Aはふんと鼻を鳴らして、まだ開ききっていない扉から飛び出した。

 

 

(十五分前)

私とAは、目の前に聳え立つ細長い物体を見上げていた。その建造物の正体は、私が勤める住宅設備メーカーの自社ビルだ。7階建ての細長いビルで、屋上部にはピラミッドの形状をした屋根が敷かれ、その中心部から避雷針がすっくと伸びている。ビルの間口は僅か4mほどしかなく、それでいて7階建てであるため、地域住民からは、遠くから見たその姿に因んで鉛筆ビルと言われている。

「何を考えて社長はこんな無愛想なビルを建てたんだか」

これは、Aがこのビルの入り口でつぶやいた一言だ。Aはエレベーターや上を指す三角形のボタンを押し、エレベーターの横に掲示されている各階の案内板を見ている。案内板によると、2階は一般客用の商談室であり、3階から6階は、営業、物流、経理、設計と部署ごとに分かれている。これから私たちが向かうのは、案内板の最上部に位置する7階の社長室である。

A「社長がいなくなったのはいつなんだ?」エレベーターの上三角印のボタンを押してAが質問してきた。

「一昨日の夜まではちゃんと確認が取れている。退勤前にどうしても話し合っておかないといけないことがあって、私が社長室まで会いに行ったんだ」

「その時はどんな様子だった?」

「どんな様子って、いつも通りだよ。社長はいつも、どの社員よりも早く来て、どの社員よりも最後に退勤することをモットーにしていてね。防犯装置の設定やビルの施錠も全部社長がやっていた。一昨日は、私と社長が一番最後まで残っていたはずだ。社長との会談は数分で終わって、私はすぐに退社したんだが、社長は修理しないといけない扉があるらしくて、その作業が終わってから帰る、と言っていたよ」

A「昨日出社してきた時にビルはちゃんと空いていたのか?」

「ああ、ちゃんと空いていた。いつも通り、社長が早めに出社したんだとみんな思っていた」

A「だが、昨日の退勤時になっても社長の姿が見つからず、それで不安に思ったわけか。」

「そうなんだ。昨日の夕方まで社員の誰も心配していなかったんだよ。なんてったって社長なんだから、好きな時に出社して好きな時に休めるんだからな。それに、今までも一日くらい急に休むことは多々あったんだよ。自宅にもいないし、可能性のある所は全て当たってみたんだ。もうどうしたらいいんだかわからないよ」

A「……。もう一度、社長室の捜査から始めてみよう」エレベーターがごうごうと音を立てて迎えに来た。

 

(現在)

「ちょっと変わっているんで、驚かないでくれよ」飛び出したAの背中に呼びかけた。

狭小スペースに建っているペンシルビルだけあって、社長室と言っても秘書が待ち構えていたり、心地よい待合室なんてものは無い。エレベーターから出ればすぐそこが社長室である。真正面に社長机があり、問答無用で社長と対面するような造りになっている。部屋の中心部に左右対称になるように配置された調度類はどれもセンスが良く、ブラウンを基調にしたアンティーク調の家具で統一されている。来客用のソファーも光沢のある革張りでつい腰を掛けたくなる代物だった。一方、床に敷き詰められた茶色とも灰色とも言い難いパイル地の絨毯は、染みや擦れで劣化し、調度類が稼いでいた高級感を大幅に損ねていた。

「なんだこの部屋は」嫌悪感を隠そうともせずAは悪態をついた。

もちろん社長机やソファを見て言ったのではない。Aの視線は部屋の左右の壁に乱雑に配されたドアとサッシ類を捉えていた。それらは壁に無造作に立てかかっているものもあれば、横倒しになっているもの、木の種類や色ごとにグラデーションを伴って並んでいるものまで様々だった。敢えて一つだけ規則というものが存在しているとすれば、エレベーターから出て右側が窓サッシ類、左側が扉、と分かれていることぐらいだった。

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5/25補足 左側、長方形に見える扉は壁に寄りかかっている扉を表している。

 

A「社長はいったいこの部屋をどうしたかったんだ?もしかして、ここを倉庫としても使っているとか?」

「いやいや、社長の個人的な趣味だよ。社長曰く、最初のうちは社長机と応接セットだけのこじんまりとした空間だったらしいんだよ。でも社長はもともと職人畑の人間で、自分で扉の修理や窓の調整なんかもやりはじめてしまってね。見てもらったらわかるように、当社の扉や窓のデザインは全て、社長自らデザインした唯一無二の商品です。お客様の希望をお聞きし、全てオーダーメイドで製造しております。高級木材の一枚板で作る最高品質の一枚から、監獄の入り口を連想させる重厚感あふれる鉄製扉までどんなご要望も叶えます」

A「おいおい、いつの間にか営業マンが憑依しているぞ。俺はまだ賃貸暮らしなもんでね。ひとつやふたつ興味をそそられるドアもあったが、ドアだけ買っても仕方ないしな。」

A「ひとまず、これだけドアや窓が置いてある理由はわかったんだが、そもそも窓のところはどうしてああなんだ?」

「あの窓は、ご覧のように船舶の丸窓だよ。面白いだろ?実のところあの丸窓は私のアイデアでね。名前も舷窓(げんそう)にちなんで幻想と付けたんだ」

A「いやいや、違うよ。窓が何のためにあるのかという話だよ。本来窓は外の景色を見るためにある。風を取り込んだり、解放感を味わうために窓というのは存在しているはずだ。それが、どうしてこの部屋には窓がないんだ?」

「窓ならそこにあるじゃないか」私は我が子である幻想を指さした。

「窓ガラスと窓サッシはたしかにそこにある。問題は、なぜ外の景色を見えるように取り付けていないんだ?ってことさ。何もない壁に窓がまるで絵画のように引っかかっているだけじゃないか。そもそも、この部屋には、元々備付の窓ガラスさえないんじゃないか?」

「そんなことか。それは社長の性癖というか障害というか個性の一種でね。ちゃんとした名前がついているかは知らないが、閉所恐怖症の反対みたいなもんさ。社長から詳しく聞いたことがあるんだが、大きく開けた場所に長時間滞在すると、まるで体がバラバラに飛び散ってしまうような感覚になるらしくてね。屋根裏部屋や机の下なんかの狭所にいると精神が安定するんだとさ」

「閉所愛好家ってやつか」

Aは、部屋を円をかいて歩きながら一つひとつの扉と窓を調べ始めた。やがて彼は、扉に貼ってある“修理中”“清掃”“廃棄”などと書かれたシールに指を沿わせた。窓についても一つひとつを開閉し、サッシの裏側まで子細に観察しているように見えた。

A「この“修理中”の扉はどこが悪いんだ?」部屋の隅にある緑色の扉の前でAは言った。

「どうも建て付けが悪いらしい。今みたいにしっかりと壁に固定してしまうと、ドア枠と扉自体が接触して開き辛くなるようだ。枠の交換でなんとかなると思うが、同じ製造ラインの扉が何種類かあるので、最悪の場合リコールが発生するかもしれない」

A「おいおい、さっきは客に合わせた唯一無二の扉とか言ってなかったか?」

「もちろん全てオーダーメイドは可能さ。だが、君が思っている以上に、世間の皆さまには独創性が足りてないのさ。いざオリジナリティのあるものを作りたくても、ここに来れば、カタログや写真を見て、結局は誰かが作った同じ物を買っていくんだ。一般的な扉のサイズというのも決まっているし、ドア枠だけは同じ製造ラインで大量生産する方がコストが削減できる」

A「聞きたくなかった話だな」Aはまるで、今の会話の記憶を頭から追い払おうとするかのように頭を振った。そして、ふいに天井に目を向けた。

A「さっき屋根裏部屋って言ったが、社長がここに屋根裏部屋を作ったという線はないのか?」

「屋根裏部屋とは言えないが、ほら、あそこに点検口があるだろ?天井部分には高さ50cmほどの空間があって、空調設備の配管や電気の配線などが張り巡らされているんだよ。たしかに人ひとりが横になるだけの十分な空間はあるけど、そんなところにはいないんじゃないか?」

A「いや、閉所愛好家だとすれば、可能性としてはあり得るだろう。念のため見ておこう。あと、外から見たときにピラミッドみたいな屋根が見えたんだが、あそこにはどうやって行けるんだ?」

「それは私もおかしいなと思っていたんだが、そもそもこのビルには非常階段はおろか階段すらないんだよ。だから屋上に行くとすれば、隣のビルから飛び移るくらいしか方法はないと思う」

A「いろいろと法律に引っ掛かりそうな建築物だな」同感だ。このビルは入り口だけを見れば一般的なオフィスビルだが、外観のほうは、窓の一切ないのっぺりとしたコンクリート造りで、階の継目すら判別できないので、何階建てかすらエレベーターに入るまでわからない。唯一視線を奪うものといえば、自動ドア横の隅に申し訳なさそうに居座る定礎板くらいだ。

「じゃあ、私は脚立かなにかを持ってくるよ」そう言って、私はエレベーターのボタンを押しに行った。

A「ちょっと待ってくれ。今思いついたんだが、閉所は屋根裏部屋だけじゃないぞ。地下室という可能性はないか?」

「カーペットをめくったらすぐにわかると思うが、下はコンクリートなんだよ。あと、ここが7階だってことを忘れていないかい?地下室が―それを地下室と言うなら―あったとしてもそれはただの6階の天井部だから、6階の点検口を覗いた方が早いと思うな」

A「わかった。なら、お前にそっち方面の調査をお願いしよう。各階の点検口や社長が好みそうな狭所を探してもらいたい」

「きみが『社長を見つけてやる』って言ったんじゃなかったかな?探偵さん?」

A「わかってるさ。宣言通り必ず見つけてやる。人一人の命が懸かっているんだからな。」

「なんだって?社長が死んでいるとでも言うのか?」エレベーターに目をやるとちょうど3階を通過したところらしい。

A「死んでいる、とは言っていないさ。だが、死にかけているかもしれない、とは言ってもいいと思う」

「わかった。すぐに社員総出でもう一度、1階から6階までの点検口や狭所スペース、壁の隙間やトイレなんかも徹底的に調べてみよう。きみはその間、何をするんだ?パイプでもふかしながら安楽椅子に座って沈思黙考か?」

A「俺はもう一度エレベーターに乗る。一度ビルを出て、このビルと居室の大体の寸法を測ってみたいんだ。このビルに隣接するビルが無いかも調べてみたい」

「ということは、隠し部屋ってことだな。たしか隣接するビルは無いはずだが、背面はよくわからないな」

A「1時間くらいで戻ってくる。それまでにこのビルの再捜索を頼む」

「1時間も寸法を測るのにかかるのか?」エレベーターの耳障りな機械音が目の前まで近づいてきて停止した。

A「いや。計測はすぐ終わるだろう。行きたいところがあってね。」

「どこなんだ?」

A「決定的証拠が眠る場所だよ」そう言い放って、Aはゆっくりと開いた自動ドアからエレベーターに乗り込んだ。

 

わたしは社長室の点検口を捜索した後、全社員(といっても十名だが)を招集し、Aから依頼されたビルの再捜索に関する指示を出した。しかし、結果は予想通り芳しくなく、改めて社長がいなくなったことを徹底的に証明しただけだった。

調査結果を報告する社員一人ひとりの目が不安と焦燥を物語っている。もうすぐAが出て行ってから1時間が経つが何の音沙汰もない。やむを得ないが警察に通報しよう。こんな時だからこそ、副社長の私がしっかりしなければならない。もし最悪の結果になったら会社はどうなるのか?顧客への対応は?社員の人生は?そんな疑問が次々に沸いては消え、私の思考を圧迫する。

こんな時だからこそ、副社長の私が、いや、息子である私が諦めるわけにははいかない。

私は社員に向き合ってこう告げた。

「今こそ、みんなの力と知恵を結集させるときです。社長は一昨日の夜から姿が見えなくなりました。最後に会ったのはこの私です。その時の社長には、不安や心配を表す何の兆候もありませんでした。部屋はいつも通りの状況で、自らの意思で失踪したり、外部の人間による誘拐の可能性も低いと思います。社長はご存じのとおり、大きな空間や開放的な印象を与える場所を嫌っていました。この会社とビル、あの狭苦しいエレベーターさえも愛していました。社長を、父を救うため、もう一度みんなの力を貸してください。何か、どんなことでもいい、気づいたことや気になったことがあれば教えてほしい。お願いします。」

みんなに思いは伝わっただろうか。顔を上げると、真剣なまなざしで私を見つめる一人の聡明そうな青年と目が合った。あれは、たしか……。だめだ、どうしても名前が思い出せない。

あなた「あのう……。もしかすると、あそこかもしれません」

期待に心拍数が跳ね上がるのを感じた。その場にいた皆の視線が若者に集中した。

 

読者への挑戦状

解くべき謎は社長はどこに居るのか?という一点のみ。現時点で、この謎を解くための材料はほとんど揃っている。「ほとんど」と言ったのは、未だ調査へと旅立ったAによる報告が無いからに過ぎない。「あなた」はこれまでに出揃った手掛かりをもとに推理し「どこ」に社長が居るか指し示すことができる。「あなた」が「わたし」に仮説を提示している間に、以下のようなAによる私信が届いたとしても、それは真実を揺るがすようなことは決して無い。もし「あなた」が言葉に詰まったり、ただ一つの真実に対する自信が揺らいだとき、Aの私信が背中を押すことだろう。

 

至急

何度もお前に電話をしたんだが、全然つながらなかったので、取り急ぎFAXでわかったことだけ伝えておく。

まず、部屋の大きさとおおよその壁の厚さ、そしてビル全体の寸法を比べてみたが、壁に不自然な厚みは全くなかった。壁の中にいるという考えは捨てたほうがいいな。

また、ビルの左右、背面に隣接する建築物も無い。隣のビルに飛び移ろうにも、まずこの鉛筆ビルから屋外に出る手段が無いので不可能だと思われる。唯一、ビルの背面にだけ、しかも3・5・7の奇数階らしき場所に2m四方の切り込みのような線が見られたが、建築時にできた痕跡かもしくは点検口程度の用途だと思われる。少なくともビルから脱出するための出口にはならないだろう。

俺は今、役所にきていて、鉛筆ビルの建築図面の写しを交付してもらっている。これが間違いなく証拠になるはずだ。

最後にもう一つ。あとで謝るつもりだが、勝手に警察と消防に通報させてもらった。十分程度で到着するだろう。俺もすぐに戻る。

追伸 図面の交付手数料400円とこのFAX通信費はお前が払えよ。