『月光ゲーム Yの悲劇’88』有栖川有栖【感想】大学いっときゃよかった

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表紙のおじさん誰?(めっちゃ失礼してたらどうしよう)

 

1989年発表 江神二郎1 創元推理文庫発行

 

 国内ミステリの傑作を少しずつ読んでいく企画。島田荘司綾辻行人ときてお次は有栖川有栖に挑戦です。

 幸か不幸か、いくら国内ミステリの傑作とはいえ、あらすじやメイン探偵のキャラクターなんかも何も全然知らないんですよね。とはいえ本作はタイトルにエラリー・クイーンの名作『Yの悲劇』が入っていることからもたぶん王道のダイイングメッセージものなんでしょう。かの名作とは違った解釈で、ズバッと読み手を斬ってくれるはずです。

 

 まずはプロローグの火山噴火のシーンから勢いがあります。唐突にたくさんの登場人物が出てきてやや混乱しますが、既に事件が起きていること、火山噴火にまきこまれ進退窮まる危機的状況に置かれていることがわかります。

 第一章に「戻り」舞台は事件が起こるまで遡ります。英都大学推理小説研究会のメンバー4名が矢吹山へキャンプに行くことと、その場で他の大学のメンバー13名と出会い、一緒にキャンプを楽しむことなど舞台設定が少しずつ明らかとなります。

 

 推理小説研究会の面々を主導に行われる推理ゲームから、メンバーの一人の突然の脱落、第一の噴火と自然災害による特殊なクローズドサークル成立までテンポよく物語は進んでいきます。

 ここから解決編まで怒涛の勢いで、ありとあらゆる種類の手がかりらしきものをばら撒きながら事件が起こっていくわけですが、この物量と熱量がとにかくすごい。

 一つひとつのヒントが、絶対に犯人たった一人を指し示していると、わかるのはわかる(作者が自信満々でこっちを見ているのもわかる)んですが、何一つピンとこないのは私がとことんポンコツなせいでしょうか。

 

 本書では複数の種類のハプニングが起こるわけですが、事件ごとに違った趣向の手がかりが残されているのも楽しめるポイント。アリバイがない事件ではダイイングメッセージ、アリバイがある事件では暗示的な小道具、フィルムの入っていないカメラ、などなど多岐にわたります。もちろんこの全てに解決編で適切な解が与えられ、たった一つの真実へと導かれます。

 以上、論理的な解決という意味においては、ほぼ完ぺきと言っていいミステリでした。だから、再読すれば、もっと良さがわかるはず……。

 

 

 

ネタバレを飛ばす

以下、個人的にしっくりこなかったところです。

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本書を読んでからお読みください。

《謎探偵のグチグチ》

 

●犯人の動機について

 犯人の人物像を物語の中で掘り下げない中で、愛する人を奪われた復讐という動機は全く納得できない。もちろん読者は作者(神)の采配に納得などする必要などないが。

 で、犯人の動機になる失踪した彼女の生死が最終盤にならないとわからないのもご都合主義に感じてしまう。もちろん、彼女が失踪と同時に死亡、もしくは失踪せずに死亡してしまった場合、恋仲にあった犯人に焦点が当たってしまうし、彼女がいなくなることで、ダークホースとしての役割も与えることができる。ただ、論理的なミステリを目指すのであれば、一度退場した人物が犯人というのはありえない(また集団に紛れ込むのはあり)し、彼女に誘導する意味があまりないように思える。

 大文字と小文字を使い分ける超巧妙なダイイングメッセージだけで十分通用すると思うのだが。あと、名前の読み間違いの件も余計に感じる。

 

 

ルナのルナルナした記述はなんだったのか。

 

●余談

 本書の悲劇とは、犯人と彼女に降りかかったものではなく、狂人に殺された被害者たちに起こったこと。

 

 

 

      ネタバレ終わり

 

 以上は、本当に緻密に計算された、論理的な解決を中心に据えた本作だからこそあら探ししちゃう(悔し紛れ一本背負い)自分の後ろ暗い部分。

 もう一つ、これは自分が悪いんですけど、大学を出てないので、なんかキャイキャイしている大学の雰囲気というか、この学生ノリみたいなのが終始キツくてですね……。解説にもある「青春小説」の部分が、ものすごくしんどかったです。

 高校生くらいで読んでいたら、もしかしたら自分も大学に行ってミス研なんかに入ってたのかな。いや、絶対入っていただろうなと……。なんか、今、口の中が苦いです。

では。