アガサ・クリスティ

『検察側の証人(戯曲)』アガサ・クリスティ【感想】最上級の欺しをあなたに

1953年初演 アガサ・クリスティ原作 早川書房発行 本作は、1933年にアガサ・クリスティが刊行した短編集『死の猟犬』に収録された短編小説を戯曲化した作品。1953年にロンドンで初演されて以降、映画化や舞台化など様々な形で長年にわたって、題材にとりあげ…

『ヘラクレスの冒険』アガサ・クリスティ【感想】元ネタを知らずとも十分楽しめる名作

The Labours of Hercules 1947年発表 エルキュール・ポワロ 田中一江訳 ハヤカワ文庫発行 前作『ホロー荘の殺人』 次作『満潮に乗って』 物語は、私立探偵業の引退を目前にしたポワロのアパートから始まる。引退後はカボチャ栽培に勤しむと告げるポワロに、…

『春にして君を離れ』アガサ・クリスティ【感想】バイブルにしたい必読書

1944年発表 ノンシリーズ 中村妙子訳 ハヤカワ文庫発行 すごいすごいとは聞いていましたアガサ・クリスティ(メアリ・ウェストマコット名義)『春にして君を離れ』は確かにすごかった。 クリスティ自身が自伝の中で「自分で完全に満足いく一つの小説を書いた…

『死が最後にやってくる』アガサ・クリスティ【感想】女王にナメられている

1945年発表 歴史ミステリ? 加島祥造訳 ハヤカワ文庫発行 一つ言えるのは、古代エジプトミステリ……ではない、ということ。 本書の事件は紀元前二千年頃のエジプト、ナイルの河畔にあるシーブズ(古代エジプトの都市でいまのルクソール)で起こります。といっ…

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティ【感想】クリスティ中期の集大成的大傑作

1944年発表 バトル警視シリーズ 三川基好訳 ハヤカワ文庫発行 クリスティの創造した名探偵たちの一人、バトル警視が探偵役を務める長編。彼は本作以前にも『チムニーズ館の秘密』『七つの時計』『ひらいたトランプ』『殺人は容易だ』で登場しているが、いず…

『ホロー荘の殺人』アガサ・クリスティ【感想】傑作だけど好きにはなれない

エルキュール・ポワロ 中村能三訳 ハヤカワ文庫 粗あらすじ 長閑なホロー荘に集った、秘めた想いを抱えた登場人物たち。彼らが演じる悲劇を最前列で鑑賞したのは、名探偵エルキュール・ポワロだった。死者が口にしたダイイングメッセージが指し示すのは犯人…

『動く指』アガサ・クリスティ【感想】隠れた傑作

1943年発表 ミス・マープル3 高橋豊訳 ハヤカワ文庫発行 2019年初クリスティは、ミス・マープルシリーズ第三作。 当ブログでも度々言っていることだが、筆者ぼくねこは海外ミステリをほぼ発表年順に読んでいる。所持している1910~1930年代(約250冊)のミス…

この絵から何を読み取るか【感想】アガサ・クリスティ『五匹の子豚』

発表年:1942年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ21 訳者:桑原千恵子 前回の記事『書斎の死体』に引き続き、半年ぶりのエルキュール・ポワロは、今まで彼が解決してきた事件とはひと味違う難事件。 なんと16年も前に解決してしまっ…

ありきたり、を逆手に取った名作【感想】アガサ・クリスティ『書斎の死体』

1942年発表 ミス・マープル2 山本やよい訳 ハヤカワ文庫発行 前作『牧師館の殺人』 次作『動く指』 半年ぶりのクリスティはミス・マープルの第二作。 マープルものの一作目『牧師館の殺人』を読んだのが3年以上も前なので、作品に馴染めるかどうか少々不安…

クリスティの円熟を感じさせる一作【感想】アガサ・クリスティ『白昼の悪魔』

発表年:1941年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ20 訳者:鳴海四朗 ほぼ半年ぶりのポワロものの長編です。 去年は月一ポワロを目標にしていたのですが、1940年代に挑む前にそれ以前の積読がどんどん増えてきて…ちょっとペースダウ…

今はただ長編を読みたい【感想】アガサ・クリスティ『黄色いアイリス』

発表年:1932~1939年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ポワロ、パーカー・パイン、ミス・マープル、ノンシリーズ 訳者:中村妙子 コレっていう作品が無いのは惜しいですねえ… 各話感想 『レガッタ・デーの事件』パーカー・パイン よくある紛失事件。で…

『オリエント急行殺人事件』【ネタバレなし感想】線香花火のような

©2017Twentieth Century Fox Film Corporation 公開から1ヵ月近く経った1月某日、ついにアガサ・クリスティ原作の映画『オリエント急行殺人事件』を鑑賞してきました。 前日までに、原作もサラッと読み返し、復習もバッチリ。 で感想なんですが、タイトル…

クリスティ作品をざっくり型で分類してみた【感想】アガサ・クリスティ『死人の鏡』

発表年:1937年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ 訳者:小倉多加志 各話感想 ざっくりクリスティ作品分類 ありきたり型 モンスター型 ロマンス型 アブノーマル型 クリスティ型 本作はエルキュール・ポワロものの中編が4編収められ…

クリスティはタイムトラベラー?【感想】アガサ・クリスティ『NかMか』

発表年:1941年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:トミー&タペンス3 訳者:深町眞理子 トミー&タペンスの軌跡 当記事のタイトルについて ミステリとして 何か違うことを言おう、違うことを言おう、と悩み過ぎた結果がこれです。 正直、講談社から出版…

粗の数々もそれすら愛おしい【再読感想】アガサ・クリスティ『スタイルズ荘の怪事件』

発表年:1920年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ1 始めて本作を読んだのが、随分昔のことのように感じます。この度、当ブログの企画の一つで記事同士の体裁を整えるために、改稿を加えようと思ったのですが、前回が思った以上に中…

一冊で二度おいしい短編集【感想】アガサ・クリスティ『パーカー・パイン登場』

発表年:1932~1934年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:パーカー・パイン うんこれは良いな~ほんと良いです。 クリスティの短編集は、『リスタデール卿の謎』『死の猟犬』『謎のクィン氏』とちょっとオフホワイト(笑)な作品も含まれる短編集を読んで…

クリスティの復讐成るか!?中期の意欲作【ネタバレ感想】アガサ・クリスティ『愛国殺人』

発表年:1940年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ19 今日はですね。当ブログでは珍しく、最初っから最後まで完全にネタバレありでお送りしたいと思います。なので、当然のことながら未読の方は本書をまず読んでから進んでください。…

杉なのに花粉症にならないヒーリングミステリ【感想】『杉の柩』アガサ・クリスティ

発表年:1940年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ18 さっそくタイトルから何言ってんねん、とツッコみを受けそうですが心から言っています。これは癒されます。 あらすじは不要でしょう。開始早々法廷を舞台に容疑者として裁かれる…

謎解きも容易だ【感想】アガサ・クリスティ『殺人は容易だ』

まずは粗あらすじ 《謎探偵の推理過程》 発表年:1939年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ノンシリーズ(バトル警視登場) まずは粗あらすじ イギリスの植民地マヤン海峡に駐在していた元警官ルークは、偶然乗り合わせた列車で親切そうな老婦人と出会う…

どうか神様こんなクリスマスになりませんようにアーメン【感想】アガサ・クリスティ『ポアロのクリスマス』

発表年:1938年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ17 「思いきり兇暴な殺人を」 というリクエストを受けて作られた本作は、その期待に応えるだけの力作にはなっています。多少ハリボテ感がしないでもないですが… まずは粗あらすじ ク…

悪党は殺人者か独裁者か【感想】アガサ・クリスティ『死との約束』

発表年:1938年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ16 前年に発表された傑作長編『ナイルに死す』の影に隠れてしまってはいますが、本作だって負けてはいません。 まずは 粗あらすじ エルサレムに滞在中のポワロが耳にしたのは、殺害…

クリスティ自画自賛の雄編【感想】アガサ・クリスティ『ナイルに死す』

発表年:1937年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ この作品の中心になるトリックは興味深いものだろうと私は考えています。 筋も非常に念いりにつくりました。 “外国旅行物”の中で最もいい作品の一つと考えています。 主要人物たち…

さらばヘイスティングズまた会う日まで【感想】アガサ・クリスティ『もの言えぬ証人』

粗あらすじ 《謎探偵の推理過程》 発表年:1937年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ14 ヘイスティングズ大尉は、エルキュール・ポワロを語るうえで、絶対に欠かせない登場人物です。もちろん、ポワロシリーズにおける、ワトスン役と…

死の猟犬よ、おまえは何が言いたいのだ【感想】アガサ・クリスティ『死の猟犬』

死の猟犬よ、おまえは何が言いたいのだ 各話感想 私はこれが言いたかった 発表年:1933年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ノンシリーズ 本作は怪奇幻想がテーマの推理短編小説である。 こう聞くとさらりと頭に入ってきます。 そうか、そういえばクリス…

クリスティ先生処方の精神安定剤【感想】ー『リスタデール卿の謎』アガサ・クリスティ

発表年:1934年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ノンシリーズ 本作は実に多彩な短編集です。 解説では、本作は三つのタイプに分類できる、と書かれていました。 そこで私もそのタイプを参考に座標図を作り、どんな傾向の作品が多いか分析してみました。…

巧みな舞台設定と小道具の数々が光る中期の名作【感想】アガサ・クリスティ『ひらいたトランプ』

17/4/26 改稿 発表年:1936年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ13 簡単に作品の特徴を書き出してみます。 まず魅力的なシチュエーションで起こる大胆な殺人事件を発端に、ポワロを含む豪華な探偵たちが競演して推理します。そして、…

性格や人格から推理する人にはオススメ【感想】アガサ・クリスティ『メソポタミヤの殺人』

発表年:1936年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ12 まずは粗あらすじ 看護婦のエイミー・レザランは知人の紹介と推薦により、考古学者の妻ルイーズ・ライドナーを看護することとなった。ライドナー夫妻がいるバグダット近郊の遺跡で待…

謎のクィン氏【感想】アガサ・クリスティ

発表年:1930年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:クィン氏 先に粗あらすじ 70手前のおじいちゃんと、正体不明のクィン氏が織りなす、幻想的でロマンティックな短編集 サタースウェイト氏の人柄については、読み進めている内に自然と把握できると思うので…

ブラック・コーヒー【感想】アガサ・クリスティ

発表年:1930年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ 案外、飲み物がタイトルに入った推理小説って少ないんじゃないでしょうか? 推理小説とはいっても、本作はアガサ・クリスティによって書かれたエルキュール・ポワロものの戯曲(推…

おしどり探偵【感想】アガサ・クリスティ

発表年:1929年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:トミー&タペンス2 まずは簡単にあらすじを 1922年の『秘密機関』で初登場し、めでたく結ばれた二人は、7年の月日を経て再登場を果たします。作中でも現実同様6年の月日が経っており、冒険好きの二人(…