クリスティ先生処方の精神安定剤【感想】ー『リスタデール卿の謎』アガサ・クリスティ

発表年:1934年

作者:アガサ・クリスティ

シリーズ:ノンシリーズ

 

本作は実に多彩な短編集です。

解説では、本作は三つのタイプに分類できる、と書かれていました。

 

そこで私もそのタイプを参考に座標図を作り、どんな傾向の作品が多いか分析してみました。縦軸は取り扱われる事件の犯罪性・悪質性の大きさで、上に行けばいくほど悪質で卑劣な犯罪です。もちろんその最上位は殺人に他ならなりません。一方下に行けばいくほど犯罪性は薄れてゆき、最下位には全く事件性はないが不可思議な状況が置かれます。

横軸は物語が辿る結末がハッピーエンドか否かで、右側に行けばいくほど物語はめでたく収まり、爽快感や安堵感も増す傾向に。逆に左側に行くと、結末はバッドエンドでモヤモヤとした蟠りが心の中に生じ重苦しい気持ちになる傾向になります。

 

そこに収録作品十二作をあてはめてゆくと、次のようになりました。

もちろんどの作品がどの傾向にあるかは明かしていないので安心して見てほしいと思いますが、先入観すら抱きたくないという読者は、すっ飛ばしてくれても大丈夫です。

 

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ご覧の通り犯罪の軽重は上から下まで幅広く取り扱われており、作品の多彩さを物語っています。同じく結末のバリエーションも、ハッピーエンドからバッドエンド、また捉え方によって印象がガラリと変わる興味深い作品まで、こちらもしっかり粒がそろっているのではないでしょうか。しかも左下の範囲【犯罪性も薄いうえになおかつ結末もバッドエンド】という救いようもない鬱展開の短編がないのも本作を安心してオススメできる理由の一つです。

 

また同様に、明確にハッピーエンドだと言える作品の方が多いので精神衛生上健全です。ハッピーエンドと言ってもそれは謎の解決という意味だけではなく、登場人物の幸福や成功といった教養小説的な側面もあり、そこには当然クリスティの得意とするロマンスや冒険が絡んでくるので、疲れて傷ついた心には調度良い精神安定剤になるに違いありません。

 

そして、悪く言えばありきたりなストーリー展開に飽きてしまった読者のためには、ちゃんとカンフル剤としてやや毒気の強い作品が挿入されています。

それらの作品は、文字通り強心剤のように刺激的な作用をもたらす特異な短編たちなので、ある程度副作用を覚悟して読むのが良いかもしれません。

 

仕事・家事・育児に心身ともに疲れているあなた、また目標や希望を見失い退屈な日々に飽き飽きしているあなたには、是非アガサ・クリスティ先生の処方箋通りに短編を服用することをおススメします。

ハートにぴったり適合する作品に出会えること請け合いです。

 

 

なんか薬に例え過ぎて、逆によくわからなくなりました?すいません。

1話1話感想を書くのもいいんですが、ちょっと野暮な気がするんですよね。

…ちょっとそこ、「書く力がない」とか言わない!

 各話の紹介は、いつの日かまた再読の時まで。

何年先になることやら…

 

 

では!