シリーズ2作目の呪いは存在する【感想】F.W.クロフツ『フレンチ警部とチェインの謎』

 

発表年:1926年

作者:F.W.クロフツ

シリーズ:フレンチ警部2


シリーズものの第2作目というのは、それが映画にせよ本にせよ、かなり重要な作品になると言っていいと思うのです。

特にクロフツのようにそれまでノンシリーズの長編ミステリを書き続けていた作家にとっては言わずもがなでしょう。

ところが、本作フレンチ警部ものの2作目は到底純粋なミステリとは言い難い作品です。

 

ちなみにフレンチ警部1作目の感想はコチラ

tsurezurenarumama.hatenablog.com

フレンチ警部を好きになるか嫌いになるかは、たぶん一作目からしっかり分かれる。

 

本作の構成はしっかりと前後半に分けることができ、前半は退役軍人チェイン氏の元に訪れる謎の人物を皮切りに、徐々に得体のしれない輩に絡まれ、想像もつかない謎に巻き込まれてゆく様が淡々と語られます。

そして後半でようやく登場するフレンチ警部が、チェイン氏が巻き込まれた事件の再捜査と謎の核である暗号解読に携わってゆきます。

 

前半は冒険風味、後半になって暗号解読中心のミステリという具合に、全体が「フレンチ警部」と「チェインの謎」に完全に分離されているため、ミステリと思って読むと肩透かしを食らってしまうに違いありません。

また、暗号解読を手に取ってみても、登場はある程度序盤ですが、その全貌が明かされるのが終盤になってからなので、作者が本気で読者に暗号を解かせるつもりがあったのかどうかも疑わしいところです

肝心の暗号の質はといえば、私自身果敢にも無駄に何枚かコピーして線を引いたり、意味もなく折り目を付けてみたりと色々挑戦してみたのですが、さっぱりわかりませんでした。

別にものすごーく感心したり、唸らされたりとかは全くありませんが、前作『フレンチ警部最大の事件』に続き暗号解読の謎を作中に取り込むあたり、アリバイトリックやリアルな警察捜査が持ち味と言われるクロフツの、推理小説に対する貪欲な姿勢が垣間見えます。

 

キャラクター造形においては、どんどん底抜けのおバカにしか見えなくなってくるチェイン氏を筆頭に、何の考えなしに二つ返事で協力者になるヒロインや銭ゲバ私立探偵など濃いメンツが揃っていますが、やはり全体的に知性が足りなすぎます。長編ミステリには到底耐えきれない登場人物たちでしょう。

 

そんなことだから、「ジュブナイル止まり」という評されるのも仕方がない気がします。別にジュブナイル作品を貶しているわけじゃなく、むしろ本作は最終盤の血腥い展開さえ除けば、全体的にジュブナイル向けのドタバタ冒険喜劇の要素がふんだんに盛り込まれており、児童向けの抄訳でこそ本領を発揮する作品なのかもしれません。

大人の方も気張らずに軽い読み物として十分楽しめると思いますが、やはり次作はがっつりとミステリを読みたいものです。

 

 

そういえば今思い出したのですが、本作は、なぜか「わたし」なる人物の語り口で始まり、その後全く「わたし」が登場することの無いまま、最後の一文でまた「わたし」が締め括っています。

手元にあるフレンチ作品を数冊ぺらぺらと捲ってみたら、全て三人称で書かれていたので、今のところ本作だけだと目されるのですが、わたし」とはいったい誰なのでしょうか?単純に考えるなら作者クロフツだろうと思うのですが、そこには何の根拠もないし、何の意味もないように思えます。

さらに本作の「チェインの謎」自体が“チェインの冒険の現実の発端”という書き方をされている点も気になります。

今後再びチェインは登場するのか。

もしかしたら本作は、子供向けの冒険ミステリなどではなく、ミステリアスな余韻を残す特別な一冊なのかもしれません…

 

では!