発表年:1930年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:エルキュール・ポワロ
案外、飲み物がタイトルに入った推理小説って少ないんじゃないでしょうか?
推理小説とはいっても、本作はアガサ・クリスティによって書かれたエルキュール・ポワロものの戯曲(推理劇の為に書かれた脚本)です。
実は今回読んだのは、チャールズ・オズボーンなる人物によって小説化されたものだったので、ちゃんと戯曲版を読んでから感想を書こうと思い、昨日、ついにブックオフオンラインで意気揚々と取り寄せたところ、↓が届きました。
表紙違うだけで中身一緒やないか!笑
ちゃんと調べないといけませんね…
ということで、戯曲版はまたご縁があれば読むとして、本作の感想といきましょう。
粗あらすじ
科学者サー・クロード・エイモリーから捜査依頼を受けたポワロが彼の邸宅を訪れると、既に事件は発生した直後だった。新型原子爆弾の化学式が書かれた極秘書類が消え、死体が一つ出現した。一見全てが疑わしく見える登場人物たちの中から、ポワロは灰色の脳細胞を駆使し真相を暴くことができるのか?
小説化された、という点においては、戯曲版との比較をしていない以上評価はしにくいのですが、台詞が少し説明口調なのを除けば、かなり忠実にクリスティの文体に近づけて書かれているのではないかと思います。
ヘイスティングズが女に弱すぎる、とかラストのポワロの演出がくどい(戯曲なのでアリかなとは思う)、とかは読者によって受け取り方は様々だと思いますが、中でもおおっと唸らされたのは、事件の発端のシーン。
ここでは、実際に照明を消すシーンが登場するのですが、改めて本作が推理劇の為に書かれた戯曲であることを思い出してください。
真っ暗闇で聞こえる、微かな声や金属音、何かの破れる音などの聴覚に訴えかける演出が、舞台上ではなく推理小説内でも見事に劇的効果を高めています。
それらの異音は、舞台効果を狙ったものだけではなく、実際に謎を解き明かすための手がかりになっている点も見逃せません。
今回は劇ではなく本なので、事件が起こっているその瞬間をインプットするためにも、ページを遡って読み返すことをおススメします。
ただ、真っ暗闇だったとはいえ、全登場人物が同じ部屋の中で何が起こったのかわからない状態自体に非現実感があるため、多少の違和感は感じるところです。
また、仕方ないとはいえ、謎解きのクライマックスについても、かなり劇よりの演出になってしまっており、“推理小説”としては物足りないかもしれません。
本作の見どころは、推理小説の醍醐味といったトリックや謎解きの瞬間は次点で、パパ・ポワロが、心から苦悩する人々には優しく手を差し伸べ、事件の解決と同時に悩み事まで解消してくれる、そんなポワロらしい演出にこそあるのでしょう。
そういえば本作には、ポワロシリーズの一作『エッジウェア卿の死』に関する記述がチョコっとありました。念のために注意喚起しておきます。
では!