今はただ長編を読みたい【感想】アガサ・クリスティ『黄色いアイリス』

発表年:1932~1939年

作者:アガサ・クリスティ

シリーズ:ポワロ、パーカー・パイン、ミス・マープル、ノンシリーズ

訳者:中村妙子

 

コレっていう作品が無いのは惜しいですねえ…

 

各話感想

レガッタ・デーの事件パーカー・パイン 

よくある紛失事件。でも、はいはい、いつものやつね、と軽視してはいけません。

今までのクリスティの短編集を思い出してみると、ほとんどの短編集で貴金属の紛失(盗難)事件が1作は登場します。ざっと思い返しても6~7作はあったと思います(貴金属を除けば10以上はあるんじゃなかろうか)。

同じ紛失(盗難)という題材で10以上もの全く違うトリックを創案することだけでもスゴイこと。

特に本作は結構王道、というか直球勝負の作品なので、本作の1作目を飾るに相応しい作品なのではないでしょうか。

 

バグダッドの大櫃の謎ポワロ

急にヘイスティングズが再登場します。

う~ん長編『カーテン』まで出会えぬとばかり思っていたのにまさかのサプライズ。嬉しいやら悔しいやら…

作品の中身は、一人の美女を中心とする殺人事件。ハウもフーもホワイもどれもがけっこうイイ線行ってると思います。

ダンスフロアだったり、東洋の大櫃など雰囲気のある小道具があるだけに中長編で読みたかった気も。

 

あなたの庭はどんな庭?ポワロ

本短編集では一番良質なトリックが使用されている事件です。

トリックの特性や種明かしの演出もポワロの個性とピッタリ合致しています。

 

ポリェンサ海岸の事件パーカー・パイン 

これぞパーカー・パイン色たっぷりの男と女の話。それだけに、短編集『パーカー・パイン登場』を読んでいるかいないかが作品を楽しめるポイントかも。

先に該当短編集を読むことをオススメします。

 

黄色いアイリスポワロ

本書の看板作品は、実はクリスティのある長編の原型だそうで…片方を読めば片方の楽しみを欠いてしまうのはなんとも悔しい。

しかも短編を見る限り、結構インパクトあるトリックで行われる事件なので、記憶から消える可能性も少なそう。(長編にするほどか…とは今のところ思ってます)

 

ミス・マープルの思い出話ミス・マープル

ひっさびさのミス・マープルでした。ブログを見返してみると2年以上も前でした。

それなのに読み始めると、すんなり設定が入ってくるのはよほどクリスティのプロット作り・キャラクター設定が堅牢だからでしょう。

ただ謎とその解決はなんだかう〜ん…。

犯人の属性は余計かなあと思ったり。

 

仄暗い鏡の中に

本作で唯一のノンシリーズの怪奇幻想小説。正直、短編集『死の猟犬』に収めるのが適当だと思われる良質な幻想小説です。

「鏡」というミステリではよく登場する小道具にファンタジーだけでなくちゃんとミステリとして仕事をさせるのがクリスティのうまいところ。

 

船上の怪事件ポワロ

クリスティの某長編や某短編を思い出させるプロットですが、それらとはまた違った角度で書かれているので新鮮さすら感じます。ちょっとやり過ぎな気もしますが…

伏線もしっかり用意されているので、文章上では齟齬も無し。

 

二度目のゴングポワロ

クリスティの中編集『死人の鏡』でも触れましたが、あちらと全く同じプロット・トリックで書かれているので感想は省略します。やはり、あっちの方がボリュームも説得力もあって好みです。

 

最後に

本短編集から何か、と思っていたのですが、あくまでも本作は日本独自に編纂された短編集ということで、どうもチグハグな感じが否めません。どういった基準で選んだかも定かじゃなし、統一感も0

まずはポワロもの、パーカー・パインもの、ミス・マープルものの短長編をいくつか読んでからチャレンジする方が良いでしょう。

 

では!