2016-01-01から1年間の記事一覧

鑢(やすり)【感想】フィリップ・マクドナルド

発表年:1924年 作者:フィリップ・マクドナルド シリーズ:アントニイ・ゲスリン大佐1 探偵役のアントニイ・ゲスリン大佐は、第一次世界大戦を生き抜き、情報部の情報部員としても活躍し大佐まで昇りつめた頭脳明晰な人物。 その後、叔父の遺産を相続したゲ…

ゴールデン・フリース【感想】ロバート・J・ソウヤー

発表年:1990年 作者:ロバート・J・ソウヤー シリーズ:ノンシリーズ 倒叙ミステリというと『古畑任三郎』や『刑事コロンボ』のように、まず犯人の視点で犯罪が行われ、その後も犯人視点で物語が進む形が一般的です。 本作もその多分に漏れず、ごく一般的な…

(当時の)推理小説最大傑作【感想】E.C.ベントリー『トレント最後の事件』

Trent's Last Case 1913年発表 フィリップ・トレント1 大久保康雄訳 創元推理文庫発行 本作は、古典的名作の一つに数えられ、恋愛要素との見事な融和や意外性のある結末などが高い評価を受けているそうですが、近年の読者の評価を見ていると「恋愛要素もチ…

華麗な帰還で彼の偉大さ痛感【感想】『シャーロック・ホームズの帰還』アーサー・コナン・ドイル

発表年:1905年 作者:アーサー・コナン・ドイル シリーズ:シャーロック・ホームズ6 1893年の『シャーロック・ホームズの思い出』で惜しむらくもこの世を去ったシャーロック・ホームズですが、10年の歳月を経て奇跡の生還を果たします。 本書は1903年から19…

ソルトマーシュの殺人【感想】グラディス・ミッチェル

発表年:1932年 作者:グラディス・ミッチェル シリーズ:ミセス・ブラッドリー グラディス・ミッチェルの作品は、残念ながら邦訳されているものが少なく、デビュー作でさえ未翻訳です。 1929年から1984年という長きにわたって、特異な探偵と異質な謎を中心…

厨二心くすぐる魔犬伝説の裏にホームズあり【感想】『バスカヴィル家の犬』アーサー・コナン・ドイル

発表年:1901年 作者:アーサー・コナン・ドイル シリーズ:シャーロック・ホームズ5 まず、雰囲気がたまりませんねー。ダートムアの陰鬱な池沼地帯を舞台に、魔犬伝説に準えた不気味な事件の幕が上がる、というなんとも厨二心くすぐる題材にワクワクします…

ブラウン神父の知恵【感想】G.K.チェスタトン

発表年:1914年 作者:G.K.チェスタトン シリーズ:ブラウン神父2 前作では、チェスタトンのトリック創案の妙に舌を巻きましたが、本作では風刺のきいたアイロニーや逆説めいた警句などが多く目につきます。 もちろん多種多様な謎とその解明方法には、驚かさ…

塩沢地の霧【感想】ヘンリー・ウェイド

発表年:1933年 作者:ヘンリー・ウェイド シリーズ:ノンシリーズ 軍人としてまた治安判事としても活躍したヘンリー・ウェイドは、イギリス本格推理小説の黄金時代を代表する作家の一人である。 彼の作風の一つとして挙げられるのが、リアリズムに則った警…

生涯ベストテンの一角【感想】アントニイ・バークリー『第二の銃声』

発表年:1930年 作者:アントニイ・バークリー シリーズ:ロジャー・シェリンガム5 じつは、本作に挑むまでに処女作の『レイトン・コートの謎』しか読んでいなかったため、何作か飛ばして本作を読むのには若干の躊躇いがありました。 そんな躊躇いを消し去っ…

救いの死【感想】ミルワード・ケネディ

発表年:1931年 作者:ミルワード・ケネディ シリーズ:ノンシリーズ 作者ケネディの華々しい経歴については、インターネット等でも容易に検索できることから省略するとして、イギリスの推理作家クラブであるディテクションクラブの初期メンバーとして、アン…

雲なす証言【感想】ドロシー・L・セイヤーズ

発表年:1926年 作者:ドロシー・L・セイヤーズ シリーズ:ピーター・ウィムジィ卿2 本作の見所はなんといっても、前作『誰の死体?』以上にウィットに富んだ会話の応酬と、ピーター卿のキャラクターでしょう。 シリーズおなじみの執事バンターや友人パーカ…

シャーロック・ホームズの思い出【感想】アーサー・コナン・ドイル

発表年:1892〜1893年 作者:アーサー・コナン・ドイル シリーズ:シャーロック・ホームズ 延原版の本書では、初版本で収められていた『ボール箱』は「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」に、『ライゲートの大地主』は「シャーロック・ホームズの叡智」に収…

カリブ諸島の手がかり【感想】T.S.ストリブリング

発表年:1929年 作者:T.S.ストリブリング シリーズ:ヘンリー・ポジオリ教授1 日本ではなかなか聞く機会が少ないストリブリングという作家ですが、彼は弁護士や雑誌記者の顔をもち、南アメリカやヨーロッパでの生活を経て、アメリカ南部や黒人問題を取り上…

ベンスン殺人事件【感想】S・S・ヴァン=ダイン

発表年:1926年 作者:S・S・ヴァン=ダイン シリーズ:ファイロ・ヴァンス 本作は、アメリカにおける推理小説史の幕開けと目される作品ですが、はたして華々しい幕開けとなったのでしょうか。 『ベンスン殺人事件』で登場したファイロ・ヴァンスは、美術品・…

レイトン・コートの謎【感想】アントニイ・バークリー

発表年:1925年 作者:アントニイ・バークリー シリーズ:ロジャー・シェリンガム 1925年に、当初“?”というどこか悪ノリともとれるような名義で発表された本作ですが、発表されるや否や瞬く間に評判となり、彼と彼の創造した素人探偵ロジャー・シェリンガム…

牧歌的な舞台と裏腹に美しくも惨烈な悲劇【感想】イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』

17/4/27やや改稿 発表年:1922年 作者:イーデン・フィルポッツ シリーズ:ノンシリーズ 古典推理小説の中でも、特に高名な作品であることに違いありません。本作は、江戸川乱歩によりベスト10の1位に掲げられた実績も相まって、日本での知名度は高く、ミス…

12分の12すべてがアタリ【感想】G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

発表年:1911年 作者:G.K.チェスタトン シリーズ:ブラウン神父1 さあ今回は、ブラウン神父の記念すべき第一作短編集『ブラウン神父の童心』を紹介します。 シャーロック・ホームズ最大のライバルとしてその名を知っている読者も多いでしょう。 ホームズは…

テンプラー家の惨劇【感想】イーデン・フィルポッツ

発表年:1923年 作者:ハリントン・ヘクスト(イーデン・フィルポッツ) シリーズ:ノンシリーズ 本作は、ハリントン・ヘクスト名義で書かれたイーデン・フィルポッツの長編推理小説です。 イギリスの名家テンプラー家の人々を襲う、不可解な連続殺人事件。…

伝説はここから始まった【感想】『シャーロック・ホームズの冒険』アーサー・コナン・ドイル

発表年:1892年作者:アーサー・コナン・ドイルシリーズ:シャーロック・ホームズ3 本作は、1891年から1892年にかけてイギリスの月刊誌『ストランド・マガジン』に連載されていたシャーロック・ホームズものの短編を集めた短編集です。 この作品を持ってコナ…

ドロドロ&ドンヨリで決して爽快感はない【感想】イーデン・フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』

発表年:1924年 作者:ハリントン・ヘクスト(イーデン・フィルポッツ) シリーズ:ノンシリーズ 作者のイーデン・フィルポッツは、もともとイギリスの田園小説や歴史小説を得意とする作家だったそうで、推理小説に挑戦したのも、なんと60歳を超えてからだったと…

推理小説論①

今日は陳腐な回になるかもしれませんが、どうぞお付き合いください。 自分なりに推理小説という大きな小説のジャンルを分類し、傾向や特徴を理解し、歴史を勉強するという意味でも、文に起こして書いておこうと思います。 ただ当然のことながら全ての推理小…

怪盗紳士ルパン【感想】モーリス・ルブラン

発表年:1905年 作者:モーリス・ルブラン シリーズ:アルセーヌ・ルパン1 日本人にとってルパンという名は、決して聞き馴染みの無い名前ではないはずです。もちろん、モンキーパンチ原作のコミック「ルパン三世」のおかげもあるでしょうが、老若男女にわた…

二人の素人探偵という設定が斬新【感想】A.A.ミルン『赤い館の秘密』

発表年:1921年 作者:A.A.ミルン シリーズ:ノンシリーズ 推理小説初心者の方にも安心してオススメできる一冊ですねー。 A.A.ミルンと言えば、あの「くまのプーさん」の原作者ですね。 かたや愛する息子に捧げた児童書、かたや敬愛する父に捧げた推理小説、…

薔薇荘にて【感想】A.E.W.メイスン

発表年:1910年 作者:A.E.W.メイスン シリーズ:ガブリエル・アノー1 俳優・劇作家・下院議員・諜報部員(スパイ)など多くの顔を持つメイスンは、推理小説だけでなく、冒険小説・スパイ小説でも数々の名作を世に送り出した小説家でした。 小説家としてデビ…

誰の死体?【感想】ドロシー・L・セイヤーズ

発表年:1923年 作者:ドロシー・L・セイヤーズ シリーズ:ピーター・ウィムジィ卿 6歳でラテン語を、15歳でフランス語とドイツ語をマスターしてしまった天才女流作家。 そう本日紹介するドロシー・L・セイヤーズのことです。 彼女は人気・実力ともに、アガ…

樽【感想】F.W.クロフツ

発表年:1920年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:ノンシリーズ 本作の感想を述べるにあたって、まずは重要なキーワードである『樽』について説明しておくべきでしょう。 『樽』と聞くと、私は真っ先にドンキーコングを連想します。ドンキーコングの世界で樽は…