厨二心くすぐる魔犬伝説の裏にホームズあり【感想】『バスカヴィル家の犬』アーサー・コナン・ドイル

 

 

発表年:1901年

作者:アーサー・コナン・ドイル

シリーズ:シャーロック・ホームズ5

 

   まず、雰囲気がたまりませんねー。ダートムアの陰鬱な池沼地帯を舞台に、魔犬伝説に準えた不気味な事件の幕が上がる、というなんとも厨二心くすぐる題材にワクワクします。

 

   解決するのはもちろんシャーロック・ホームズで語り手はワトスン医師。お得意の変装や超人的推理も存分に発揮されていて、読みごたえも十分あります。

   また、全4作ある長編小説のうち本作だけが1部構成となっているため、過去の回想や犯人の心理が省略され、謎の発起から解決までがワトスン医師の観点で丁寧に書かれてあるのもGood。さらに全体で300P弱のページ数の為さらさら読めるのも良いですね。

 

   実際に存在するとされる、ダートムアの黒い魔犬伝説がモチーフになっているため、解説でも書かれている通り叙景描写には目も瞠るものがあります。

   しかしながら、ダートムアと言えばイーデン・フィルポッツという固定観念を持っていた私は、牧歌的でほのぼのとしたダートムアをイメージしていたため、この不気味で濃霧立ち込めるダートムアには少々驚かされました。同じ場所を舞台にしていても時期や題材、そして作者が違えばこうも印象は変わるのか、読んでいて実感できます。

 

   本作の中身については、超有名作品ながら幸運にもどんな媒体のものにも触れずに読み始めることができたのですが、幸か不幸か先入観だけは一丁前に抱いていたので、ある意味で裏切られました。

   よくよく考えてみると、シャーロック・ホームズの世界では、謎とはそれこそ「意外に」シンプルで明瞭なものです。説明されればなんだ、で終わるような僅かな証拠から真相を見つけ出すのがホームズだったはずで、そこにはアッと驚く大仕掛けは必要ありません。

   池沼地帯に潜む謎の人物あたりは、中盤以降章を形成する、ワトスンの日記や手紙という形式上なかなかアクロバティックな展開ですが、それでもやはり真実はシンプル。いつものシャーロック・ホームズ譚が繰り広げられることに無上の喜びを感じながらも、魔犬への恐怖からワトスンと同じように「ホームズよ、早くきてくれ」と思うようになります。そして、ホームズの登場と同時にテンションは最高潮に達し、興奮冷めやらぬまま大団円を迎えます。

   ホームズ再登場のタイミングや、解決までの流麗な進行からは、コナン・ドイルの筆力の巧みさをひしひしと感じることができます。

 

 

では!