僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

テンプラー家の惨劇【感想】イーデン・フィルポッツ

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発表年:1923年

作者:ハリントン・ヘクスト(イーデン・フィルポッツ)

シリーズ:ノンシリーズ


本作は、ハリントン・ヘクスト名義で書かれたイーデン・フィルポッツの長編推理小説です。

イギリスの名家テンプラー家の人々を襲う、不可解な連続殺人事件。警察の手を容易くすり抜けて凶行を続ける、謎の殺人者の正体とは?そして犯人の驚愕の目的とは!?というのが簡単なあらすじです。

 

大量殺人を扱う作品を紐解くためには、事件と事件の間を結びつける“失われた環(ミッシングリンク)”を見つけることが必要となりますが、今作では、それは容易に発見できるでしょう。

今作の感想を述べるのはかなり難しいです。頭に思い浮かぶどんな言葉もネタバレになってしまいます。

よって、大まかに良かった点と悪かった点だけ列挙して、残りは【超ネタバレ】とでも区別して書いておこうと思います。

良かった点

  1. 事件発生のタイミングとそのセンテンスがスリリングで、殺害方法も多様な点。これは、読者を飽きさせずに物語に引き込み、「次は誰なのか?」という不気味さを醸し出すことにも成功している。
  2. 作者が持つ、道徳・宗教・善悪など様々なジャンルの思想・主義についての広範な知識が登場人物たちによって読者に提供される点。この点は、読者によっては、冗長で退屈との意見にも繋がるかもしれませんが、私は楽しめました。さらに言えば、それら全てが事件を結びつける伏線なのではないか?というのはいささか深読みしすぎでしょうか。
  3. 動機。ありえないのかありえるのか、絶妙なバランスを保って設定された動機。

 

以下不満な点

  1. アンフェアな記述
  2. 探偵(警察)の杜撰な捜査
  3. 終盤の告白部分。

以下【超ネタバレ】になるので、未読の方は、読了後にお越しください。しかも、国書刊行会が発行した、世界探偵小説全集の解説を見た後なら見る必要も無いかも…

 

 

 

満点1については、言わずもがな、真犯人のウソの行動が三人称視点で書かれていることです。

これは筆者が意図的に読者をペテンにかけていることにほかならず、アンフェアと批判されても仕方ない点です。

しかし、三人称視点は別称“神視点”とも言われることから、あながち本事件にのみ適用するならば、アンフェアではなく、“神の視点”ゆえの気紛れなのかもしれません。この点は、私も読んでいて「変だな?」と疑問に思ったのですが、

一方で、解説にもある通り、フェアな点については気づきませんでした。

冒頭の一文にこのように書いてあります。

 

一族の中の思いがけない急死も、多くの死者を出したこの悲劇の遠因といえるだろう。

 

この「一族の中の思いがけない急死」に関連する人物が登場人物の中にいたことに気付けば、前述のアンフェアな記述に関与されることなく、謎は解けていたのです。

この序文にして最大のヒントを提供するあたりには、フィルポッツのミステリ作家としての技量の高さを認めざるをえません。

 

不満点2の杜撰な探偵(警察)の捜査については、解説にもある擁護の意見に賛同する点もあるでしょう。

しかしながら、探偵役のミッドウィンターを除く警察の面々には、呆れ果てます。

殺害による利害関係を調べれば、嫌疑がかかる人物は特定できるはずだし、本書でもその可能性が提示された段階で、監視を付けるなり対策を打てば、早期に事件の全容は解明され、白日の下に晒されていたことでしょう。

 

続いて不満点の3は、探偵が犯人から告白の手記を受け取り、14,15章で読者に紹介される部分についてです。なぜ明かす?(笑)明かさ不の誓いを守ったんじゃなかったの?

もし初めから探偵の視点で話が進み、最終章でも、なんらかの理由で(思い浮かばないけど)読者にのみ真相が明かされるならいいのですが、三人称視点で、真犯人とミッドウィンターだけが知り得る真相をサラッと書かれれば、「じゃあ、お前は誰なんだよ」

視点さえ考慮すれば、アンフェア問題も解消でき一石二鳥だったはずなのに、やはり神の所業か(笑)……

 

話は前後しますが、

良かった点の3動機について。

 

大半の推理小説における殺人の動機は、利己的(悪)な目的のために行われる殺人(悪)です。しかし、本書の殺人計画を発起させる動機は、その「結果だけ」を切り取ってみれば、誰がどう見ても善行でした。

善のために悪を行う。

この不条理な動機に、納得まではいかなくとも、現実に起こり得る事象として、結構印象深い動機です。

しかし不平を挟む余地はあります。

真犯人の思想には、人類に対する決定的な矛盾がありました。

それは人類に対する「あきらめ」です。

終盤の犯人の告白書の中で、殺害された人物たちが、いかに犯人が抱く神々しい目的にそぐわなかったか述べられていますが、犯人に被害者たちに理解を求める努力があったことは認められません。

たしかに可能性は低かったのかもしれませんが、それは彼ら、ひいては人類への「あきらめ」であり、目的がいくら神託を得た比類ない善行であったとしても、利己的で独善的な犯罪であることに違いはないのです。

 

 

最後になりますが、サー・オーガスティンの口癖「メナンドロスも言っている」が気になりすぎて、いったいどんな奴だ、と調べてみたところ、関西人である私にも身近な人物であることが明らかになったので、紹介しておきます。

 

メナンドロス(紀元前342~291年)古代ギリシアの作家。アテナイの将軍で政治家の父を持つ。哲学者・博物学者にも弟子入りし、作家である叔父の影響もあって自身も劇作家を目指した。彼の日常の生活に対する鋭い観察や心理分析は、多くの格言を生んだという。そんな彼の代表作は…「新喜劇」である。

 

では!