2019年読了ミステリベストテン

 2019年も一年間ありがとうございました。今年はブログ活動もかなり失速してしまい、12月31日現在まだ感想書きが20冊も溜まっています。こんな現状でまとめるのもどうかと思うのですが、とりあえず今年読んだ50冊の中からベスト10を発表しておきます。

 

2019年読了ミステリベストテン

第10位『途中の家(中途の家)』(1936)エラリー・クイーン

 作者の著名な国名シリーズとライツヴィルものの間に発表された一作は、美しいパズルミステリと楽しいエンタメ作品の良いとこ取りをしたような作品。サブキャラクターにも魅力があり、ミステリ初心者にもオススメできるミステリです。

 

第9位『ホロー荘の殺人』(1946)アガサ・クリスティ

 イヤミスと言う程ではありませんが、苦みと毒気が含まれた胸がムカつく一作。ミステリとしては、様々な要素が贅沢に盛り込まれた秀逸な作品だと言えますが、題材と物語が異質なので、精神力、体力ともに満たされているときにオススメします。

 

第8位『ゼロ時間へ』(1944)アガサ・クリスティ

 クリスティが創造した隠れた名探偵・バトル警視の活躍する作品というだけでもイチオシなのですが、ミステリに組み込まれたハイセンスなメロドラマが注目に値します。また、冒頭の意味ありげな挿話や、病理的犯罪者の影など枝葉にも注力されていて、最初っから最後まで楽しめる傑作ミステリです。

 

第7位『曲がった蝶番』(1938)ジョン・ディクスン・カー

 ギデオン・フェル博士シリーズ9作目ということで、単品では中々オススメしにくい一作ですが、満点と言っていい解決編を含め、衝撃的な真相とそこに至るまでの過程・演出が珠玉です。怪奇描写があるので怖がりな人は気を付けたほうが良いかも。

 

第6位『ニッポン樫鳥の謎』(1937)エラリー・クイーン

 国名を冠してはいるものの≪国名シリーズ≫には入らず、ニッポン要素が多少ちぐはぐなところがあるなど中途半端が否めない作品ですが、探偵の立ち位置やドラマチックな物語にベストテンの一票を入れたくなるミステリ。ハウダニットにだけ重きを置いてみると、その特殊性や意外性だけはトップクラスです。

 

第5位『緑のカプセルの謎』(1939)ジョン・ディクスン・カー

 『曲がった蝶番』に次ぐ作品ですが、立て続けにベストテン級でした。登場人物が集められてさあどうぞ殺人事件でござい、みたいなミステリのことを劇場型ミステリと勝手に呼んでいるのですが、まさに劇場型ミステリの完成形と言うに相応しい一作です。毒殺に関する作者の研究結果を発表したかのような“毒殺講義”だけでも読む価値があると思います。

 

第4位『あなたは誰?』(1942)ヘレン・マクロイ

 心理学を絡めた傑作ミステリ、では収まりきらないポテンシャルを持った一作。人間の心理の脆弱さがトリックとプロットに直結している点では、他に類を見ないほど優れた作品です。バークリーが殺人を犯す犯人にフォーカスしたミステリを生み出したなら、マクロイは心理が人に殺人を犯させる必然性を説いているのかも。

 

第3位『人形パズル』(1944)パトリック・クェンティン

 巻き込まれ型探偵の極致として、ミステリファンには押さえておいて欲しい作品です。サプライズの弱さを指摘されることが多いようですが、素晴らしいのは、それ一編に物語と謎解きの手がかりが忍ばされた特殊な解決編です。シリーズ作品として読んで欲しいので『迷走パズル』『俳優パズル』と続けて読んでください。

 

第2位『試行錯誤(トライアル&エラー)』(1937)アントニー・バークリー

 犯人の心理描写に重心を置いた作風のバークリー後期の作品だからか、なんとなく彼がミステリでやりたかったことの究極形のような気もします。痛快なユーモアと想定外のサプライズが詰まった雄編ですが、いかんせん入手難易度が高い。もし古本屋等で見かけたら迷わず手に取ることをオススメします。

 

第1位『メインテーマは殺人』(2017)アンソニー・ホロヴィッツ

 100年先も読まれ続ける超傑作、と当ブログでも大絶賛の一作が本年のベスト作品です。前回読んだホロヴィッツの作品『カササギ殺人事件』も相当面白かったのですが、あちらは本年第11位。本作の方がより王道で、正々堂々と真正面からぶつかってくる感じが好みでした。ホームズとワトスンというミステリの伝統を継承しながら、化学技術が進歩し情報社会となった現代でも通用するミステリを作ってくれただけで感謝の気持ちが溢れます。

 

 

 冒頭でも言ったように今年は感想書きが全く進まなかったのですが、ベストテン以外にもオススメしたいミステリはたんまりあります。

 まず『魔法人形』(1937)

 “オーストラリアのカー”の異名をとるマックス・アフォードによる長編ミステリです。シリーズ探偵である数学者のジェフリー・ブラックバーンの特性が、博識で、ヘビースモーカーで、怒りっぽくて、とキャラがたっているのもポイントです。

 続いては、『鍵のない家』(1925)

 E.D.ビガーズの創作したチャーリー・チャン警部シリーズ第一作です。こちらはまだ感想が書けていないのですが、ハワイを舞台にしたミステリ、というだけでも読む価値はあるというもの。登場人物の一人が同い年だったということもあって、人生観や心境が重なってめちゃくちゃぶっ刺さりました。

 最後は、ポワロを始めとした名探偵が登場するパロディものの傑作三人の名探偵のための事件』パロディものの枠組みから飛び抜けるサプライズのパワーがあります。ミスディレクションの手法に施された仕掛けもそこらの推理小説に無い巧さがあるので、ポワロ・ピーター卿・ブラウン神父を知らない読者にもぜひトライして欲しい一作です。

 

 ミステリ外ではハードボイルド小説の嚆矢『血の収穫』(1929)やSF小説の金字塔『星を継ぐもの』(1977)、ミステリの元祖と言われる『月長石』(1868)、傑作山岳冒険小説『北壁の死闘』(1980)などの歴史的作品にも出会えました。中でも『星を継ぐもの』と『北壁の死闘』は圧巻で、SF小説と冒険小説にも手を伸ばしみたくなる超傑作でした。今年一番の収穫です。

 

短編小説は4冊しか読んでいませんが、その中でも『ドイル傑作集Ⅰ/ミステリー編』『探偵術教えます』はお勧めできます。シャーロック・ホームズを生み出したコナン・ドイルの、卓越したストーリーテリングの腕前を堪能できる『ドイル傑作集』はまだ「Ⅰ」作目。まだまだ多数の未読短編があるので、これからも当ブログで紹介するつもりです。

 『探偵術教えます』はパーシヴァル・ワイルドによる抱腹絶倒の短編ミステリ。通信教育で探偵を目指す青年のドタバタコメディなのですが、ちゃんとミステリを構築したうえで、連作短編集としてのストーリーも満点なので、万人にオススメできる一作です。

 

おわりに

 ブログの更新度が落ちたのは、家の購入が決まって打ち合わせが増えたことと、会社のボスが変わって、全然時間が作れなくなったせいなんですが、人の所為にしちゃあいけませんね。

 読書熱とブログ熱は全然下がっていないつもりなので、来年も引き続き「僕の猫舎」は海外ミステリ中心に感想記事を更新します。一年間読んでいただきありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします!

良いお年を!!

 

では!