『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ【ネタバレなしなし感想】完璧なイギリスのミステリ

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2016年発表 山田蘭訳 創元推理文庫発行

 

    フォロワーの方にオススメしていただいた(おねだりした)一作です。2018年末の主要なミステリランキング全てにおいて1位、と大傑作であることは折り紙付き。Twitter界隈のリアルな評価も高く、読む前から既にブログで脱帽&脱帽する気配は漂っていました。

    事前予習した『ストームブレイカー』の効果は全くなかったのですが、とにかく面白かったです。たぶんオススメされていなければ、十年か二十年後にしか読まなかった作品なんでね…「今」の傑作海外ミステリを紹介していただいた、こいさん@Gyaradusには深く感謝。

 

 

本文(ネタバレなし)を飛ばす

 

    さて、本書の紹介といきたいのですが…たぶんこの記事を読んでいる方ってのは、ほとんどが『カササギ殺人事件』読了者なわけでしょう?これだけタイトルを総なめにした傑作ミステリなんだから、「なにそれ?知らない」なんて読者はいてないんですよね?ね?

 

え?いる?

 

まだ私読んだことない!って?

 

    そうですか。なら安心してください。今回は「展開バレ」的な部分も含めて、終始ネタバレせずに感想を書いてみたいと思います。当記事を読んで「どんな話だかよくわかんなかったけど面白そう」と思っていただければ幸せですし、「本当に何の話なのかわからなくて怖い」と思わせてしまったらすいません。

 

 

    まず、本書の帯が既にネタバレです。未だ手に取っていない方はくれぐれもご注意ください。本屋に行ったら何も見ずに、赤と青の2つ並びになった文庫本を手に取りましょう。ちなみに私が所持している本の帯を、参考までに載せておきますが安心してください。もちろん修正済みですし、本書を紹介するのにものすごく大切なことが書いてあります。

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「完璧」な「イギリス」の「ミステリ」

 

    必要な情報はこれくらいで十分。※もちろん帯が伝えたい内容とはまるっきり違います。

    海外の古典ミステリの中にはまず間違いなく、傑作・名作と呼ばれるに相応しい長編ミステリが数多くあるわけですが、その中に「完璧なミステリ」と評される作品はほとんどありません。ただ本書に限って言えば「完璧」と評価しても差し支えないと思っています。

    では、何が「完璧」なのか。それは、徹頭徹尾貫かれた物語の構成、筋≒プロットです。100点満点中100点。一つのミスもなく、齟齬も瑕疵も無い、完全無欠のプロット。次のページを捲るとどんな展開が待っているのか、読者の興味を常に高いレベルで維持させる全美なプロット。この一点においては、今まで読んできた拙い海外ミステリ経験(約250冊)の中でも、文句なしにトップクラス。それが『カササギ殺人事件』です。

 しつこいようで申し訳ないのですが、プロットが文句のつけようがないほど完璧なおかげで、上下二巻というボリューミーな分量にもかかわらず、終始面白さを損なうことなく(個人的には上巻≧下巻)高いリーダビリティを維持しながら読了させてしまう、という良い意味での“強引さ”はなんとなくわかっていただけたでしょうか。この時点でボンヤリでも「へえ~完璧なプロットかあ…面白そう」と思っていただければ御の字。ぜひ書店でお買い求めください。

 

 

 「こいつほんと何言ってんのかわかんねえな」というそこのあなたのために、もう少しだけ絞り出したいと思います。

    それは、作者が構想15年という長年月をかけて創造した、ミステリという、間口の広いジャンルの特性を最大限に生かした特殊な仕掛けです。

    時は2018年。ミステリの勃興から150年以上の月日が経ち、偏にミステリと言っても数多の細分化されたミステリのジャンルが生み出されています。クラシカルなフーダニットから、ミステリでありながらミステリを拒むと言われる奇書なるミステリまで、その種類は千姿万態です。

    そして、種類の多さに比例して、現代の読者の好みも様々。クラシック・ミステリファンと奇書愛好家が必ずしも両極にいるわけがありませんが、本書『カササギ殺人事件』には、読者の“好みの差”という枠に囚われず(対象を絞らず)に、全てのミステリファンを楽しませる仕掛けが施されています。

    ただ、決して本書が唯一無二というわけではありません。似たような形態のミステリは、過去にいくつもあったでしょう。しかし、ここでまた前半に戻ってきます。この特殊な仕掛けを「完璧なプロット」の中でやり遂げてしまったことこそ、歴史に残る圧倒的な傑作だと呼ばれる所以なのかもしれません。

 

 あと書いておきたいことはほんの少しです。あとちょっと我慢してください。本書の功績は、歴史的な超傑作を生みだしたことだけではないのかもしれません。

    ディープなミステリファンだけでなく、ライト層の、いや、そもそも海外文学すらあまり手に取らず、ましてやミステリにも興味がない、という新しい読者までもミステリの沼に引きずりこむことにも成功している点にあります。

    それは、作者アンソニー・ホロヴィッツの類稀なる才能を活かした絶妙なアレンジと、長い歴史と伝統を持つミステリに対する熱烈で純粋な愛の結晶です。

    この点は、ミステリ愛好家たちのために書かれたとしか思えない、サービス精神満載の友情出演、ミステリ用語のお手本となるような仕掛け、数えきれないほどの伏線などのギミックを除けると尚明瞭になります。愛着の沸くキャラクターやロマンティックな人間ドラマ、グロテスクな人物造形、シンプルでありながら深遠な愛や友情。それら自体の描写も、物語への結合も全てが高品質です。読まれるべくして読まれている、そんな必然性をも感じる超傑作でした。

 

 

         本文終わり

おわりに

 今回は無駄にネタバレに配慮しながら書いてきましたが、そもそも本書の最初の1ページを読むだけで、ミステリファン云々関係なく違和感しか生じず、ネタバレなんて関係なくなってきます。でも大丈夫。何も気にせず、戸惑わず、考えずに読み進めましょう。

    もし、裏表紙のあらすじも読まず、公式ホームページの商品紹介も読まず、強いて言えばこの記事の本文でさえ読まずに本書を手に取れたなら、あなたは幸せです。

 一人でも多くの読者が、ピュアな気持ちで『カササギ殺人事件』に触れることができるように心から願っています。

では!