発表年:1936年
作者:パトリック・クェンティン
シリーズ:ピーター・ダルース1
まずは初挑戦と言うことで作者の紹介からいきましょう。
実はパトリック・クェンティンというのはペンネームで、しかもエラリー・クイーンと同じように複数人が携わっていたようです。いや、クイーン以上と言っていいでしょう。
実際には4人の人物が単独ないしは2人1組で書いており、その組み合わせや書かれた時代によって作風がガラリと変わるのが特徴のようです。
シリーズ、ノンシリーズともに数多くの作品の中で、一番と言ってもいいほど有名なシリーズが本作を1作目とするパズルシリーズです。探偵役はニューヨーク・ブロードウェイのプロデューサーであるピーター・ダルース。
現段階で紹介できるのはここまでで、未だ読んでいない方は、シリーズの第一作と言う意味ではもちろんのこと、本作の衝撃度と言う観点からも、まず読んでから、以降の感想を読んでほしいと思います。
というのも、探偵役の立脚地がまず見事だからです。
私が推理小説を読む上でかなり重要視している項目の一つに“事件が起こる舞台”があります。いわゆるクイーン探偵小説批判法における「7.舞台」なのですが、本作の舞台は、私にとってかなり衝撃的でした。
舞台とミステリの組み合わせと言う一点においては『そして誰もいなくなった』と同じ水準で素晴らしいと思うのです。
それらは、オリジナリティという点で興味深いのはもちろん、探偵役の演劇プロデューサーであるピーターがそこにいる、という事象自体が奇妙で不思議な空気を生み出しています。
この手の現場に漂いがちな陰気で異常な雰囲気があまりなく、むしろ愉快とも言えるほど前向きな登場人物が多いのも特徴でしょう。しかしながら、有事の際に起こるパニック現象には、ジェットコースターのようなフワッとした恐さが垣間見え、全体的にユーモアを感じる筆致ながら、そのギャップも楽しめる作品になっています。
また謎の発端や、事件に用いられる小道具の数々も「舞台」があるからこそ成立するもので、「舞台」を中心に推理小説に必要な要素が相乗的に効果を高めているのも見逃せない点です。
さらに犯人当てに関しては、管理者側と管理される側、という二極化したシンプルな登場人物たちにも関わらず、的を絞り込ませない見事な構成が秀逸です。
解決編の二転三転する展開はミステリの醍醐味を十分堪能でき、結果的には、巧みなミスリードも相まって、探偵も読者も同時に騙されるというかなり貴重な経験もできます。
また最終盤で明かされる一つの事実は、本作の趣向を根本から覆すもので、衝撃度はもちろんアイデアも新鮮。
かといってトリッキーすぎる傾向はほとんど無く、手がかりの配置も巧妙で、300P弱という少なめのページ数の中に様々な要素が見事に融和しながらも不必要な描写もない、バランスのとれた傑作です。
では!