『星を継ぐもの』J・P・ホーガン【感想】ガチガチだけど初心者にも優しい傑作SF

1977年発表 池央耿訳 創元SF文庫発行

 

    ガチガチのSFですよ。

    正直、SFものの映像作品ならスター・ウォーズを始め(真のSF好きには罵倒されそうですが)好きなんですが、本となるとちょっと抵抗がありました。もともと星新一の子ども向けショートショートが大好きで、とくに『きまぐれロボット』は本がボロボロになるくらい読んだ記憶があります。あれくらいライトなSFなら読めるのに、いかんせん用語に弱い…

    今まで読んだ堅めのSFはロバート・J・ソウヤー『ゴールデン・フリース』で、これはあの黄金の羊毛亭さん(詳しくは当ブログのリンク集をご覧ください)の名前の由来にもなった傑作SFミステリです。殺人を扱った『ゴールデン・フリース』と違い、本書はゴリゴリ&ガチガチにSF。

    プロローグの巨人と人間?との会話からして、よくわからん、このままのペースでいくと脳が爆発するぞ、と思いきや、ものの50頁弱で舞台はロンドンの物理学者ハント博士へと移り、全世界を揺るがす驚愕の謎の解決のため、立場や国を超えて協力し合う専門家たちの熱いドラマへと収束してゆきます

 

    謎の詳細はここでは明かさず“死体の謎”と言うだけに留めます。自分もあらすじすら見ずに、何の先入観も持たずに、本書こそSFミステリの最高傑作だと熱く語る方々に背中を押してもらってチャレンジできました。

 

    ミステリの観点から一つ。

    殺人をテーマにしたオーソドックスなミステリでは、基本的に犯人探しやトリックの解明に重きを置くことが多く、ある程度自分の知性レベルの内側で物語は進行します。アッと驚く真相でも、解決編で探偵に細かく説明してもらえれば納得できることが多いはずです。

    しかしSF(とくにハードSF)となるとそうはいきません。登場人物たちが語る一つひとつの言葉の意味がわからず、事実だと言われても理解できないことがほとんど。実行可能かどうかリアリティにも一定の水準のものが求められ、説得力と論理性、フェアプレイ精神まで必要とされる本格ミステリと違い、あくまでもフィクションの枠組みの中で物語を展開するSF作品は、そのスケールの大きさや難解さのせいでどうも取っつきにくいイメージを持たれるのも事実です。

    それらのハードルがあるにもかかわらず、本作ではごくごくシンプルな謎を中核に、単純明瞭ながら驚愕の真相を用意し、SF初心者にも寄り添った造りになっています。特に、難解な説明を行う際には、新聞記事のような体裁をとり一般人にも解り易いよう配慮があるのも巧みです。

    もちろんSF作品の醍醐味である、未知のものを追い求める浪漫や、難題に一丸となって立ち向かう熱い人々のドラマは備わっています。

    そして待ち受ける、全てにちゃぶ台返しを食らわせるような皮肉なラスト。ネタの性質上何回も読み返すような作品ではないかもしれませんが、一度読み終えた後、もう一度ハナから読むときの感動は確実にあります。

 

    本作の続編『ガニメデの優しい巨人』も良作らしいので、機会があれば読みたいのですが、他にももっとSF初心者向けの作品でオススメがあれば挑んでみたいので、詳しい方ご教示ください。

では!