僕の猫舎

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『探偵術教えます』パーシヴァル・ワイルド【感想】万人にオススメできる自信作

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1947年発表 通信教育探偵ピーター・モーラン 巴妙子訳 ちくま文庫発行

 

    ニューヨーク生まれの奇才パーシヴァル・ワイルドが1947年に上梓した、抱腹絶倒の連作短編推理小説。作者の実体験?を元に生み出された素人迷探偵Pピーター・モーランが作中を所狭しと駆け回り、搔き乱し、暴れ狂う。

    P・モーランはマクレイ家のお抱え運転手でありながら、通信教育で探偵講座を受講中。探偵通信教育学校の“主任警部”とは電報でやり取りをしながら、学校の専用テキストを購入し探偵術を学んでいます。そんなモーランの周りには、不思議と事件の方から集まってくるのですが、そこはモーラン、いっぱしの探偵気取りで学んだばかりの探偵術を駆使し事件に首を突っ込んでいきます。

    その暴走と、騒動そして解決まで容赦なくコメディをぶっこんでくるあたりは、劇作家としても客を楽しませる術を心得ていたワイルドらしい筆致と言えます。

    以下各話感想ですが、お堅い論理的な思考で頭を悩ますような推理小説では決してないので、気楽な気持ちで手にとることができるはずです。ただ、ほのぼのとしたユーモアミステリとはいえ、暴走する素人探偵がどうやって難事件を解決するのか、という常人では決して到達しえない/死角からガツンとくるタイプの/オフビートなサプライズがあるので、ある種の驚きがあるのは間違いありません。もっと多くの人に読まれて良い名作短編集です。

 

『P・モーランの尾行術』

レッスン1:身近な親類や友人を尾行することでそのスキルを磨くべし。

    モーランは主任警部の教示どおり、意気揚々と、街で見かけたイタリア人の尾行を開始するのですが……

    本書の裏表紙にも細かくあらすじが書かれているので物語のネタは省略しますが、なにより面白いのは、主任警部とモーランの意見の食い違い/勘違い/行き違いによっておこるハプニングの数々。簡単に言うとアンジャッシュのネタを思い浮かべてもらうと解り易いハズ。本作でハマればどんどん次を読みたくなること間違いなし。

 

『P・モーランの推理法』

レッスン2:「職業の特徴」を捉え、一目見ただけでその人物の職業を判断すること。地下鉄で向かい側に座った人物で試すべし。

    本作でも、主任警部の真意を汲み取れずに盲目的に突っ走るモーランに笑いをこらえることができません。モーランが見出したバイオリン弾きの屠殺業者(!)の男はいったい何者なのか。痛快なオチと、笑いの解っている主任警部のユーモアも見どころです。

 

『P・モーランと放火犯』

レッスン3:「ホテル探偵の仕事」を学んだ後、「強盗・中級」「上級」へステップアップすべし

    タイトルを見てもらうとわかるように、主任警部とモーランの向いている方角が最初っからバラバラなのが波乱を予感させます。本作ではモーランの一面でもある「女好き」なところが事件を拡大させてしまうポイント。商売上手かつ探偵としても有能な主任警部をガン無視して突き進むモーランも面白いのですが、なんといっても最高なのは強烈なオチ。頭を抱える主任警部が容易に想像できます。

 

『P・モーランのホテル探偵』

レッスン4:「ホテル探偵」の項を受講後10のホテル探偵の仕事についての質問に答えよ

    本作ではなんとモーランは実際にホテルの経営者からホテル探偵として雇われます。ついにレッスンの成果を見せることができるかと思いきや……もちろんそんな簡単に事は治まりません。モーランと主任警部の溝が良い意味で深まり、時にモーランが主任警部に対してマウントをとるようになるなど人間関係の変遷も見どころです。

 

『P・モーランと脅迫状』

レッスン5:筆跡や紙質、インクなどを注意深く観察し匿名の手紙の差出人をつきとめよ。

    ここまでくると、主任警部に対するモーランの揚げ足取りも堂に入ってきます。本作でも脅迫状の捜査のため雇われるモーランですが、終始ちんぷんかんぷんなことを言っているようで、実は(独力ではありませんが)徐々に真相に近づいていくなど、本書の中ではミステリ色も強い一編です。

 

『P・モーランと消えたダイヤモンド』

レッスン6:ダイヤモンドを探す旅に出る時は教えなさい

    冒頭から激しさを増す二人の舌戦が見事で、問題児を抱えた先生の苦悩が手に取るようにわかる作品でもあります。中身はタイトルどおり、モーランが依頼された消えたダイヤモンドの行方なのですが、解決には多重解決ものの趣向が凝らされ、さすがワイルドと唸らされます。

 

『P・モーラン、指紋の専門家』

レッスン7:「女強盗とその手口」を勉強しなさい。好きでしょう?

    これぞ連作短編集と拍手したくなる名短編が登場です。指紋について勉強したがるモーランをよそに、小ばかにする主任警部が笑えますが、巧妙な伏線、大どんでん返しが用意された珠玉のミステリとしても見逃せない一作です。

 

『P・モーランの観察術』

補講:人間観察の重要性を学びなさい。

    本書の中では「補講」と名付けられているだけあって、少し毛色の違う異色の短編です。もちろん、モーランを中心としたドタバタコメディはあるのですが、本作にはもう一人名探偵が登場し、さしずめ推理合戦(は言い過ぎですが)のような形をとります。オチの冴えは他の作品に頂を譲りますが、友人同士にも見ようによっては見えそうな主任警部とモーランのやり取りも微笑ましいですし、モーランが陥る危機と事件の帰結も本作を象徴するかのような作品です。

 

    オーソドックスな推理小説だと、読者の好みの差があって中々万人にオススメしやすい作品は少ないのですが、本作はユーモアに比重が置かれた短編集なので、別にミステリに興味がない、という方にも自信を持ってオススメできる一作です。

では!