僕の猫舎

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『ラヴクラフト全集1』H.P.ラヴクラフト【感想】怪奇小説の最高峰

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1923~1931年発表 大西尹明訳 創元推理文庫発行

 

 

 初ラヴクラフトです。いや、怖い怖い。今まで、ジョン・ディクスン・カーの怪奇趣味が詰まったミステリを読んでいたので耐性ができてるかと思いきや、ただぬるま湯に浸かっていただけのようです。

 感想を書くにあたって、作者ラヴクラフトの生い立ちや逸話を調べてみたのですが、なかなか堪えるものがありました。

 幼くして父を亡くし母によって育てられた。お祖父ちゃんっ子で彼の蔵書を読み漁ることで幼少期から文才が爆発した。病弱な身体と母の病的な脅迫観念(息子に対する)の影響もあって過度に非社交的な人間になってしまった。父も母も精神疾患を患っており、自分の性情にも同様のハンデを抱えていることに対する劣等感や苦悩を持ちながら人生を過ごした。しかし、結婚や作家たちとの交流に光明を見出し、少しずつ人生の楽しみも感じれるようになった。それでも最後にはガンを患い、1937年に46歳の短い生涯を終えた。

 

 ねえ?しんどいでしょう。ウィリアム・アイリッシュの作品に、孤独感と哀愁を感じさせる作者の人生が反映されているのと同様、ラヴクラフトの作品には、自分の力ではどうしようもない生まれ持った精神的な枷や、思い通りにならない人生への、沸々と煮えたぎるような怒りを感じました。

 

以下各話感想です。

 

『インスマウスの影』(1931)

 “現代の怪奇小説の最高のもの”と訳者あとがきでも大絶賛の、ラヴクラフトを代表する作品です。大多数の逮捕者を出し、政府による大規模な破壊作戦が行われたとされる港町インスマウスで起こった怪事件が主旨です。その事件の発端から悲劇までを見聞きし、実際に事件の引き金となった青年“わたし”が語り手となって物語は進んでいくのですが、終始恐怖が留まることを知りません。

 紙面からでも臭ってくるような生臭さや、〈ダゴン教団〉の教会から聞こえてくる背筋を凍らせる聖歌、見るも悍ましい「インスマウス面(づら)」など、人生初体験の恐怖が続々登場します。何か、今までの自分の「怖い」という概念が全部削げ変わった気がして、その経験自体に恐怖している自分がいます。

 もちろんオチまで恐怖の連鎖は続き、驚愕、ではなく恐怖のサプライズが大口を開けて待っています。読み終えて初めて、事件が終わったときに始まった、ことに気づき、構成力の高さにも驚かされました。

 

『壁のなかの鼠』(1923)

 舞台は、千年以上もの間、諸宗教の信仰の中心となっていた土地に建つイグザム修道院。紆余曲折を経ながらも、代々この修道院を受け継ぎ、修復を計画するデラポーア家の末裔が主人公です。口に出すのも憚られる、かつてのド・ラ・ポーア家の汚点が染み込んだイグザム修道院で起こる怪奇現象が発端になります。

 飼い猫「黒すけ」の奇妙な行動や怪奇現象、悪夢が登場するともう勢いは止まりません。ポーの『黒猫』(1843)に代表されるように、ゴシックホラーと黒猫の相性も抜群。グロテスクなオチと、独特の律動と恐怖を同時に感じさせる最後の数文が圧巻です。

 

『死体安置所にて』(1925)

 前2作に比べると格段に読みやすい、ブラックユーモアが利いた短編です。葬儀屋のジョージ・バーチ(故人)が体験した死体安置所で起こる悲劇が本旨。

 ネタはものすごく解り易いので詳細を語ることはしませんが、なんかラヴクラフトって居心地の良い、というか「巧さ」だけで読ませる短編も書けるんだと知れた貴重な一作です。これがブラックユーモアのはしりだと言われれば納得の出来でした。

 

『闇に囁くもの』(1930)

 末尾を飾るのはラヴクラフトの代名詞“宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)”を体現する名作です。

 古典SFを読んだことが無いので的確かわかりませんが、たしかに1930年にあって既に本作からは、無限大の宇宙や未知への浪漫、近未来への高揚感を感じました。一方で、辺鄙な山嶽地帯に住まう不気味な生物やかれらが起こす種々の事件など、おどろおどろしい様は細緻に描写されています。

 作中で一番恐怖を感じたのは、怪物の巣食う魔の森に迷い込んだ時ではなく、安心安全であるはずの家へ足を踏み入れた時です。訳者あとがきでも指摘されているように、“日常の人間らしい暮しの感覚”とは相いれない“圧倒的な空白感”というものが満ちているからでしょう。

 家という家族団欒の場にもかかわらず遭遇する未知の恐怖と、逃げ出したいのにも関わらず、山中に潜む得体のしれないナニカに遭遇する恐怖との絶望感/ある種のパラドクスが堪りません。

 

おわりに

 ラヴクラフトが、自分の中にある怪奇小説への興味の扉をそっと開けたみたいで、今「怪奇小説傑作集」なるものを集め出しています。ディーン・Rクーンツスティーヴン・キングなどのモダンホラーにも手を出してしまい、もう止まら無さそう……。

 とりあえず読みやすい短編から体験していこうと思っているので、他にもオススメがあればぜひ教えてください。

では!

 

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))