2020年読了ミステリベストテン

 2020年も一年間当ブログにお越しいただきありがとうございます。今年も昨年度に引き続き、ブログ活動は停滞気味でした。今年転勤したことと、マイホームの打ち合わせや準備に時間を奪われたのが主な理由です。そんなこんなで、今年読めた本は、なんとブログ活動を始めてワーストの30冊……。ベストテンと言えるほどの質はありませんが、心に響いた作品もいくつかあったので、ご紹介しておきます。

 

感想が未投稿の作品もあります。

2020年読了ミステリベストテン

第10位 『吠える犬』(1934)E.S.ガードナー

 まだ感想が書けていませんが、事件が起こる特殊な舞台/設定が面白い一作。特殊設定がただの張りぼてでなく、オチまでちゃんと機能している点もさすがです。

 

第9位 『ガーデン殺人事件』(1935)S.S.ヴァン=ダイン

 特筆すべき面白い点は無いのですが、古き良きミステリの様式美みたいな部分に魅了されました。競馬がテーマとあって、折込式の出馬表や見取り図がついているなど、小道具にも遊び心があるのもGood

 

第8位 『評決』(1980)バリー・リード

 今年読んだミステリの中でも少し毛色の違う一作。本格的な法廷ミステリです。本格ミステリらしい大どんでん返しや驚愕のサプライズではなく、法廷で火花を散らす弁護士たち、彼らを取り巻く人間の熱いドラマに見どころがあります。真相を明らかにせんと奔走する探偵小説と言ってもいいかもしれません。

 

第7位 『四つの凶器』(1937)ジョン・ディクスン・カー

 パリ予審判事アンリ・バンコランシリーズの最終作。怪奇趣味がすっかり鳴りを潜め、密室もない作品ですが、混沌とした事件現場、登場人物の原因不明の行動にカー特有のやり過ぎ感が漂う佳作です。ダイナミックでスリル溢れる解決編が見どころです。

 

第6位 『ドラゴンの歯』(1939)エラリー・クイーン

 ハリウッド帰りのクイーンが遭遇する奇妙すぎる事件。安楽椅子探偵として活躍するクイーン、というだけで見ものです。クイーンがタッグを組む青年のロマンスという視点も加わって、久々に読んでいて”楽しい”ミステリでもありました。

 

第5位 『シグニット号の死』(1938)F.W.クロフツ

 フレンチ警部シリーズ17作目。船を題材にしており、ハウダニットにも注力されたクロフツ中期の佳作。いつもどおり地味ではありますが、リアリティある捜査描写と、創意工夫に富んだプロットは巧みです。

 

第4位 『その裁きは死』(2017)アンソニー・ホロヴィッツ

 今年度のミステリランキングを総なめにしたアンソニー・ホロヴィッツの最新作。前作『メインテーマは殺人』に続くシリーズものなので、キャラクターものとしても楽しめる一面もあります。ミステリとしては、ダイイングメッセージの趣向が組み込まれ、そこここにシャーロック・ホームズの影が感じられる贅沢な作りになっています。

 

第3位 『テニスコートの殺人』(1939)ジョン・ディクスン・カー

 〈足跡のない殺人〉をテーマにしたミステリです。登場人物のロマンスや丁寧なエピローグなど、カーの作品の中でも比較的読みやすい作品でもあります。中編にしておくべきだった、と著者自ら後悔したという話もありますが、個人的には全然長編に耐えうるレベルだと思います。

 

第2位 『震えない男』(1940)ジョン・ディクスン・カー

 幽霊屋敷を舞台にした、カーの本領が発揮された一作。怪奇の霧に包まれた難事件だけに、そのもやもやが晴れる緻密に計算された解決編が圧巻です。カーに騙される快感というか、最後の最後まで振り回される楽しさを感じる良作ですが、ポケミス版でしか手に入らないのがもったいない一作でもあります。

 

第1位 『雪の狼』(1996)グレン・ミード

 本作は本格的なミステリではなく、スパイ/冒険小説ですが、今年読んだ本の中で、ダントツで読んでよかったと思わされた作品です。シンプルに米ソ冷戦時代のスパイたちのお話なのですが、決して荒唐無稽なものではなく、史実に通じるリアリティある物語になっています。決死の作戦に身を投じる工作員たちの非情な結末に涙し、そして数奇な運命に心を揺さぶられる、そんな白眉のストーリーだけでなく、「謎と解決」に焦点を当てたミステリとしての側面もあり読みごたえは十分。間違いなく自分の中のスパイ/冒険小説の扉を開いた超傑作です。

 

 

 

おわりに

 今年は忙しかったこともあって、例年より短編を手に取る機会が多かったです。その中でもエラリー・クイーン『エラリー・クイーンの新冒険』はすごかった。トリック・プロット・サプライズどれをとっても一級品。『エラリー・クイーンの冒険』もすごかったですが、筆者自らハリウッドの空気を体感したからか、もっと派手に演出力に磨きがかかっている気がします。あと久々にチェスタトン(『四人の申し分なき重罪人』)も手に取りました。時々あの文体が欲しくなるんですよねえ。感想は後日ちゃんと書きます。

 また今年はベストテン内のグレン・ミード、バリー・リードをはじめ、初めて読む作家が多かったのも収穫です。本格ミステリでは、『金蠅』でエドマンド・クリスピン、『ハイヒールの死』でクリスチアナ・ブランド、『怪盗ニック全仕事1』でエドワード・D・ホックと出会いました。前者二人は、後年の名声を考えると十分に満足とは言えない内容でしたが、ホックの『怪盗ニック全仕事1』は短編ミステリの名手の実力が存分に発揮された名作短編集でした。これからもずっと追っかけたい作家です。

 他には、SF作品をいくつか手に取った1年でした。現代SFではモダン・ホラーの巨匠ディーン・クーンツ『人類狩り(ビーストチャイルド)』、そして古典からは、SFの父H.G.ウェルズの『ウェルズ傑作集1』『宇宙戦争』、ドイルの『毒ガス帯』を読みました。特に、ウェルズは衝撃でした。1800年代に書かれたとは思えない、瑞瑞しく新鮮なネタの数々にただただ脱帽です。ロマンあふれるSF描写だけでなく、ちゃんとサプライズが用意された作品もあるので、ミステリ好きにもオススメしたい作品です。

 

 

 ということで、ボリュームがいつもより少なめですが、2020年の読了ミステリ紹介は以上です。

 来年はもう少しプライベートに余裕ができて、週一くらいのペースで読書したいと思っています。今読書リスト見返していて思い出したのですが、今年はクリスティを一冊も読んでいませんでした。来年こそペースを上げて、1940年代のクリスティ作品にも取り掛かりたいです。ただ、最近スパイ/冒険小説も集め出してるんでどうなるかなあ……。

 どんどん更新頻度が減ってますが、ブログに飽きたわけじゃないですからね。引き続き僕の猫舎をよろしくお願いいたします。

では、良いお年を。