『人類狩り(ビーストチャイルド)』ディーン・R・クーンツ【感想】他のモダン・ホラーものに期待

1970年発表 榎林哲訳 創元SF文庫発行

 

ネタバレなし感想

 ディーン・R・クーンツモダン・ホラーの巨匠と聞いて、最近ホラー作品にも興味が出てきたことから手に取ってみた作品。優れたファンタジー・SF作品に贈られるヒューゴー賞の候補作にもなったということと、本自体の短さ(約250頁)もあり手に取りやすかったので挑戦してみた。

 モダン・ホラーの巨匠が手がけたとはいえ、本作にはホラー要素はなく、端的にまとめると、異種族間の友情と愛情を描いたSF冒険もの、と言うことができる。

 

 人類が銀河系へと進出するようになった未来。爬虫類型の生命体ナオリ族によって、高圧的で傲慢になった人類は滅ぼされた。地球に滞在しているナオリ族の考古学者フランは、発掘現場で生き残った人間の子どもを発見する。ナオリ族に備わる<警報装置>や、無常な<追跡者>を掻い潜り、二人は無事逃走できるのか。

 

 これがものの数十ページで明かされる本筋で、特にド派手な展開を迎えるでもなく最後まで突っ走る。逃走劇に必須の緊張/緊迫感に欠け、追跡者の造形に乏しいなど、本作のテーマに必要な要素を満たしているとは言い難いが、未来の地球を取り巻くSF要素には新奇な部分がある。

 立場や人種(種族)・階級を超えた逃避行、というと、やはり第二次世界大戦時を思い出す。クーンツの頭の中に、世界大戦のモチーフがあったことは想像に難くないが、物語の帰結は凡庸な自分の予想を下回り、感動の人間ドラマにも、胸を裂く悲しい別れにも、心震わせる壮大なカタルシスにも辿り着かない。もちろん、戦争の背後にある暗雲を晴らすサプライズは用意されている。

 

 星間戦争が終結したとはいえ、侵略者の手は休むことなく動いている。人類滅亡を固く信じ獰猛な目がぎらついている。そんな過酷な環境で生き延びた人類の描写/説明はほとんどなく、組織的な調査/追跡を行うナオリ族の描写も物足りない。それらは、たぶん意図的に省略され、ナオリ族特有の能力(作中では超知能と呼ばれている)と、それが作用する運命的なSF要素にすべてが注力されているからだろう。

 一方で侵略され荒廃した地球の描写は熟練しており、眼前に景色が浮かぶような鮮やかさがある。翻訳の妙技もあるだろうが、ナオリ族が用いる道具や機械の説明がわかりやすく、現代人が馴染みやすい用語で書かれていながら、斬新で浪漫を感じるのもSFものとしての魅力の一つ。重複するが、ナオリ族に備わっている超知能については、物語に上手く組み込まれており、それはオチにまで効果的に用いられている。(ここに独特のカタルシスを感じないでもないか)

 

 非情で有能なはずの追跡者が大事な終盤で無能を露呈したり、ひっそりと隠れているはずの人類が急に登場したりと、唐突に質が下がる部分が気にならないでもないが、娯楽小説としては満足できる読み物ではあった。ただし、官能的で残酷な描写もあるので、気軽に子どもにオススメできないのが残念なところ。

 

 著者のディーン・R・クーンツは、スティーヴン・キングに次ぐモダン・ホラーの巨匠と言われている。本作はSFに寄った冒険小説のため、彼の本領を感じ取ることはできなかったが、逃亡者を執拗に追う<隔離者>や<偵察蜂>といったグロテスクな未来兵器に、クーンツの才能の片鱗を見ることはできた。

では!