僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

シャーロック・ホームズ短編ベスト10【海外ミステリ読了200冊記念】

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特定の作家、特定の作品のベスト10系の記事を書くのが初めてなので、だいぶと気合が入っております。

今年の3月にめでたくシャーロック・ホームズ全作を読破し、その時短編ベスト10を決めてみようとは思っていました。

折よく、2015年からハマった海外ミステリの読了冊数も200冊を突破したので、前回(100冊突破記念記事)と同様に記念となるまとめ記事を書いてみようと思ったのでした。

 

 

 

短編ベスト10を決めるにあたって

「短編」ですから、もちろん4長編は含んでおらず、1891~1927年に発表された56の短編を対象にしています。

それら一つひとつを再読し、その事件の性質、用いられているトリック、犯人の属性、手がかりの特性、シャーロキアン垂涎ものの記述の有無、様々な要素を拾い上げ一覧にし、まとめる作業にはかなり手こずりました。

 

さらに悩ましかったのは、それらをベスト10形式に当てはめる工程です。

長編ミステリのオールタイムベストならまだしも、ありとあらゆる面で違った特色ある短編を、同じランキングで比較するなど不可能にも思われました。

ネットで検索してみるとわかるのですが、シャーロック・ホームズの短編ベストという記事はなかなかありません。その中身を検討し、ちゃんと具体的な評がなされているランキングも無いに等しいです。

当記事でそれらをクリアできているとは思いませんが、原則以下の項目を満たしているものを優先的に選出するつもりです。

 

  1. 魅力的な謎が用意されていること
  2. 正々堂々と手がかりが配置されていること
  3. アッと驚くサプライズが用意されていること

 

以上を基本に、

  1. 謎事態に仕掛けが施されているもの
  2. 手がかり自体に特異性があるもの
  3. 謎の真相ではなく、物語のオチにサプライズがあるもの

 

など各項目に付随して、他の作品にはない美点が見られる作品をチョイスします。

なので、それらに該当しない、論理的に破綻している事件や、手掛かり不足でただの憶測でしか解決しえない事件、そもそも謎と解決が用意されていない“ただの物語”も選外となります。

 

シャーロック・ホームズ短編ベスト10

の発表の前に、日本シャーロック・ホームズ・クラブによる人気投票の結果を紹介しておきましょう。

※2012年実施

1位バスカヴィル家の犬

2位赤毛組合

3位ボヘミアの醜聞

4位青いガーネット

5位まだらの紐

6位緋色の研究

7位恐怖の谷

8位四つのサイン(署名)

9位踊る人形

10位最後の事件

シャーロキアンによるシャーロキアンのための投票ですから、ミステリの観点というよりも「シャーロック・ホームズもの」としてのランキングでしょう。まるっと長編(太字)全部入ってますしね…

 

長編だとバスカヴィル家の犬ってのは文句無し。

 

ちなみにベスト10とはいえ、上から順に優れているというわけではもちろんありません。前述の評価点をもとに選ばれた優れた(大好きな)短編10作という観点でご覧ください。

 

シャーロック・ホームズ短編ベスト10【ネタバレなし】

※各短編の解説は最小限にするなど、ネタバレを極力回避しているつもりですが、足りないところがあればコメント等でお知らせください。

 

1『唇の捩れた男』(1891)『冒険』

ワトスンの妻の友人、というシリーズでは珍しい角度からの依頼だが、導入はシンプル。アヘン窟に入り浸る友人の夫を助けるため、アヘン窟に乗り込むワトスンだったが、そこには紛れもない事件の痕跡が…逮捕された「唇の捩れた男」はいったい何をしていたのか。

 

2『まだらの紐』(1892)『冒険』

「まだらの紐…」というダイイングメッセージを残して死んだ女、引いても鳴らない呼び鈴の紐、などさまざまな伏線が巧妙に絡み合った屈指の名作。

 

3『緑柱石の宝冠』(1892)『冒険』

英国にとって最も貴重なベリルの宝冠を預かったホールダー氏は、ある晩、宝冠を手に呆然とする息子を発見する。宝冠は無残にも変形しておりベリルも3個欠けているのだった。犯人ははたして息子なのか…ホールダー氏はホームズに捜査を依頼する。

 

4『白銀号事件』(1892)『思い出』

競馬レースの本命馬「白銀号」が失踪した。事件が発覚した前日には怪しい男が目撃されており、レース妨害のための姦計があったと推測される。調教師が死体で発見され、複雑化していく事件だったが、ホームズは一つの手がかりから光明を見出す。

 

5『黄色い顔』(1892)『思い出』

マンロー氏の妻は、ある家族が近所の別荘へ引っ越してきて以来、不審な行動を繰り返すようになった。夜な夜な、その別荘へ赴く妻をマンロー氏は問いただすが、秘密を打ち明けてはもらえず苦悩する。マンロー氏が別荘の窓に見た「黄色い顔」とは何なのか、また妻の隠している秘密とは。

 

6『僧坊(アベ)荘園』(1904)『帰還』

僧坊荘園の屋敷で主人が殺された。ホプキンズ警部の依頼で捜査を始めたホームズは、遺留品に不審な点を見つける。警察の推測通り、この地方を荒らす連続強盗グループの仕業なのだろうか。

 

7『悪魔の足』(1910)『最後の挨拶』

原因不明の凶事が、ある兄弟を襲った。団らんの後2人が発狂し1人が死亡したというのだ。果たして原因は悪魔の所業なのか。凶報を聞きつけたアフリカ探検家が登場し事件に異様な興味を示すが…

 

8『ソア橋』(1922)『事件簿』

世界一の金鉱王の妻が殺された。どうも彼の思い人である家庭教師が逮捕されたらしい。シンプルな痴情の縺れかと思われたが、ホームズは現場の状況から驚愕の真相を突き止める。

 

9『サセックスの吸血鬼』(1924)『事件簿』

ワトスンの旧友の依頼は、我が子の首に噛み付き血を吸っているところを目撃された妻の調査依頼。義理の息子に体罰を加えるなど、激しさを増す妻の行動に隠された真実とは。

 

10『隠居絵具師』(1927)『事件簿』

友人に妻と金を掠め取られたアンバリー老から、せめてもお金だけは取り返したいという依頼があった。ホームズに変わり、ワトスンが捜査を開始するが、ワトスン自身が不審な男に尾行されて…

 

さて、いかがだったでしょうか。好みがだいぶと偏っているせいで、いたって普通のリストになってしまいましたが、個人的にはどの作品も魅力的な謎を発端に、見たこともないような手がかりをもとに、予想の斜め上を行く解決が待っている稀有な作品群だと思っています。

 

また、推理小説愛好家、ミステリファン、と一口に言っても各自がミステリに求めるものは様々なはず。

ざっくりと分けて、プロット派には『唇の捩れた男』『白銀号事件』『僧坊荘園』を。トリック派には、『ソア橋』や『まだらの紐』を。人間ドラマ派には『緑柱石の宝冠』や『黄色い顔』『サセックスの吸血鬼』を。グロテスク派には『悪魔の足』と『隠居絵具師』を、という具合に、尖った要素がちゃんとある作品をまんべんなく選んだつもりです。

 

まずは『冒険』からどうぞ。

 

番外編

ホームズ派 

今までは、個別の短編ミステリという観点でしたので、ホームズ好きなら、という視点でオススメ作品をご紹介したいと思います。

これらは短編ミステリ、というよりかは、ホームズとワトスンの物語です。

 

『ボヘミアの醜聞』(1891)『冒険』

ボヘミア国王からのスキャンダル揉み消し依頼です。ホームズが「あの貴女(ひと)」と呼ぶ女性とは…

 

『ギリシャ語通訳』(1893)『思い出』

ホームズの兄、マイクロフト初登場作品としてホームズファンなら避けては通れない作品です。ホームズに比肩するマイクロフトの鋭敏さだけでも読む価値はあります。

 

『最後の事件』(1893)『思い出』

やはり悪の帝王モリアーティ教授との対決は必読です。ワトスンへあてた手紙が最高。

 

『空き家の冒険』(1903)『帰還』

『最後の事件』との順番を破ってはいけません。こちらも必読です。二つの事件を華麗に解決する探偵の手腕も見どころ。

 

『犯人は二人』(1904)『帰還』

ホームズが敗北する、という作品もぜひ読むべきです。

 

『這う男』(1923)『事件簿』

ホームズとワトスンの相思相愛ぶりが熱すぎます。ミステリとしては古臭いのが難点。

 

『最後の挨拶』(1917)『最後の挨拶』

探偵業を引退し、養蜂家になったホームズの見事なスパイもの。世相が色濃く反映された作品ですが、その結末を知っているだけに、終盤のホームズとワトスンの会話は胸にグッとくるものがあります。

 

『思い出』も必須です。

 

コナン・ドイル派

よくわからない「派」ですが、つまりは作者アーサー・コナン・ドイルの作家としての技能、物語を紡ぎだす才能が爆発した作品群。

人間ドラマ派と被ってくるところもあるのですが、ちゃんと魅力的な謎は用意されており、無いのは解決だけ(ちゃんと解決がある作品もあります)。

ホームズが淡々と関係者からお話を聞いたり、調べてきた過去を読者にお知らせしたり、で謎解きの趣向が全くないまま終わってしまうものも多いのですが、物語としては一級品です。

 

『ボスコム渓谷の惨劇』(1891)『冒険』

ストーリー全体の雰囲気はホームズものの長編に似通っていますが、ちゃんとホームズの冴えた推理も披露されます。あとは、味わい深いオチをお楽しみください。

 

『グロリア・スコット号』(1893)『思い出』

ホームズが学生時代にに手掛けた初めての事件ということもあって、ホームズファンも読んでおきたい作品ですが、なんといっても冒険風の味付けが好みです。

 

『三人の学生』(1904)『帰還』

カンニング犯を追求するというなんとも地味な事件ですが、エピソードだけでも読ませるものがあります。ホームズの解決も印象的です。

 

『瀕死の探偵』(1913)『最後の挨拶』

謎も解決も見え見えなのですが、何度読み返しても面白い物語。ホームズのワトスンへの信頼度もひしひしと感じられる作品です。

 

『覆面の下宿人』(1927)『事件簿』

舞台の移動が最小限(ホームズ宅と下宿先)にもかかわらず、くいくい読めるのは巧みなストーリーテリングの賜物。なんといっても冒頭の語りとオチの繋がりを考慮すると胸が熱くなること間違いなしの一作です。

 

『帰還』読まずしてホームズは語れない

 

おわりに

今回リストアップした22作以外にも、その魅力を紹介できていない短編はいくつもあります。本当は『金縁の鼻眼鏡』も『第二の汚点』も…

 

一方で個人的にそんなに食指が動かないのは『赤毛組合』系の作品群。『ほぼ赤毛組合』みたいな作品が結構あるんですよね…ここらへんを、ほかの方がどう感じられるか聞いてみたかったりします。

 

ということで、ホームズシリーズを読破した方も未読の方も、ぜひこの機会にシャーロック・ホームズの短編を読んで、ベストテンなんか作ってみるのはいかがでしょうか。自分の好みがモロに反映されて面白いですよ。

 

昨年には創元推理文庫から【新版】のホームズ全集が刊行済みとなりました。

120年以上も前に誕生し、推理小説の礎を築いたシャーロック・ホームズの足跡を、新しい翻訳でたどってみるのも悪くありません。

では!

 

新潮文庫版は『叡智』まで集める必要があるので、お気をつけください。