新潮文庫オリジナルがオリジナルすぎる【感想】アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの叡智』

発表年:1892~1927年

作者:アーサー・コナン・ドイル

シリーズ:シャーロック・ホームズ

 


シャーロック・ホームズは実に約1年ぶりでした。ただ本作は、実際にアーサー・コナン・ドイルが発表した短編集ではなく、新潮文庫の発刊の都合上カットされた作品をまとめた、新潮文庫オリジナルの短編集です。なので今回は、短編集が発表された順に各短編の感想を残しておくだけの記事になってしまいそうです。

 


冒険』より『技師の親指』(1892)

前回の感想記事『事件簿』でも軽く述べたとおり、本作は事件自体の不可思議さにフォーカスしただけ作品で、明らかに『赤毛組合』の系譜を汲むミステリでしょう。

ただし、犯人が用いた場所を特定させない小トリックは秀逸で、一読の価値はあります。

 

緑柱石の宝冠』(1892)

事件自体はありきたりな盗難事件ですが、登場人物に用意された仕掛けにまんまと嵌ってしまいました。どちらかというとクリスティが得意そうなシチュエーションですが、コナン・ドイルも負けてはいません。


思い出』より『ライゲートの大地主』(1893)

どことなくコメディタッチな作品です。保養のために訪れた地で事件に巻き込まれたり、ドタバタと格闘劇があったりと、フワフワしたまんま事件は終わります。

ホームズの指摘する字に関する手がかりも面白くはあるのですが、信憑性にはやや欠く印象があります。


帰還』より『ノーウッドの建築業者』(1903)

本書では数少ない殺人事件を取り扱った一作です。

犯人や犯人が弄した策が見え易いだけに、どうなることかと心配しましたが、これまた絶妙な搦め手が用いられています。

どちらかというとメタっぽいトリックと、警察の捜査を逆手に取ったトリックの組み合わせも良いです。


三人の学生』(1904)

不可思議な事件や、独創的なトリックではなく、ミステリと人間ドラマを和えるところにコナン・ドイルの才能が見えます。

簡単に言えば、カンニングしたのは誰だ、というお話なのですが、結末部ではシャーロック・ホームズが凄く大人に見える不思議

 

スリークォーターの失踪』(1904)

大きい枠組みで見るとタイムリミット・サスペンスなのかと思うのですが、いつの間にか、これまた人間ドラマに変容しているのが笑えます。

本作も不可思議な事件を題材にしたミステリで、怪しげな人物(奇人)が登場するだけに、もっと事件は発展するかと思いきや、結末はこじんまり。

 

事件簿』より『ショスコム荘』(1927)

事件全体には陰惨でグロテスクな雰囲気が漂っており、ドイルらしい演出が光る作品です。まるで『白銀号事件』で登場する「吠えなかった犬」に対成すかのような、「吠えた犬」の手がかりが印象的です。


隠居絵具師』(1927)

これまたドイルらしい筆致でもって、暗くドロドロとした空気に満ちた作品。

安楽椅子探偵っぽい立ち位置にいるホームズも作品にマッチしていますし、ワトスンを通して読者が得られる手がかりもちゃんとミステリに機能している点も、本書いち堅牢なミステリだと思います。

一点だけ、この手の構成は、後年あのアントニイ・バークリーも用いていたので、なんらかの影響があったのかな、と訝ったりもします。

 

 


全体を眺めると、それほど違和感はないものの、さすがに30年にも亘って発表された短編をむりくり一纏めにした事実があるので、やはり各短編集毎に本書を参考にしながら並行して読むのがベターだと思います。

これでシャーロック・ホームズシリーズは、めでたく全作読破となりました。

短編ベスト10とかもやってみたい気もするのですが、短編によって全然ジャンルが違うのは悩ましいところ。少し時間を置いて再読しながらじっくり考えます。

 

では!