僕の猫舎

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『(三十)棺桶島』モーリス・ルブラン【感想】冒険小説としても傑作

L'île aux trente cercueils

1919年発表 怪盗アルセーヌ・ルパン8 堀口大學訳 新潮文庫発行

前作『金三角

次作『虎の牙』

 

ネタバレなし感想

 Wikipediaによると、本作は横溝正史の名作『獄門島』や『八つ墓村』へ影響を与えたと示唆されており、ミステリファンにとっては避けては通れない一作なのかもしれません。

 

 本作が書かれた時代のルパンものに少しカラクリがあることは『金三角』でも触れましたが、あらためておさらい。

 このあたりの作品は、第一次世界大戦の影響もあって、アメリカと本国フランスで発表順が微妙に違いました。本来1914年には書き上げていた『虎の牙』が、第一次世界大戦の影響でフランスでは出版が困難になり、アメリカで先行出版されました。そのため、フランスでは『オルヌカン城の謎』『金三角』『三十棺桶島』の後にようやく『虎の牙』が出版される運びとなり、ルパンのもう一つの顔ドン・ルイス・ペレンナ三部作の流れを変えかねないアクシデントとなりました。

 『813』のあと、ルパンがドン・ルイスとなった経緯とかがばっさり描かれないまま進んだので、道理でおかしいなと思ったのですが、こんな理由があったんですね。執筆順に読むか、フランスの発表順に読むか、どちらがオススメかは、『虎の牙』を読んだ後に改めて書こうと思います。

 

 

 本作『三十棺桶島』は『金三角』と関連があり、前作に登場した人物が再登場することからも、この順番だけは守って読むことをお勧めします。また、第一次世界大戦が物語に与える影響をしっかり味わうためにも『オルヌカン城の謎』を『金三角』よりも先に読んでおくと、ちょっとずつ明るくなってくる感じというか、悪意に満ちた物語から王道の英雄・冒険譚の熱さみたいなものを取り戻していくのがわかるのでお勧めです。まあ、本作は戦争の悲惨さというよりも、人間の恐ろしさみたいな部分にフォーカスしていて、それはそれで怖いんですけどね。

 

 まずプロローグで語られるのは、1902年に起きたとされる誘拐事件。そして誘拐事件は、もう一つの悲劇を誘引し最後は血塗られた殺人事件で幕を閉じます。それから14年後、悲劇のヒロイン・ベロニックが、映画館でたまたま見た映画に映り込んだ、かつて自分が使っていたサインを目撃し、そのサインが描かれた場所へと訪れるところから物語は再び動き出します。

 

 彼女の身上に起きた事件や関係者の背景を細かく書くと、面白さを損なう恐れがあるので割愛しますが、第一部「ベロニック」で描かれる、異教の島に赴く彼女の冒険譚が最初のハイライト。

 サレック島(別名:三十棺桶島)は、古代ケルト人の文化が色濃く残り、密教ドルイド教の伝説や教会、祭壇、隠し通路など、冒険活劇を盛り上げる要素が詰まっています。主人公が孤独と悲劇と絶望に見舞われながらも、希望を見つけ困難に立ち向かう前半だけで盛り上がりっぱなしでお腹いっぱいになるはずです。また、怪奇の巨匠カーのお株を奪うように、伝奇的な設定を物語に組み込み、恐怖を煽る文体・描写もたまりません

 第二部では、サレック島伝説の秘宝を狙い、ベロニックと取り巻く人々を苦しめる巨悪が登場します。その人物は、戦争の狂気そのものを人の形として再成型したかのような極悪人で、第二部の主人公といっても過言はありません。

 その極悪人の目線で物語は進行し、三十棺桶島に隠された秘密や、秘宝「神の石」を巡る冒険が繰り広げられます。もちろんルパンの影がちらほら見え隠れするのも第二部から。巨悪の根源である人物を不意打ちしようと謀略を巡らし、直接対決では気持ち良いくらい堂々と登場する様が見ものです。

 また、ルパンを取り巻く人々や小道具も魅力的で、彼に羨望の眼差しを投げるフランソワ少年や、影の主役とも言うべき忠犬「万事OK(原文:Tout Va Bien)」の物語への組み込み方が抜群。

 ルパンシリーズあるあるなのかもしれませんが、案外最初っから最後までルパンが大活躍、みたいな作品だけじゃなくて、最後に颯爽と登場して事件を解決し、欲しいものだけ手にしてカッコよく退場する、みたいな作品も多いんですよ(もちろん、ルパンはそれに見合う努力と準備を影でしているわけですが)。そういった作品を動かしているのは、実際にはルパン以外の人物だったり、物語そのものだったりするのですが、読み終えると、「ああ、本作は紛れもないルパンものだったんだな」と感じさせる、これがルブランのすごいところ。お膳立てって言うんでしょうかねえ。活躍の伏線と言い変えてもいいかもしれませんが、ちゃんとルパンが最後には主人公になって、読者が安心して楽しめる、ルブランの書きっぷりがとにかく良い。

 

 戦争中だったからか、やっぱり徹底的なドイツ人叩きには辟易としないでもないですけど、まあ仕方ないですからね。戦争って狂気の沙汰ですから。

 あと、「神の石」とは何ぞや?というミステリの趣向もあるのですが、個人的には、どうでも良いんですよね。大事なのは「神の石」じゃなくて、神の意思がベロニックにどう働いて、どのような形で救世主ルパンをお遣わしになったか、という点。そして恐怖の三十棺桶島の冒険そのものです。

 

 次作『虎の牙』は、ルパンシリーズきっての大長編だそうな。次はどんな冒険が繰り広げられるのでしょうか。今年中は……チャレンジできなさそうかな。また来年頑張ります。

では!