発表年:1926年
作者:G.K.チェスタトン
シリーズ:ブラウン神父3
アメリカが舞台の作品が多いことが特徴の一つで、今までの短編集よりも一話あたりのページ数が少し多い気がします。
トリックについてのみ取り上げれば、さすがチェスタトンと唸らされるものばかりで、今まで同様楽しめる作品集となっていますが、アメリカを舞台にしているとはいえ、アメリカやアメリカ人に対する偏見ともとれるブラウン節は、ある意味痛快で、ある意味辟易とさせられることも事実です。
各話を簡単に紹介しておきましょう。
『ブラウン神父の復活』は、明らかに1903年に「帰還」したシャーロック・ホームズを意識して書かれた作品ですが、復活の意味合いやその真意は全く関係がありません。
読み返してみると、本書一背筋がゾクッとする作品だと気づきます。真相に気付いた神父が神を(心から)讃えるのがなんともらしくて良い点です。
『天の矢』は、トリックが全て。
人間の心理をうまく突いた秀作で、単純なトリックだけに、案外気づかない人が多いのではないでしょうか。
『犬のお告げ』も奇抜なトリックが目立つが、これが安楽椅子ものであるから驚かされます。
何も知らない状況から、一つ一つの情報をもとに、光景を思い浮かべ、手がかりを吟味し真相を解明するブラウン神父の手腕(頭脳?)に脱帽。
『ムーン・クレサントの奇跡』は、トリックだけ見ると、なんだで終わってしまいそうですが、誰でも最後は死に到達するという無常感を痛感する作品です。
『金の十字架の呪い』は確かに怪奇的な雰囲気は出ているものの、本質は少し違うようです。
ブラウン神父の体験した不可能犯罪というのが適当でしょう。
『翼のある剣』こちらのほうが案外怪奇色が強い。
初めから全てが怪しく見えるのに、結末は最後になってみないと判明しません。しかも背筋を凍らせるトリックを伴うのだから素晴らしい。
『ダーナウェイ家の呪い』はトリック以上に動機が秀逸。ミスリードも巧みで、暗い雰囲気が物語にマッチしています。
『ギデオン・ワイズの亡霊』は本作の最後を飾る素晴らしいトリックによる事件。真実に到達するため、神父が疑ったものは偽の証言でも嘘の物証でもなく、告解だったというのがミソ。
以上見返してみても、良作だらけなのがよくわかります。冒頭でも述べたとおり、アメリカ批判がもう少し控えめであれば、尚良かったのでしょうが、そういったアイロニーや揶揄あってこそのブラウン譚でもあるため、一概には言えません。前作『知恵』同様、じっくり丁寧に読み込んで欲しい一冊です。
では!