久々のアーサー・コナン・ドイルです。
ドイルが晩年に編んだ集大成的短編集The Conan Doyle Stotiesの中から、Tales of Blue Waterという括りでまとめられた海や水にまつわる短編たちが収められています。
結論から言えば、ミステリとして秀逸な作品はないです。ドイルが晩年傾倒した心霊現象や、大好きな歴史小説のエッセンスが少しずつ注ぎ込まれた軽めの短編集でした。
各話感想
縞のある衣類箱
The Stripe Chest
漂流船に積まれた奇妙な宝箱がテーマ。宝箱が次々と死体を生む現象自体は面白いがトリックは陳腐。でもいいんだ、古典の味はこの古さが良い。
ポールスター号船長
The Captain of the “Polestar”
群氷によって進路を阻まれた捕鯨船に現れる白いもやのような何か。何かを、誰かをいざない惑わすそれはいったい何なのか。変わり者の船長と同船した医学生がその怪に翻弄される。
物語に起伏がないし、ゾッとするオチがあってもよさそうなのに何もないので、言うこともあまりない。
たる工場の怪
The Fiend of the Cooperage
探検家が、迷い込んだジャングルの奥地で、たる工場を経営する英国人と出会う。原住民が怖れるジャングルの秘密とはいったい何なのか。
「死の部屋」系トリックの一つだが、一つと数えても良いものか迷う作品でもある。某パニック映画の元祖かもしれない。
ジェランドの航海
Jelland’s Voyage
二人のギャンブル狂が金をくすねて逃亡するお話。日本が舞台になっているドイル作品の中でも珍しい一編。トリックもなにもないが、リドルストーリーを思わせる意味深なオチが印象に残る……か残らないか微妙なところ。
J・ハバクク・ジェフスンの遺書
J.Habakuku Jephson’s Statement
白人と黒人、文明と未開を強引に分け、その間にみっちりと偏見を詰め込んだ作品。それだけ。
当時の価値観を知ることができるところに読む意味を見出すかどうか。
あの四角い小箱
That Little Squere Box
この半分の文量で、もっとユーモラスに描けたんじゃないのという疑問はさておき、病的なまでに強迫観念にとらわれた男が掻き乱す事件の全貌は、時代というフィルターを通して読めば、本書の中では比較的よくできている方だと思います。