刑事コロンボ感想【♯1~♯5】

 突然始まりました、刑事コロンボの感想記事。ミステリ好きなら外せないシリーズです。

 最近、三谷幸喜氏脚本の名ドラマ古畑任三郎シリーズのリメイクの噂が出ましたけど、本作がモデルになってるわけで、やっぱり見とかないといけません。数年前に見た作品もあるので、再度見返しながら細々と綴ろうと思います。

 

 

あ!一部ネタバレ記述がございますので、未鑑賞の方はご注意ください。

 

 

♯1『殺人処方箋“Prescription : Murder”』(1968)

★★★☆☆

ゲスト俳優:ジーン・バリー(『宇宙戦争』ほか)

共演:ニーナ・フォッシュ/キャサリン・ジャスティス/ウィリアム・ウィンダム

 

 犯人役を務めるのは「007」のジェームズ・ボンド役の候補に幾度も挙がりながら、ボンドになれなかった男、ジーン・バリー。そうやって見ると、彼の殺人までのシークエンスが007のそれにも見えてきてニンマリしちゃいますし、ジーン・バリーの大物感が強い強い。

 本作は「刑事コロンボ」のシリーズ第一作ということではなくパイロット版だからか、コロンボのキャラクターがちょっとオラついています。コロンボの罠のかけ方もそうですけど、強引というか急いた感じが前面に出ていて、後の特徴でもある、表は焦れてても中身は余裕たっぷりという特異なキャラクターは影を潜めています。もちろん、パワープレイも共犯者を寝返らせるパフォーマンスの一環だったのかもしれませんが、最後の犯人を追い詰めるシーンでは、何回見ても「がんばれ!持ちこたえろ!」と思っちゃう不思議。

 シリーズをいくつか鑑賞して本作を見ると違和感があるかもしれませんが、本作から見始めると、本作のギリギリの綱渡り感に捜査法の変更の必要性を感じたコロンボが敢えて方針を変えたようにも見えて楽しめます。

 共犯者がキーポイントになっている作品だとのちの超名作がありますが、あちらはちゃんと犯人が手を打ってあるので見比べるのも面白いです。

 

 

#2『死者の身代金”Ransom for a Dead Man”』(1971)

★★★☆☆

ゲスト俳優:リー・グラント(『シャンプー』ほか)

共演:ハロルド・グールド/パトリシア・マティック/ハーラン・ウォード

 出演者の多くがお亡くなりになっている中、本作のリー・グラントは2020年現在でもご存命(95歳)、とのこと。今のお姿を見る機会は少なくなりましたが、作中では40代半ばの理知的で妖艶な弁護士を演じています。が、どうも弁護士には見えず女殺し屋(間違ってない)に見える。

 本作では、犯罪者の心理に巧妙な仕掛けが施されています。観客からは罠が丸見えなのに、画面の中の犯人には全く見えてないという、逆説的にミステリを捉えて(普通は何が手掛かりなのかを隠す)物語を作った制作陣に拍手。

 また、「刑事コロンボ」の設定がかなり詰め込まれた作品でもあります。「チリ(料理)」好きや風采の上がらない容貌、ペン無くしがち(は前作からか)などが盛り込まれているので、ほかの作品の前にぜひ体験しておきたい一作です。

 

 

#3『構想の死角“Murder by the Book”』(1971)

by the Bookはマニュアル通り、とか台本通りといった熟語の一つ。誰のシナリオなんでしょうねえ……。

★★★★☆

ゲスト俳優:ジャック・キャシディ(『刑事コロンボ』ほか)

共演:マーティン・ミルナー/ローズマリー・フォーサイス/バーバラ・コルビー

 

 浅見光彦を演じたら右に出る者はいない榎木孝明似の名優ジャック・キャシディが犯人役の一作。本作からテレビのミステリ枠でシリーズ化された記念すべき作品でもあります。

 本作は主役のジャック・キャシディの魅力も大きいのですが、監督が若き日のスティーヴン・スピルバーグだったり、いやにオチがあっさりして見えたりと、ファンの間でも多くの議論が交わされる注目作。

 犯人の完全犯罪の質も高いですし、コロンボの被害者の妻に対する親切心や彼の料理の腕前など見どころは多いのですが、中でも特に推しておきたいのはオチです。ここでは“驚き”というよりも“味わい”を重視した構成が目を引きます。有無を言わせない決定的な証拠を突きつける従来のコロンボものとは違い、犯人の自尊心をくすぐる仕掛けが巧妙です。さらにただの高慢で独善的な虚栄心ではなく、推理作家の誇りを再燃させ、殺人者としての矜持(そんなものがあれば)を保たせるコロンボの煽りが最高です。

 あと、最後のシーンでコロンボが置き忘れたアレを取りに戻るじゃないですか。あれって、犯人に対する一種の敬意の現れにも思えるんですよねえ。びりびりと痺れる衝撃はありませんが、じんわりと染みる味わいを噛みしめる。そんな一作です。

 

 

#4『指輪の爪あと“Death Lends a Hand”』(1971)

原題は直訳すると「死が手を貸す」でしょうか。貸したのは手なのかLends(レンズ)なのか……。

★★★★☆

ゲスト俳優:ロバート・カルプ(『ペリカン文書』ほか)

共演:レイ・ミランド/パトリシア・クローリー

 

 ジャック・キャシディと並んで最多登場の名優ロバート・カルプ出演の一作。

 権力とそれに見合う力も持ち合わせた大物が、一般人を舐めて手痛いしっぺ返しを食らう展開がまず良いですね。事件後、自身が持つ力を総動員して隠蔽に走るものの、コロンボの類まれなる想像力(というか空想力)のせいで、どんどん後手に回って、空回りしちゃうのも小気味良いですし、大物ぶっている人間ほど小心者でちっちゃい人間だという見せ方も上手。ただ、小心者だからこそ、コロンボを侮らず警戒し、掌中に収めようとする切れ者の側面もしっかり表現されているのも印象に残る犯人たる所以です。

 コロンボ自身の捜査力・推理力の凄まじさも本作では盛り込まれています。被害者の夫の邸宅で迷子を装う、ゴルフの巧みな技術でゴルフトレーナーの信を勝ち取る、親切な態度と話術で探偵事務所の若手探偵の心を掴む、などなど盛りだくさん。

 解決編に仕掛けられた子どもっぽいオチも見事で、被害者の夫が最後その仕掛けを確認しにいかない演出が光っています。

 

 

#5『ホリスター将軍のコレクション“Dead Weight”』(1971)

Dead Weightは船や軍艦の載貨重量のこと。ホリスター将軍はちょっと積みすぎたようですね。何を捨てたらよかったんでしょうか……。

★★★★☆

ゲスト俳優:エディ・アルバート(『ローマの休日』ほか)

共演:スザンヌ・プレシェット(『鳥』ほか)/ケイト・レイド/ジョン・カー

 

 色気むんむんのお爺さんが登場する渋い一作。このお爺さん役のエディ・アルバートって『ローマの休日』のあのカメラマンなんですよね。渋くなったなあ。

 本筋には関係ありませんが、いつもコロンボものは吹き替え版で見ることに決めておりまして。ホリスター将軍の日本語吹き替えをしておられる久松保夫氏の、甘い猫撫で声がめっちゃ良いんですよね。裏で絶対に悪いことやっている奴の声っていうか、救国の英雄が裏で私利を貪る図そのまんまなのがぴったり合う声です。

 

 また、本作は重要な目撃者の立ち位置がややトリッキーな作品なので、コロンボの目的の一つに犯人逮捕だけでなく、目撃者の救出という軸が交差している点も見逃せません。やもすれば、目撃者が犯人に口封じで殺されそうな事件なので、安易に手出しがし難い状況にも関わらず、犯人の反撃を許さず一撃で相手を倒すコロンボも手腕もさすがです。

 

 

では!

 

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