『スパーダーマン/ファー・フロム・ホーム』【映画ネタバレ感想】MCUの出木杉英才くん

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引用:2019 Sony Pictures Digital Productions

 

ロマンス、アクション、シナリオ、コメディ、サプライズ、どこを切り取っても優等な出木杉的作品でしたね。

 

 

    本作は新しいスパイダーマンシリーズの第2作目という側面もあり、前作『ホームカミング』との関連性や発展性という観点からも見どころが多いのも特徴の一つ。

    また、スパイダーマンというキャラクターが内包する、戸惑いや葛藤、精神面でのアップダウンの激しさが見事に作品に反映されていて、終始「スパイダーマン見てるううううう」感がヤバかったです(語彙力)。

 

 

以下、超ネタバレですので『アベンジャーズ/エンドゲーム』を含むMCUシリーズを未鑑賞の方は鑑賞後にご覧ください。

 

 

    MCUシリーズの集大成的作品『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、壮大なスケールで描かれたシナリオや最強最悪の敵との決着、そしてシリーズの功労者たちの退場という結末を用意することで、文句なしの完ぺきな帰結を見せてくれました。しかし、同時に多くのマーベルファンの心を折ることにも成功してます。

 

    『エンドゲーム』公開時には既に本作の予告編は公開されていたわけで、『エンドゲーム』後の世界や、これからのMCUの道標になるであろう作品になることも周知の事実でした。だからこそ、一度消えた炎に再点火してくれるだけのエネルギーがあるか不安でしたが、

見終わってみると再点火どころじゃない!!

『ファー・フロム・ホーム』の火種が引火して誘爆を起こし、あの歴史的一作『アイアンマン』の映像までもがフラッシュバックして、さらに映画館を出てすぐさまAC/DCの「BACK IN BLACK」を爆音で聞きながら、帰り道のマクドでハンバーガーを買うくらい凄まじい力を持った作品でした。

 

 

 

    さて、本作は二つの物語の軸をもって進んでいきます。一つは『エンドゲーム』直後の作品として。そしてもう一つは『ホームカミング』に次ぐ2作目として、です。

    前者は、全人類を救ったアイアンマンと精神的柱でありシンボルであったキャプテンアメリカなき今、アイアンマンが遺した強大な力を受け継ぐものとしてスパイダーマンが果たす役割に焦点が当たり、後者目線では、スーパーパワーを持つヒーローとしての成長物語に光が当たっています。この二つの軸が実に見事に交わっています。

 

    まず、トニー・スタークを彷彿とさせる兄貴分的なミステリオジェイク・ギレンホール)が抜群です。ミステリオのサングラスをかけた姿がトニーにちょっと似てるってのも配役の妙技ですよねえ。そして、そんな信頼していたミステリオの上っ面に見事に騙されてしまうのもスパイダーマンの青さと言えば青さなのですが、ここに前作『ホームカミング』からの成長が見られておじさん嬉しかったです。

    前作でバルチャーにしてやられて瓦礫に埋もれたスパイダーマンは、ヒーローとしての自覚を持ち、矜持を取り戻すことで底力を発揮し窮地から脱します。本作では、同様に完膚なきまで叩きのめされた後、自ら考え、対策を練る姿が見られました。

    つまり、前作までの根性論(とにかく、諦めず立ち向かう)から脱却し、論理的な思考で敵に立ち向かう戦略にシフトしたのです。これはまさにアイアンマンの戦い方ですし、スパイダーマンの精神的な成長の表れです。

 

   今後のスパイダーマンシリーズの発展性の高さも見逃せない部分です。MCUシリーズのヒーローたちのほとんどが全人類に顔出しした状態で活動を続けていますが、スパイダーマンだけは、顔出しNGで秘匿性を持ったまま活動しています。

    本作のラストで、ある意味スパイダーマンのアイデンティティの一つが無残にも崩れ去ったわけです。ここは、前・前々シリーズでもやってこなかった演出(似たようなのはあったけど)なので、「次どうなんの!?」という期待感が爆上げで、マジで製作陣抜け目ねえな、と思いましたね。

 

    あと悪役にもフォーカスしてみると、驚きは確かにあるけど、実はコテコテにテンプレどおりなのも好感が持てます。

    敵のテンプレには数多くあって、何考えているかわからんサイコパスでもいいし、表向きはエコロジストの慈善事業家だけど本当は裏社会に通じるテロリストみたいなのも良き。本作のように、見方っぽいけど実は敵、とか、凡人なのにヒーローを圧倒する敵ってのもテンプレの一つに違いありません。

    特にほとんどのヴィランに共通する「ヒーローを倒すときの美学」みたいなのがミステリオにもあって好感が持てました。ほら、あの電車に轢かれるように誘導するくだりね。正直もっと簡単な方法でヒーローを殺す方法があるはずなんだけど、エンタメ作品の宿命か、ヴィランはヒーローを窮地に追い込む特別な演出が絶対に必要で、しかも最終決戦時にはもう一回被せて同じ手法でヒーローに立ち向かわなければいけない。

    で、こういうテンプレというか正統性というかオーソドックスさっていうのが、たぶん観客には1/fゆらぎくらい快感なんですよ。

 

    ドローンやAR(拡張現実)などの新技術、目新しさを前面に押し出しながらも、しっかりとテンプレどおりのシナリオを底本に、ミッション・インポッシブルかと見紛うばかりにヨーロッパ各地を転々とさせつつ、『アイアンマン』をなぞるかのような演出を盛り込み、シリーズ随一のサプライズをラストに持ってきながら、キレイにロマンスも畳んでしまう。この優等生振りがとにかく憎い。

 

    最後に、蛇足ですけどちょっと気になるところだけ。スパイダーマン強すぎない?いやマーベルヒーローの中でも群を抜いて強いのはもちろんわかっていて、別にいいんですけど、電車に轢かれてちょいと肩を縫うくらいってのはねえ…アレでピンピンしていたら、最終決戦でのドローンの攻撃なんて虫刺されくらいでしょう?何が何でもミステリオがちょっと可哀そうというか、もう少しハンデ、もしくは攻撃に決定力をあげても良かったんじゃないかとは思います。あと、そもそもARもその一定空間に仕掛けるトラップなので、距離をとれば無意味じゃね?みたいな…。

 

    まあ、ラストでスパイダーマンは手痛いしっぺ返しをくらうわけで、一般人らしい悪あがきは成功していてイーヴンなのかな、とも思いますけど。

 

    ということで、間違いなく、新しい展開がてんこ盛りで、これからの期待値がぐんと上がる一作でした。

では!