平成最後に現時点での海外ミステリATB(オールタイムベスト)を発表

 ついに今日で平成も最後。平成の元年に生を受けたというだけで、特別な思い入れはそこまでないのですが、海外ミステリにハマってこの方4,5年で出会った海外ミステリのランキングだけはチマチマと作成しているので、平成の最後に、記録もかねて記事にしてみようと思います。

※ちなみに同位の作品も複数あるので、全13作のご紹介となります。

 

第10位タイ 迷走パズル(1936)パトリック・クェンティン

 演劇のプロデューサーであるピーター・ダルースシリーズの第一作ですが、そんな設定すら根底からひっくり返してしまうような衝撃のデビュー作です。事件の舞台となる場所の空気づくりというか雰囲気が見事、それにつきます。

 

第10位タイ 不変の神の殺人(1936)ルーファス・キング

 多少事件自体にムリがあるのは事実ですが、ボリュームが少ないのにもかかわらず、陸・海・空と舞台を転換してスピード感を出しながら、最後には死角から不意打ちをしかけてくる演出が憎い。もっと世間の評価が高まっても良い作品です。

 

第10位タイ オランダ靴の謎(1931)エラリー・クイーン

 エラリー・クイーンの代名詞でもある「論理的なパズルミステリ」を完璧に体現したシリーズ第3作。国名シリーズはどれも傑作揃いで『エジプト十字架』や『ギリシヤ棺』なども捨てがたいのですが、本作は病院が舞台に選ばれているという点で強い印象があるのと、ミステリを読んで初めて「美しい…」と感じたあの衝撃が忘れられません。

 

第10位タイ トライアル&エラー(1931)アントニイ・バークリー

 オーソドックスな本格ミステリとは一線を画す、やや特殊なミステリではありますが、倒叙の要素を織り込み、複数回読んでも楽しめるだけのポテンシャルと、二度と忘れえない強烈なオチが魅力です。登場人物の人間性がしっかり掘り下げられ、全体的にペラペラになっていないのもベストテンに入る要因です。

 

第9位 Xの悲劇(1932)エラリー・クイーン

 つい先日も新訳版が出たばかりの、エラリー・クイーンがドルリー・レーンという別名義で書いた『悲劇四部作』の第一作です。事件自体の奇抜性も素晴らしく『X』というモチーフが、一貫して作中を動き回るため、読者の興味を高いレベルで維持したままクライマックスまで引っ張る力があります。引っ張るだけ引っ張って、おしまい、ではなく、ちゃんと納得させる(驚かせる)サプライズがあるのも素晴らしい。

 

第8位 第二の銃声(1930)アントニイ・バークリー

 ATBの常連なので言うことはあまりありません。トリック草案から、人物造形まで作者バークリーの配慮が細部まで行き届いた傑作です。

 

第7位 アクロイド殺し(1926)アガサ・クリスティ

 日本でもドラマ化されるなど、人気の高い作品であると同時に、ネタバレの危険度がとても高い一作です。まだ未読の方は予備知識なしに是非とも読んで欲しい必読作。読み返すたびに、自分が見落としていた伏線や台詞が見つかり、クリスティの技量の高さを見せつけられる作品です。

 

第6位 俳優パズル(1938)パトリック・クェンティン

 第10位にもランクインした『迷走パズル』の次作。探偵役に用意された妙技しかり、真相解明のまさにその瞬間に用意された空気づくりにいたるまで、読者を本の中に引きずり込む強力な引力があります。そしてそれに嵌ってしまったが最後、余韻の深さと衝撃の強さのせいで、今でも第3作以降に手が伸びていない問題作でもあります。

 

第5位 ナイン・テイラーズ(1934)ドロシー・L・セイヤーズ

 「衝撃度」と言う点で、本作に敵う作品はありません。貴族探偵ピーター・ウィムジィ卿シリーズ第9作ということで、なかなか初心者にはオススメしにくい作品ではありますが、ミステリを読んで、マジで頭をかち割られると思った作品は本作だけ。シリーズ全体としても良くできたシリーズなので、手に入りやすい今のうちに読んでみることをオススメします。

 

第4位 蝋人形館の殺人(1932)ジョン・ディクスン・カー

 ホラー要素とミステリが渾然一体となった作品としてレベルが高いだけでなく、冒険要素や、アンチミステリのような趣向まで、贅沢に盛り込まれたカーの傑作です。恐ろしい雰囲気そのものが真相に繋がる手がかりを隠す特殊な効果を発揮している点も、他の作品にはない魅力です。

 

第3位 オリエント急行の殺人(1934)アガサ・クリスティ

 海外ミステリにはまる切欠となった作品です。多少“あざとさ”が目立つ作品ですが、それもクリスティの類稀なる創作能力が成せる業。奇抜な発想とそれを成立させてしまう強固なプロットが圧巻です。何度も映画化されるほど有名な作品なので、こちらもネタバレに遭遇する前に体験してください。個人的には、本作は書籍よりも映像の方が魅力的ではあります。

 

第2位 Yの悲劇(1932)エラリー・クイーン

 本作も言わずと知れた傑作海外ミステリの一つです。『悲劇四部作』の第2作として順番に読むことがミソになる作品ではありますが、単品でもその破壊力は十分ありあります。素晴らしい真相のサプライズと同時に、言い表せぬ恐ろしさや不気味さも魅力の一作です。

 

第1位 そして誰もいなくなった(1939)アガサ・クリスティ

 「見立て殺人」をテーマに、今やどこにでもあるような氾濫したプロットの作品ではありますが、その元祖にして最強の作品です。プロットの種を明かした上で開幕するにも関わらず、その真相は五里霧中かつ恐怖心を極限まで煽る文体が圧巻です。短い文量ではありますが、プロットの裏を流れる「罪」に対する哲学的な思惑にも思いを馳せてしまう奥深さがあります。

 

おわりに

 改めてこのようにリストアップしてみると、1930年代、いわゆる推理小説における黄金時代の作品が実に多い。また、ランキング作成の根拠も、どれだけ本の世界に没入できるか、作品の世界を旅できるかが、重要なファクターになっていることがわかりました。あとは「余韻」でしょうか。単発の巨大な爆音ではなく、それこそ『ナイン・テイラーズ』に登場する鐘のような共鳴によっておこる衝撃が長く深く続くミステリ。そんな作品に魅かれているのかもしれません。

 

 読書期間はわずか4,5年。総読了数も300冊弱ではありますが、とりあえず、現時点でのATBは以上です。次の発表はまた5年後くらいでしょうか。ただ、令和になっても、しばらくはクラシック・ミステリしか読まないとは思うんですよねえ。

 でも、だからこそ、クラシック・ミステリの魅力を少しでも伝えることができるブログの一つでありたい、改めてそう思いました。

 

では!