『ストームブレイカー』アンソニー・ホロヴィッツ【感想】大人の扉を少しだけ開こう

2000年発表 少年スパイ・アレックス1 竜村風也訳 集英社文庫発行

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 当ブログでは決して大々的にお伝えはしていないものの、筆者ぼくねこは、かなりのジョジョラーだと自負しています。ただ、「ジョジョの奇妙な冒険」ファンを謳っておきながら、恥ずかしいことに、荒木飛呂彦先生がカバーイラストを描いた小説の存在を今まで知りませんでした。それがYAヤングアダルト)向けに書かれた、本書を第一作とするスパイ小説少年スパイ・アレックス』シリーズです。

 そもそもこの本を手に取った切欠は、作者のアンソニー・ホロヴィッツでした。アンソニー・ホロヴィッツと言えば、2018年に多くのミステリ系ランキングの一位を総なめにした傑作長編ミステリ『カササギ殺人事件』の作者です。いきなり『カササギ殺人事件』を読むことに根拠のない不安を感じ、先ずは予習というか、作者の作風を理解してから挑戦したいと思ったのでした。(じゃあ『絹の家』とか『モリアーティ』を先に読めよ、と言う声が聞こえてきそうですが…)

 『カササギ殺人事件』を読み終えた今思い返すと、別に予習なんて必要なかったと断言できるのですが、本書と出会えたことには感謝。今までヤングアダルト(だいたい13~19歳が対象)にジャンル分けされた作品には全く触れてこなかったのですが、本書は、何の障壁もなく自分を、中学生だったあの頃にタイムスリップさせて、無茶のある設定を含めて純粋に楽しませてくれました。

 

 あらすじというか本書の紹介ですが、英国秘密情報部(MI6)から、死んだ叔父に代わってスパイをしろと命じられた14歳の少年アレックス・ライダー。これだけで十分でしょう。「何それ!?気になる!」と食いつくか、「絶対に子ども騙しの、幼稚な作品でしょ」と拒絶してしまうかは、人それぞれですが、たしかに設定が設定なだけに後者の意見も止む無し、といったところでしょうか。

 しかし、第一印象は突拍子がなくとも、14歳の少年アレックスの人間性には一貫性があり、彼のバックボーン(全ては明かされませんが)が、ある一定MI6のスパイという設定に説得力をもたらしてくれるはずです。

 また、既に亡き人物で親同然だった叔父のキャラクターも、作中では多くが語られることがないものの、アレックスの人格や言動には確かな影響を与えており、もう数作シリーズ作品を読んでみたいと思わせるだけの魅力は備わっています。

 

 ちなみに、日本人の14歳(中学2年生)の平均身長は約162~167㎝、イギリスは約162~168㎝(そんなに変わらないのね)らしいです。そこで、該当しそうな身長の芸能人を探してみると…良さげな人がちらほらと。ベビーフェイスを持ちながら、運動神経も良く、タフな印象を持つキャラクターで言えば、神木隆之介くん(167㎝)とか良いですね。るろうに剣心にも出てましたし。あと、須賀健太くん(166㎝)は少しおぼこ過ぎるかな??

 

 ちょっと話が逸れたので元に戻しますが、ようく考えてみると、アレックスのおかれた境遇自体、属性そのものは、別に特殊すぎることはありません(もちろんそんなに頻発するものでもないですが)。

 愛する人を失うことで拠り所がなくなり、一人で自活することもできず、人生の選択肢がほとんどない状態。アレックスの場合は、そのタイミングでたまたま、別の新たな選択肢を提示してきたのがMI6という諜報機関(!)だっただけです。しかも、アレックスには他に選ぶ余力も余裕もなく、半ば強制的にスパイ活動に従事させられます。このあたりの描写が、さすがYAというか、子どもの壁を超えながらも、大人の持つ力には逆らえず敵わない、微妙なヤングアダルトたちの心を掴むのかもしれません。

 

 また、MI6と言えば、スパイものの最高峰でもある007シリーズと同じスパイ組織ですから、できることならボンドカー(007のスパイ、ジェームズ・ボンドが運転する車)であるアストンマーティンや、ワルサーやベレッタといったハンドガンを見たい気もしますが、ここは主人公が14歳の少年である点をちゃんと考慮して、しっかりと規制されています。

 それらの代わりに作中に登場するスパイ要素満点のギミックや、敵のキャラクター、アジトの造形の素晴らしいセンスは、やはり作者アンソニー・ホロヴィッツだからこそ生み出されたものです。特に敵のキャラクターと事件の真相については、多少臭いところもありますが、国境を越えて全世界のYAたちに刺さるであろう内容になっています。

 

 全大人必読!というわけではありませんが、自分の子どもには、このタイプの小説も良きタイミングで読んで欲しいと思いました。いつかは開けないといけない大人への扉の前に半ば強制的に立たせつつ、大人になっても決して忘れてはいけない冒険心やチャレンジ精神、勇気だけは抱えて旅立つんだよ、と背中を押してくれ、最後にはピリッと辛い教訓も教えてくれる

 別に何も感じ取らなくたってそれはそれでいいと思うんですが、ただ楽しいだけじゃないよ、と言ってくれる厳しさも併せ持つ作品は、案外大事かもしれません。

では!