『占星術殺人事件・改訂完全版』島田荘司【感想】不思議な魔力が具わった傑作長編

1981年発表 御手洗潔1 講談社文庫2013年版

 

当ブログはご存知の通り、主に“海外ミステリ”の感想を綴るブログということで、あえて国内のミステリの感想記事は書かないスタイルでここまでやってきました。

理由として、そもそも国内本格をあまり読んでいない、というのもあるんですが、有名な国内ミステリって、わざわざブログで紹介するまでもなく、既にドラマ化や映画化など宣伝効果の高い手法で大衆に周知されることが多い。

特に本書は、某有名漫画で先にトリックがネタバレされるなど、作品名よりも重要な中身の方が先に知れ渡ってしまった不運な作品でもあります。

ただ、ネタバレ遭遇率が高いにも関わらず、2012年週刊文春で実施された「東西ミステリーベスト100」では堂々の3位、ということですから、いかに現代の読者の多くに支持されているかわかるでしょう。

 

※当記事は、講談社文庫から2013に発行された【改訂完全版】の感想です。他の版で描かれていない部分や表現の差異などは全く考慮せず書くので、ご了承ください。

 

 

あらすじの紹介は省略します。占星術と錬金術に異様な拘りを持つ関係者の手記、というオープニング。そして、お約束のような雪密室と陰惨で猟奇的な事件。このキーワードだけで十分でしょう。

探偵役を務めるのは探偵が趣味の占星術師・御手洗潔(みたらい きよし)、そして語り手は御手洗の親友である石岡が努めます。彼らの性格や個性には、探偵の元祖シャーロック・ホームズとワトスンの面影がありますし、敵役っぽい警察官や典型的な依頼人など、王道の流れを汲む本格ミステリの空気が感じられるおかげで、世界観にはかなり入り込み易いのではないでしょうか。

 

ここからは、読了直後に書いた読書メーターの感想を少しずつ切り取って、それぞれの感想を綴る形をとります。

 

“多くのミステリ愛好家たちがこぞって絶賛する超のつく有名作品”

やはりミステリ界に燦然と輝く至高の名トリックが最高です。さらにメイントリックだけに留まらず惜しげもなく披露されるサブトリックの数々、そして、それらを繋ぎ合わせ40年以上もの時を超えて解決へと導く名探偵の天才的推理。これだけでミステリ系ランキングの上位に選出されないはずがありません。

 

“推理ゲーム的趣向が詰め込まれた典型的なパズルミステリ”

作者・島田荘司氏の名前で〈私は読者に挑戦する〉と正々堂々と宣言された読者への挑戦状がシビれます。しかも複数回あるんですよ、これが。

 

“…のはずなのだが、読了後の充足感、達成感には比類ないものがある”“全ての記述が不可分の関係にある完ぺきな一作”

なんてったって500頁を超える雄編のため、達成感はあって当然。御手洗が足で手がかりを追うようになる後半は少し弛むように思えましたが、解決編に入り、用意周到な解決の舞台、真相が明かされる構成、そして味わい深いオチを全てを体験したとき、解明までの長年月でさえ無駄ではなかった、不必要ではなかったと確信させられます。この計算高く緻密なプロットも最上です。

 

“作者あとがきまで読んで、何かぽいものを書きたくなった”

本書【改訂完全版】は作者・島田荘司氏によるあとがきで締め括られています。ここでは、デビュー作でありながら長年代表作と言われた『占星術殺人事件』への複雑な胸中から、本書を稿するまでの経緯や背景、さらにはミステリへの熱い思いなんかもひしひしと伝わってきます。

特に、島田荘司氏が作家となる素地を作った幼少期の体験(東京オリンピック関係)部分は、2020東京オリンピックが近づく今読むと、つい未来の未知なるスターたちの誕生にも思いを馳せてしまいます。

 

本書のミステリ的な魅力を伝えるという点で、少し逸脱してしまうので書くのが憚られますが、この作者あとがきが、読んでいて一番心を動かされました。このあとがきは、『占星術殺人事件』を読んだ読者へ向けたメッセージになっており(ネタバレはありません)、先にここで紹介するのはフェアではないため省略しますが、読者に何かしらの行動を促す不思議な魔力がたしかにあります

さすが国内有数の傑作推理小説です。

 

では!