僕の猫舎

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『スペイン岬の謎』エラリー・クイーン【感想】ぶ厚い物語と堅固なプロットが持ち味

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1935年発表 エラリー・クイーン9 井上勇訳 創元推理文庫1959年版

 

本当は島田荘司『占星術殺人事件』の感想を先に書こうと思っていたんですが、このタイミングで本を失くしました。これは、ミステリ界の神“エラリー・クイーン”の「書くな」というお告げなのか。

 

本作はエラリー・クイーンの最も有名なシリーズ“国名シリーズ”の最終作。

最終作と言っても、何かシリーズの集大成だったり、連作的要素は全く無いので、初心者でもチャレンジしやすい作品です。

とはいえ、レギュラーキャラクターのクイーン警視ジューナが登場しないので、気になる方は発表順に『ローマ帽子』から入るのが良いでしょう。

 

あらすじは極力省略したいですねえ…まずは導入部で一つ小噺がありまして。そして、小噺の中には大犯罪がありまして。そんな犯罪が起こった「スペイン岬」へ、エラリーが休暇へとやってきます。

 

今回エラリーは、よくある不運な巻き込まれ型の探偵を演じることになるわけですが、事件自体は、一度目にしたら二度と忘れられないような視覚に訴えるものになっており、この事件を軸に、まったくブレることなく結末まで突っ走っていく勢いがあります。この勢いと、物語の随所にあしらわれている心をくすぐる演出は、たしかに見どころの一つなのですが、ちょっと物足りない、というか…パンチ力不足、というか…

 

もちろんエラリー・クイーンの代名詞とも言える「読者への挑戦状」があったり、手がかりから論理的に紐解かれた美しい真相が用意されているなど、国名シリーズの中でも抜群に上出来の作品だとは思います。しかしながら、物語に厚みがある弊害なのか、ある程度ミステリを読み慣れている読者ならゲームの慣習(いわゆる、当てずっぽう)による推理でも真相に掠ってしまう可能性がありそうです。

となると、せっかく用意された魅力的な謎も、謎を論理的な思考で解き解す楽しい過程も、半ばすっ飛ばして結末まで流してしまうわけで、クイーンものの良さが若干薄れてしまった気がしています。

クリスティのように、読者を掌上で翻弄する巧みな筆致で戦うわけではないので、どうもこのタイプのプロットではクイーンらしさが全面に出ないのかもしれません。

 

上記のような理由で、コアなミステリファンの評価が割れそうな一作ですが、可か不可、ではなく良か可、ほどの誤差レベルだとも思うので、ある程度万人にオススメできます。

 

前半で述べた通り、特殊な効果を持つ導入と、インパクト大の事件、全体を流れる人間味ある物語のおかげで400頁を超えるボリュームも難なく消化できます。そしてオチに待つこれまた印象的な演出で彩られた驚愕の真相

地図や図面が無いため、若干イメージしにくい部分がある点を除けば、ぶ厚い物語と堅固なプロットが持ち味の、海外ミステリ初心者の方でも十分楽しめるオススメの作品です。

 

ネタバレを飛ばす

 

 

以下超ネタバレ

《謎探偵の推理過程》

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

冒頭の誘拐事件からはちょっと芝居臭い感じもする。というかデーヴィッド・カマーを人違いで誘拐、という設定に若干の無理がある気がしないでもない。まあここは素直に受け取っておく。

 

マントのみを着用した裸の男の死体、というオープニングはたしかに衝撃的。

服に因んだミステリと言えばクイーンの『チャイナ橙』を思い出すが、ソレとは違う要因で服を脱がしたのだろう。

 

何点か可能性が提示されるが、「服を着て逃亡した」という可能性が検討されていない。マーコの死体の状況から、浜で絞殺され服を脱がされたのは決定的なので服の行方が重要なポイントか。ただ、海から犯人が来ていないと証明されている以上、なぜ服を着なければいけなかったか証明できないが…

 

物語の筋は、脅迫とゆすりを生業にしている悪党が殺された、ということでほぼ全員が容疑者。

とくに怪しいのはスペイン岬の所有者ウォルター・ゴッドフリー。彼が妻の不貞に知らなかったフリをしていたら?彼のキャラクターで妻を許すという姿が想像し難い。

しかしそうなると被害者はまずステラでないといけないし、ステラが続いて殺される気配もない。う~ん。

 

裸で海から泳いできて、服を着て逃亡したのなら誘拐を演出したデーヴィッド・カマーが犯人だろうけど、実質不可能だしなあ。降参。

 

推理

デーヴィッド・カマー(ぽい)

結果

惜しいトコロまではいってました。

毎回毎回、エラリー本人に騙されるんですけどどうなのこれ?

もちろん、描写自体は決してアンフェアではなく、ミステリとしての格式は高い水準をキープ。

 

まあ、探偵が自身で証明したことを結末部でひっくり返されると、ややゲンナリしたというのが本音なのですが、以外と読後感が良好なのは、やはり事件と犯人の特性のおかげでしょうか。

また、探偵助手を務める経験豊富なマクリン判事に加え、素人探偵の才能を発揮するティラーが良いキャラクターをしています。

 

 

ネタバレ終わり

J.J.マックというシリーズお馴染みの執筆者によるまえがきに始まり、皮肉が利いたオチ、論理性を損なうことなく最後まで手を抜かずに書かれたあとがきに至るまで、国名シリーズの掉尾を飾るにふさわしい名作です。

では!