発表年:1929年
作者:G.K.チェスタトン
シリーズ:ノンシリーズ
訳者:南條竹則
定期的にチェスタトンを摂取したくなるのなんなんでしょうか。耐性がないと(慣れないと)読みにくい逆説だらけの構成がどこかクセになっているのかもしれません。
衒学的というと言い過ぎかもしれませんが、チェスタトンものを読んでいると、逆に自分がアホになった気がしてきます。言葉の魔法にかけられているというか、幻術にかけられているかのような微睡みを覚える作品も多々あります。
その中でも本書は、特に奇妙な謎がふんだんに盛り込まれ、各話に美しい解決が用意された異色の連作短編集です。
本書は、1929年発表という古典ミステリの【新訳版】ということで、現代人にもかなり読みやすくなっています。
そして大幅に改訳されながらも、チェスタトンものの雰囲気が全く損なわれていないのは、訳者南條竹則氏のおかげでしょう。
とくに漢字が多用されている部分、そして、なかなかお目にかからないような読みをさせる単語の数々からは、魔法がかった言葉の不思議で奇妙な味を感じます。
※手斧(ちょうな)とか醜男(ぶおとこ)などなど
今回は各話感想を省略して、導入の1作のみご紹介します。
『風変わりな二人組』
“旭日亭”にふらりとやってきた絵描きとその代理人。さびれた宿屋に再び活気を取り戻すため、絵描きは看板に新しく絵を描く。そこに突然の絶叫が谺し…
本書の導入でありながら、その全てと言っていい作品です。本篇を読むだけで、本書がいかに奇妙な世界を取り扱っているかがわかります。
感想を何も書かないと記憶がどんどん薄れちゃうので、以降ネタバレにならない範囲で、奇妙な世界を構築するための小道具のみ記載しておきたいと思います。
『黄色い鳥』
- 鳥籠
- 金魚
『鱶の影』
- 曲がった傷
- 海星
『ガブリエル・ゲイルの犯罪』
- 嵐
- 雨粒
『石の指』
- 化石
『孔雀の家』
- 塩
- テーブルナイフ
『紫の宝石』
- 土産物
- お菓子
- 白い紙
『冒険の病院』
- 頓狂院
狂人探し
本書のタネは、たぶんタイトルを見ればおのずと明らかになると思われます。
推理小説におなじみの犯人探しがテーマではもちろんありません。
各話に登場するのは、一癖二癖では済まないほどネジの外れた狂人たち。手がかりだけは正々堂々と提示されているとはいえ、相手は狂った怪物たちですから、いち読者として論理的に解決しようと挑むのはなかなか骨が折れるはずです。
なので、注目していただきたいのは、そんな狂人たちの手綱を取りながら怪事件をさらりと解決してしまう一人の探偵です。
ここはなるべく先入観を抱いてほしくないので、できれば、裏表紙のあらすじなんかも適度に流して、第一話『風変わりな二人組』からチャンレンジしていただければと思います。しょっぱなから印象的なサプライズになるはずです。
続く『黄色い鳥』~『紫の宝石』までは、探偵役やシリーズキャラクターたちとともに、素直に幻想的なミステリを堪能してください。
そして最後『冒険の病院』ですよ…大好きです。クリスティの「クィン氏」とか「パーカー・パイン」のロマンティックな空気が好きな方ならがっつりハマると思います。
ただ、これを読むためにはまず『風変わりな二人組』を読まなければいけません。ならついでで良いので『黄色い鳥』~『紫の宝石』も読みましょう。で、それらを読み込んだら、最後の『冒険の…
では!