僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

丁寧な仕事してます【感想】F.W.クロフツ『サウサンプトンの殺人』

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発表年:1934年

作者:F.W.クロフツ

シリーズ:フレンチ警部12

訳者:大庭忠男

 

染みわたるわあ~、砂漠で飲むお水くらい染みわたる。アクの強いカー作品を読んだ後ということもあって、真っ直ぐな作品に出会うとすいすい読めてしまいます。

今日紹介するのは、「今年はクロフツ祭りだ!」とか言っておきながらたった8作しか読めていないフレンチ警部シリーズの第12作。

 

本書はミステリとしての装いにひと手間加えられたプロット重視の名作なのですが、単体としてだけでなく、シリーズ作品としても感慨深い、記念すべき一作でもあります。

未だフレンチ警部に出会っていないそこのあなた!

新訳版も出ているので、ぜひシリーズ第一作『フレンチ警部最大の事件』からチャレンジしてほしいです。

 

間の10作も粒ぞろいなんですよこれが。名作『スターヴェル』や『海の秘密』、プロットの妙技が光る『二つの密室』にサスペンスフルな『死の鉄路』、絶対的悪が登場する『ホッグズ・バック』も捨てがたいです…

 

 

では感想をば。

本書の核心となるネタをあまり明かしたくないので、あらすじは省略しますが、題材はクロフツが得意とする企業犯罪です。この犯罪の行程がまず面白く、動機や手法にも説得力と確かなリアリティがあります。

また、当時の時代背景や、人々の生活環境がばっちり反映されているので、ミステリとしてだけでなく激動のヨーロッパの情勢に触れることができるのも楽しみの一つです。

 

そして、この設定を背景に、クロフツが用意した仕掛けをもって絵が描かれると、とたんに特殊な効果が発揮されるのが堪りません。

クロフツ従来の作品に比べると、丁寧に描きすぎて犯人まるわかり、トリックモロ見えみたいな弊害が全くなく、丁寧に堂々と描かれていながらも、一部分が見えそうで見えない、歯痒い感じが常にあります。ここに、推理を楽しむ余地が生じるのです。

 

一方、探偵役のフレンチ警部による捜査はいつも通り、地道で堅実そのもの。お旅行気分満載とはいきませんが、自分だけの知識では解決できない点は専門家から学んだり、得た知識を実地検証したりと、いつものフレンチ流探偵術だけでも、ワクワクしてきます。

どの捜査をとっても無駄足というわけではなく、フレンチ警部にとってはむしろ可能性の排除と言う点で、得るものがないのは進展の一つです。

この丁寧さこそ他のミステリ作家には出せない色なので、トリッキーな作品が好みの方にも一度はクロフツ作品に触れてほしい所以です。

 

あとは味わい深いオチでしょうか。

多少説明くさい文章にはなっていますが、ちゃんと登場人物のその後まで配慮が行き届いているので、読後感も爽やかです。

また次の作品でお会いしましょう、とフレンチ警部が優しく手を振っている姿が想像できる、そんな柔らかなミステリでした。

 

ネタバレを飛ばす

 

 

 

以下超ネタバレ

《謎探偵の推理過程》

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

本書旧装版の帯にも書いてあるように、「倒叙+本格」という新たな試みが、完全に成功している。

たぶん前作『クロイドン発12時30分』がトライアルになっていて、そこから着想を膨らませ描き切れなかったところを改善したのだろう。倒叙の形に興味を持っていたことは、もう少し前のフレンチ警部登場作品から薄っすら感じ取れるのだが…

クリスティやクイーンからは、常に新しく・今までにないものをという強いエネルギーを感じるのだが、クロフツの場合、過去作のブラッシュアップに注ぐ熱量が多く、しかもちゃんとより良いものになっているのだから毎回驚かされる。

企業犯罪というテーマ一つとっても、『製材所の秘密』『紫色の鎌』etcとどんどん精度が上がっているのがわかる。

 

 

倒叙という形式上、推理と呼べるほどの考察は必要無いハズなのだが、第二の事件が起こり、その犯人が第一の事件の犯人と同一人物ではない、と言われるとガラリと様相が変わってくる。

 

臆病で小心者のブランドは主犯から外すとして、大本命は実行犯キング

しかし、鉄壁のアリバイがあり、上司タスカーの助けなくしては犯行は不可能。

ここの物理的トリックはフレンチ警部におまかせ。

 

推理

フレデリック・キング(実行犯)

ジェームズ・タスカー(共犯者)

結果

ジェームズ・タスカー(首謀者!

フレデリック・キング(実行犯)

 

ほーほー。

タスカー、おぬしも悪よのう。

 

ほとんど最初っから黒幕だったとは驚きました。

あとは、随所に光る小技が良いですね。新製法に書かれた間違った文法までそのまんま写してしまったり、フレンチ警部が臆病なブランドから攻め落としたり、事件後ブランドはライバル会社から引き抜かれるけど、嫌気がさして国を離れたり(笑)、と全てのパズルピースが正しい場所に収まるよう念入りに物語が作られている点にクロフツの巧さを感じます。

 

 

 

ネタバレ終わり

フレンチ警部シリーズのランキングとか作ったら、絶対上位に来そうですねえ。

本シリーズ未読はあと17作もあるのですが、その内数作しか持ってない…全作読破・ランキング作成は遠い先のことになりそうです。

どうか、続々と新訳版が出ますように!そして、たくさんの人がフレンチ警部に出会えますように!東京創元社様、読者の皆々様よろしくお願いします。

では!