法と言ってもヴァン・ダインの二十則やノックスの十戒みたいなミステリを構成する法(Law)ではなく、ミステリを評価するうえで指針となる評価方法(Method)という意味での法である。
随分前から海外ミステリに得点を付けて順位付けしていることには触れたが、その重要な指針になっているのがエラリー・クイーンの考案した十項目の探偵小説批判法だ。この批判法については、<藤原編集室>コラム目次(スマホだと文字化けするのでPC推奨)に掲載されているものを参考にさせていただいている。1933年にクイーンが発表したミステリ専門誌<ミステリ・リーグ>に掲載されたものを井上良夫氏が翻訳したもので、すでに発表から80年以上経つにも関わらず現代でも観点に大きな変更が必要とされないことに驚かされる。
簡単にその十項目を紹介すると、1.プロット2.サスペンス3.意外な解決4.解決の分析5.文体6.性格描写7.舞台8.殺人方法9.手がかり10.フェアプレイとなる。
クイーン曰く、各項目を10点満点で採点し、総計が50未満の作品は貧弱―つまり普通の出来らしい。60以上は平均以上、70以上は佳作、80以上は傑作、そして90以上は常にミステリの最上位に在るべき貴重な作品だという。
お恥ずかしい話だが、ずっとミステリを読んできて、いまいち1のプロットという言葉の意味を正しく理解できていなかったと思う。まず英語の意味を調べてみると、小説や脚本の筋・構想だと説明されていたので、なんとなく“あらすじ”だと思っていた。ただ、あらすじが素晴らしい10点!となるとよくわからないし、あらすじで評価をつけるのは違う気がする。
そこで、もう一度しっかりクイーン先生の言葉を見返してみると、しっかりヒントが書かれてあった。
「着想」と「発展」
まず秀逸な着想に根差した読者の興味を惹く発端となっているか。そして、豊富な展開を持って着想を膨らませており、挿話も本筋から逸れずに着想の発展のために役立っているか。これがプロットを判断する材料なのだ。
少し前までは、読み始めてすぐに「これはなかなか良いプロットだ」なんて思っていたが、本来プロットの良し悪しとは、読み終えて初めて実感するものだと思えてきた。魅力的な着想をどのように発展させ、読者の興味を保持したまま意外性のある結末へと導いているか。中弛みや無駄な挿話がなく、作品の放つ熱量やテンションを維持できているかどうか。これが達成できているなら、その作品は素晴らしいプロットと言えるのではないか。
ベスト10から見る探偵小説批判法
プロット・結末の意外性のみ
1.プロット以外にも各項目で、自分なりの指針と言うか方針があって、書けばキリがないので、最後に自身の生涯ベストテンの採点結果をレーダーチャートにしたので紹介したい。
見ていてわかったのは、上位10作品はほとんどがプロット・サプライズ両面で8点以上の高得点をたたき出している。つまり、「着想」「発展」「結末の意外性」という徹頭徹尾面白い作品がベスト10に入っている。
一方で、サスペンス(必ずしもドキドキさせる激しい展開ではなく、読者の興味を保持するための工夫)は6【ふつう】~10まで幅広い。10点満点はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』なのだが、読書時は「次はどうなるのだろう」と先を読みたくて仕方なくてあっという間に読み終えてしまったことを鮮烈に覚えている。そんな読者を惹きつける工夫が、マザーグースや小道具の数々に込められているが故の10点満点だと思う。
もし、これからミステリ批評の際に点数をつけること検討している方がいらっしゃれば、クイーンの探偵小説批判法を用いてみるのはどうだろうか。作品へのリスペクトがより一層強まるし、なにより自身の記憶の補強にはもってこいの方法だと思う。
では。