全く文句はないけどアンクはある【感想】『エジプト十字架の謎』エラリー・クイーン

発表年:1932年

作者:エラリー・クイーン

シリーズ:エラリー・クイーン5


個人的にエラリー・クイーンのミステリは、初期からハリウッド的(単純に映画向け)な作品が多いような気がします。

 

何らかのサプライズが必ず有り、そこに喜劇・ロマンス・サスペンスいろんな要素を盛り込みながらも矛盾は無い。だから絶対に終始退屈だったりはしない。

そんなイメージがあります。まさに本作もそんなハリウッド的な作品の代表格でしょうか。

 

粗あらすじ

アメリカの僻村で見つかったのはT字路にあるT字の標識に首を切られT字形に張り付けられた死体と血で書かれたおどろおどろしいTの字。この凄惨な事件はさらなる残酷な事件の始まりに過ぎなかった。エラリーは残忍非道な犯罪の背後にある真相を解き明かすために、愛車で広大なアメリカ大陸を駆けてゆく。

愛車で駆けてゆく?


なんとも映像化し易そうなストーリー展開です。他にも裸体主義者やエジプトの太陽神を名乗る狂人など、濃すぎるキャラクターも映像映えしそうだし、何より愛車デューセンバーグが良い味を出しています

実は、特段好きな車種とかが無い私が唯一と言って良いほど好きな車が、このデューセンバーグなんです。

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引用:デューセンバーグ - Wikipedia

なんといってもフォルムが良い。そもそも車というのは馬車に変わる移動手段として進化と発展を遂げてきたわけで、荷車の前方に馬が繋がれている如く、車体の前方にパワフルなエンジンが付いているフォルムこそ正統派なのです!

しかもデューセンバーグはエンジンとシャーシ(フレーム)のみで販売され、それ以外は全てオーダーメイドが可能だったというから、これはもうまさにロマンの塊です。たぶんこれはもうガンダムです。

 

可変式の天井機構を備え、パーソナルカラーの塗装も思いのまま。スペアタイヤやスーパーチャージャーなどの武装の追加も自由自在。と、まさに夢の専用ガンダムに他なりません。

以下は、クラシックカーやミニカーにおける膨大なデータをわかりやすく掲載しておられるサイトです。デューセンバーグの画像検索だけで、たくさんの種類のデューセンバーグを見ることはできますが、所有者の個性が車に反映されることが特によくわかるページになっています。

自動車歴史 時代/自動車メーカー別 アメリカ デューセンバーグ ページ 1

 

 

話を元に戻すと

そんなデカくて、早くて、高くて、最高級な世界一の車が出てくるのだから、作品自体もそれに比例してくるってものです。←?

 

まず話の規模がデカい

広大なアメリカ大陸を舞台に目まぐるしく物語は展開します。また、事件が事件を呼ぶサスペンスフルな構成を軸にしているので、500P弱ある本書でもすらすらと読めてしまうはずです。

また、本作はハードルが少々高めに設定されていると思います。もちろん論理の愉しさみたいなものはじっくり味わえるのですが、謎と謎解きの構図が凝り過ぎているきらいが…というか真相はシンプルなはずなのにどうも、中盤ごちゃごちゃしているイメージが拭えません。

あとは事件に関連有り無しに関わらず挿話が多いのも、謎の輪郭を曖昧にしている一つの要因かもしれません。

「何(どんな手がかり)が必要なんだっけ?」と自問自答しながらの挑戦になってきます。むしろそれを狙ってのことかもしれませんが、少なくとも初心者向けの作品ではありません

 

最後に最高級という意味では、クイーンのプロフェッショナルな手腕を堪能できます。

食材や材料が最高級である必要はありません。シンプルなトリックの巧妙な配置はまさに一流の調理法を駆使したものです。

また、酸鼻な事件と淫らなロマンスというスパイスの効いた味付けも特徴的。

さらにオチまでしっかり楽しめるのは、それらミステリ要素の盛り付けが素晴らしかったからに違いありません。

 

車やら料理やら統一感のない例えばかり出して恐縮ですが、<国名シリーズ>5作目にして最高級の作品であることは保障できます。

 

 

ここからが新企画になります。

詳しくは、はじめにをご覧ください。

 

ネタバレを飛ばす

重ねてになりますが

ここからは必然的に

超ネタバレです。未読の方は、必ず本書を読んでから見てください。

 

 

 

《謎探偵ねこの推理過程》

 

まずはタイトルから疑ってみよう。

エジプト絡みの人物(ホルアクティ)ではないな。いやそもそも序文でこれでもかと「関係ない」と言われているのだから、信じても良かったのだが、前4作『ローマ』『フランス』『オランダ』『ギリシャ』のどれを取ってみても国名自体はあまりミステリに関係なかったので、今更堂々と「関係ない」と言われても信用はできなかったのだ。

第一部では事件の紹介と検死審問だけで終わってしまったので、除外者はホルアクティのみ。

 

第2部では、新たな事件と関係者が登場するが、ついでにホルアクティの弟子のロメインも除外してみた。たしかに今回の殺人には強靭な体力が必要で十中八九犯人は男だろう。しかしロメインはアホすぎる。鉄壁のアリバイがあることはもちろんアホである。女の尻しか追いかけていない。彼は違うだろう。

 

普通に考えてこの第2の事件が物語を加速させるはずで、2部で登場する新たな人物が真犯人に違いない。

エラリーの恩師ヤードリーも候補に入れておかなくては。

 

トマスの身内は違うだろう。今のところアンドルーとの関係が見えない。

トマスの怪しい隣人夫婦も違うような気がする。たぶん小悪党だろう。

そもそもトマスは本当に殺されたのか?と思ったら遺体の痣を家族が確認したので疑いは消えた。(ここでアンドルーも同様に振り返っておけば…

正直、事件現場と目される東屋とチェッカー(ボードゲーム)の件は、読み流してしまった。ただ犯人が狡猾な頭脳の持ち主であることは掴めたので、改めてロメインを除外した。あいつはアホだからな。

あとついでにジョーナも除外だ。彼のような直情的な人物は今回の殺人には向いていない。もちろんトマスの義理の娘に恋しているとはいえ、殺すことにメリットは無くアンドルーとの関係も見えない。

 

トマスの運転手フォックスは、何かを隠しているようだが、彼は正直者のような気がする。嘘を嘘で塗り固めるのではなく、無言を貫くというのは、負い目を感じている証拠で明確な理由があるはずだ。隠していくものへの興味はあるが殺人犯ではない。いや、殺人犯についての情報を隠しているのか?一応、保留しておこう。

 

第三部に入り、新事実が判明。事件の背後には因縁の復讐者の存在が?狙われているのは3兄弟で、しかもアンドルーは生きており殺されたのは別人?

にわかに信じがたいが、証人は2人おり、2人が口裏を合わせていない限り信用できる。と思っていたら兄弟の一人スティーブンが死んだ…やはり復讐劇は真実なのか。これは本格的に一般人の皮を被った復讐者クロサック(もしくはクロサックに成り代わり別の目的で復讐を計画している人物)を探さなくては。ヤードリーはありえるだろうか?クロサックの殺されたはずの父という可能性は?というかアンドルーと関係ないと思っていた身内やテンプル医師も全くの無関係であるという証拠はないな。

 

スティーブンの雇われ船長スウィフトも年齢はあり得るが、いかんせん登場が遅い。やばい候補者がいないぞ。ヤードリー教授はいつもエラリーの近くにおり、捜査状況も把握している。うまくエラリーを誘導しているようにも思えてきた。

というか生存している最後の一人ヤバくないか?と思っていたら不安は現実に…なにやってんだエラリー!

絶対にクロサックを逃がしてはいけない!(確信)

 

予想

ヤードリー教授 90%

ジョーナ  9%

ホルアクティ 1%

(ここにきて候補者がいなさすぎて強制召集)

ロメイン 0%(アホ)

 

結果

惨敗

 

分析してみると、第2の殺人の際にしっかりと遺体の確認をしているのが憎いです。完全に第1の殺人のことが頭から飛んでしまいました。

あとはエジプト十字架やアンクのシンボルから受ける、直感的なイメージがうまく表現されています。何故首を切るのか、という謎の真相に気付かせない巧妙な工夫の一つです。

 

 

ネタバレ終わり

うーんなんでしょうかこの感じ。まだまだ手探りしてる感が半端じゃありませんね。

全くもってエラリーに勝てる気がしません。

 

では!