青いルパン【感想】モーリス・ルブラン『リュパンの冒険』

 

 発表年:1909年

作者:モーリス・ルブラン

シリーズ:アルセーヌ・ルパン3

リュパンorルパンは出版元による違いだけなのでお気になさらず。記事内ではタイトル以外ルパンに統一してます。


実は推理小説と並行して唯一読み進めているのが冒険小説であるアルセーヌ・ルパンシリーズです。

ルパンものは案外、推理要素なんかもあったりして、ミステリマニアの中にも愛読者が多いらしいですね。

 

初めて読んだ『怪盗紳士ルパン』は大人向けの作品で、勝手に怪盗キッド(名探偵コナン)みたいな軽いキャラクターをイメージしていたため驚かされました。しかも、トリックが高水準で短編ミステリと言っていい作品でしょう。

しかしながら、続く『ルパン対ホームズ』は何度か感想書きにチャレンジしているのですが、まったく手が動きません。なんといってもワトスンが無能すぎて読み疲れてしまいます。

ということで、ここは潔く諦めて第3作『リュパンの冒険』(創元推理文庫)に挑戦したのでした。

 

実は本作、四幕物戯曲を小説化したものらしく、舞台の転換や登場人物の出入りなどがまさに劇っぽい構成になっているのは面白い点です。

しかもそれが全然不自然じゃなく、むしろ一つの場面だけでよくもまぁそんなにたくさんの展開を詰め込めるものだと感心してしまうくらいでした。

 

物語の筋はいたって簡単で、成金系の大富豪の元に届くお馴染みの犯行予告を皮切りに、変装あり、ロマンスあり、宿敵ゲルシャール警部との対決あり、とルパンらしさがてんこ盛りの作品になっています。

 

ま逆にそれしかないっちゃないんですが、本作でルパンに対し少し印象が変わった点があります。

前作・前々作まで、私はルパンに対して孤高の義賊という印象を持っていました。たしかに手下も多く、金で買収した一時的な部下もいます。しかし最終的に決定的な行動を起こすのはルパンで、彼は誰も信用せず、仲間を作らずに生きているのだとばかり思っていました。

しかし、本作中で描かれるルパンの人物像は、そんな想像とは正反対のものです。物語の核心に触れるためここでは明かしませんが、物語を最後まで読み進めていくと、順調とは決して言えない起伏の激しいストーリーの中で、追い込まれ切羽詰まったルパンを支える家族のような存在があることに驚きと安心感を覚えました。

ルパンは作中年齢が28歳と、若さゆえの勢いだけでは生きていけない微妙な年齢です。

しかしながら、そんなルパンの背後に薄らと垣間見える青さにこそ暖かい人間味を感じる、貴重な一作なのかもしれません

 

 

では!