いつものクロフツ節にしっかり騙される【感想】F.W.クロフツ『フローテ公園の殺人』

あけましておめでとうございます。本年1発目は、昨年同様クロフツから。別に図ったつもりはないんですが…

 

発表年:1923年

作者:F.W.クロフツ

シリーズ:ノンシリーズ
まずは

粗あらすじ

南アフリカの鉄道トンネル内で発見された男の死体。彼はなぜ鉄道事故に遭わなければいけなかったのか。警察の地道な調査により事件の背景に浮かび上がったのは、巧妙で悪質な犯罪の影だった。混迷を極める事件だったが、舞台を南アフリカからスコットランドに移すと新たな展開が待ち受けていた。大陸を超えて二人の名警部が辿りついた事件の真相とは。


クロフツの作品に挑戦するのはこれが四作目です。たった四作読んだだけででクロフツについてわかった風な口をきくつもりはないのですが、クロフツの作風に慣れてきた気がします。

むしろ、リアリティ溢れる堅実で地道な警察の捜査とそれらを着実にこなす探偵役たち、作者の経験を活かした鉄道に関する記述、そういったクロフツらしさを心待ちにしている自分がいます。

またクロフツ自身、病気の療養中に『』を書き上げたことが原因なのでしょうか。作品を通して世界を旅行する。そんな感覚をクロフツの作品からはひしひしと感じることができます。

 

肝心のミステリの核の部分では、前半にしっかりと張られていた伏線に気付いたはいいものの、いつのまにか豊富な捜査描写や物語の展開によって意識の外に押しやられ、見事に作者の罠にはまってしまいました。

もちろん、2回同じ事件を見せられている感は否めず、物語の構成を見ても、同一犯による犯行であることはこれっぽっちも隠されていません。そこが退屈だと言われれば申し開きは立たないのですが、ミステリー以外の部分、とくにキャラクター描写に関しては作者の筆が冴えています

安定の努力型の探偵たちは置いておいて、被害者の残したとされるダイヤモンドに執着する(自称)婚約者、無罪にはなったが疑惑の目を向けられ慣れ親しんだ地を離れざるをえなくなった男とその婚約者、娘を愛するあまり醜聞から娘を遠ざけようと奔走する父、と生き生きとした登場人物たちが物語を読み進めるのにおおいに貢献しています。

もちろん被害者の性格や、犯人の特性についてもリアリティを感じられ、同じように闇に葬られた事件があったのでは?と錯覚させられるほど徹底しているのもさすがです。

 

ミステリに登場する多くの犯人たちは、ほんのわずかな綻びから破滅してゆきます。本作でも大なり小なり犯人はミスを犯すのですが、真相の解明に至った最大の功績は、やはり探偵たちの地道で堅実で徹底した執念の捜査です。それらが結実する過程に本作の最大の魅力が詰まっています。

 

 

では!