発表年:1934年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:ノンシリーズ
かの名作『オリエント急行の殺人』の次に発表された本作は、先の作品とは違い、眩いほどの冒険小説です。
牧師の四男坊で元軍人のボビィが遭遇した一見転落事故に見える死亡事件。死亡した紳士が、今際の際に発した『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか』という一言が彼を事件に巻き込んでいきます。
彼の幼馴染で伯爵令嬢のフランキーは、持ち前の強い好奇心と、冒険心から自ら彼と共に事件に首を突っ込み、謎の究明に協力します。
今作はクリスティ長編で初めてダイイングメッセージが用いられた事件です。死亡した紳士が発した最後の言葉がなければ、事件は、文字通り闇の中に葬られていたことでしょう。
このダイイングメッセージには、3つの問題があります。
- エヴァンズとは『誰か』?
- 『何を』エヴァンズに頼まなかったのか?
- なぜ?が何を意味するのか?
これら3つの難解な疑問を、全て解き明かすのは物語終盤になってからなのですが、それまで中だるみもなく、スリリングにエキサイティングに物語が進んでいきます。これこそこの作品の素晴らしいところです。
物語の結末については、賛否両論あるでしょうが(ちなみに私は否)、本当にそれでいいのか?という疑問は永遠に残ります。
私にはどちらかというと「魅力的な犯人」というより「卑劣な犯人」というイメージに映りました。
そしてその事態にも納得してしまう、ボビィとフランキー2人の青さも今作の魅力なのかもしれません。
わんぱく坊主とお嬢様というバディは、読んでいてとても楽しく、ダイイングメッセージとの組み合わせも秀逸で、スピーディに読み進めることができたのも良かったです。
男女のバディといえば、クリスティにはトミー&タペンスがいますが、彼らにはない良さが間違いなく2人にはあります。
それがほんの少し大人。笑
『秘密機関』のトミー&タペンスより5歳程度年上なだけで、かなりしっかりした印象です。もちろんミステリ要素も『秘密機関』よりもどっしりとしていて、安定感があり、読み比べも面白そうです。
話は逸れますが、ダイイングメッセージは英語で“Dying Message”のとおり被害者が死の間際に残した何らかのサイン・メッセージのことであって、決して、家に帰ったら、テーブルの上にある「カレー冷蔵庫にあるから温めて食べてね。洗濯物取り込んでおいて」といったダイニングメッセージのことではありません。
では!