発表年:1924年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:エルキュール・ポワロ
本作は、1924年に刊行されたクリスティ初めての短編集。
時期的には、ポワロ第2作『ゴルフ場殺人事件』と第3作『アクロイド殺し』の中間地点にあたります。
今更ながらですが、早川書房のクリスティ文庫では“ポワロ”ではなく“ポアロ”表記に統一されていることに気付きました。個人的には“ポワロ”の方がフランス語っぽい気がするので、“ポワロ”で統一します。
構成については、全14編の短編で、殺人事件だけでなく、盗難・失踪・捜索・誘拐と多岐にわたって、ポワロの“灰色の脳細胞”が八面六臂の活躍を見せます。
中身の完成度は、作品によって少々バラつきが見られ、読者によって好き嫌いが分かれる作品もあるでしょう。
例えば『マースドン荘の悲劇』は、そんなこと実際にする?というトリックだし、『百万ドル債権盗難事件』も、へーそうなんだ。くらいで特に驚きもしません。
かといって面白くないわけでなく、稀代の名探偵ポワロが直面した種々の難事件を、ヘイスティングズと共に普段の日常生活を垣間見ながら、読者が体験できることは、短編集ならではの魅力だし、中には読後感も良く印象に強く残る作品も少なくありません。
中でも最終話『チョコレートの箱』は、ポワロ自身「失敗談」と呼ぶ事件で、ここでのヘイスティングズとの掛け合いは必見です!
このままだと他のクリスティレビューサイトとなんの変わりもないので、当ブログで勧めるとするならば『謎の遺言書』を推しておきます!
ある女性から彼女の叔父が隠した遺言書の捜索依頼が舞い込みます。彼女の伯父は古いタイプの人間で、女性に“教育”など必要ないと思っている人間でした。もし彼女に相応しい聡明な頭脳があれば、隠された遺言書は見つけられるはず、という叔父からの挑戦状だったのです。
この短編では、入念に登場人物に話を聞き、真相を突き止めるポワロらしい推理手法が発揮され、ラストも同じくポワロのひとのなりがにじみ出ているように感じます。屁理屈も理屈のうちとはこのこと。
ヘイスティングズも一理あるし、ポワロの言い分もよくわかる。
トリック・動機・意外性の善し悪しだけで、小説の良さは影響されないことが今作を読んで理解できました。
短編集は、寝る前や移動中などの空いた少しの時間に読むことがよく勧められますが、本短編集は一度にガッと読んでも、最終話の出来の良さもあって読み応え充分です。
全編読んだ後、もう一度読み返してみて、何回「チョコレートの箱」と言えるか数えてみてもいいかもしれませんな。
では!