ルパン史上最強最悪は伊達じゃない【感想】モーリス・ルブラン『水晶の栓』

発表年:1912年

作者:モーリス・ルブラン

シリーズ:アルセーヌ・ルパン6

訳者:平岡敦

 


だいぶと久々の更新になってしまいました…身体的にも精神的にも追い込まれた年度末・年度初めでしたが、ぼちぼちと「いつもどおり」を取り戻し始め、やっと4月1冊目を読み終えたところです。


読書計画で言いますと、昨年月一ポワロを宣言したはいいのですが、あまりに1940年代を駆け足にすぎさってしまうため、残念ながら断念しました。

ということで、今年の前半はクロフツ祭りと並行して年2ルパンは引き続き読んでいこうと思っています。

 

ルパンシリーズは結構勢いが必要とされるので、なるべく早め早めに消化していきたいところ。

とはいえ、早川文庫から出された本作『水晶の栓』は新訳版ということもあって、思ったよりすんなり読み終えた印象…なのですが、コレがやっぱり旧訳だったら、と想像しただけでゾッとします。

 


あらすじはいつものルパンらしく至ってシンプルです。

謎の秘宝「水晶の栓」を巡る、政界の大立者、大富豪の貴族、フランス政府、そして怪盗紳士が入り乱れてのお宝争奪戦が物語の筋。そこに、シリーズ最強最悪の敵とルパンの攻防や、人妻(!?)とのロマンスが組み合わさって本作は構成されています。

 

前作『813』や前々作『奇岩城』といったスケールの大きい冒険活劇からは、グッと舞台が限定されたことで、本格ミステリよりの造りになっているのもポイントです。

メインである「水晶の栓」の謎については、作中でも仄めかされている通り、ポーの多大な影響を受けたことがわかります。

出来は…まあ好きです。

有名なトリックだけに、ネタバレ前に読めればラッキーかもしれません。自分も知らず知らずのうちにネタバレされていた気がします。

 


本作最大の魅力はやはり、シリーズ最強最悪の敵とルパンの対決でしょう。『怪盗紳士ルパン』~『813』まで、歴代の悪人たちとの頭脳戦で快勝してきた、あのアルセーヌ・ルパンが、ここまでこてんぱんに惨敗しまくるのを見るのは、ジャイアントキリングを見ているようで快感だったりもします。

また、倒叙のように、逆に犯人が判明しているからこそ体感できる面白さもあって、とにかく敵のデカさと、ルパンの失敗との対比を純粋に楽しむのが吉。

敵対する敵も、その時々で変容し、四つ巴と言っても過言じゃないほど混雑した展開にも関わらず、案外すっきりとまとめられています。

前作『813』との時系列も無茶苦茶なので(たぶん『奇岩城』の後)、関連性もほとんどなく、シリーズ初心者でもすんなり入り込み易い作品です。

 

ルパンお得意の変装はもちろん、強大な組織のリーダーとしての手腕も堪能できる本作は、『813』や『奇岩城』と言った高名な作品の影に隠れてはいるものの、入手難易度、読み易さの観点からも是非オススメしたい一作でした。

 

では!