発表年:1931年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:ノンシリーズ
今作の舞台は、イギリス南部の花崗岩でできた高地にあるダートムアという町です。 今では、国立公園として保護されていることもあり、年間多くもの観光客が来訪するそうな。
本作は、ポワロやマープルは出てこない非シリーズものの推理小説で、探偵役はクリスティ作品ではおなじみの快活で勇敢な美女(ア・ガール)です。
地元の警部も登場するのですが、頭脳明晰なのかそうでないのかパッとしません。
中身はともかく(おい)、実際にハヤカワ文庫の表紙のような情景かどうかはわかりませんが、外界と隔離された物寂しいシタフォード村の雰囲気が見事で、クリスティの作品の中でも作品が持つ独特の雰囲気と情景描写においては個人的にかなり好みの作品です。
さらに、降霊会という、日本で言うこっくりさんのようなオカルトな儀式で、霊によって告げられた事件が発端となり、一見不可能犯罪に思える事件は、ハウダニット?(どうやって)の形をとると思いきや、自然な流れでフーダニット?(だれが)へと形を変え、またホワイダニット?(なぜ)という問題も提起しながら、千変万化のミステリへと発展していきます。
このような作品はクリスティの過去作を見返してもなかったのではないでしょうか?あたりまえかもしれませんが、常に斬新なアイデアや工夫をもって読者に挑戦し続けるクリスティはさすがです。
しかし、肝心のトリックと犯人については、なんとこの私が初めて中盤で当ててしまったくらいのものなので、推理小説マニアの読者であれば難なく、というレベルなのでしょう。
動機については最後まで当てることはできませんでしたが、ヒントはことあるごとに仄めかされており、決して難解であるとは言えません。
そういった動機の稚拙さや、ミステリの要素からか、クリスティの作品群の中では評価が芳しくないようですが、心霊現象をモチーフにした作品ながら、不気味さではなく、厳寒の冬の美しさが強調される本作は一見の価値があります。
また、本作を読んで感じたのは、クリスティ自身、数年前まで夫の不倫問題で沈んでいた頃の作品に比べ、自信や明るさを取り戻したのではないでしょうか?
『七つの時計』のバンドルしかり、パワフルでアクティブな美女が、事件を覆う暗雲を見事なまでに切り開くという手法からも、これからのクリスティ作品群に大いに期待が持てます。
ちなみに冒頭で軽くぶち込んだ『ア・ガール』は、ボンドガール的な感じで使っていこうと思ってます。
では!