僕の猫舎

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おしどり探偵【感想】アガサ・クリスティ

本作は1929年にアガサ・クリスティによって書かれた、トミー&タペンスものの短編集です。

 

おしどり探偵 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

おしどり探偵 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 

   まずは簡単にあらすじを

   1922年の『秘密機関』で初登場し、めでたく結ばれた二人は、7年の月日を経て再登場を果たします。作中でも現実同様6年の月日が経っており、冒険好きの二人(主にタペンス)は、順調で幸せな結婚生活を送ってはいるものの、退屈な日々にうんざりしています。しかし、トミーが働く情報部の長官カーター氏から“国際探偵事務所”の引継ぎを依頼されてから、二人の生活は一変。この国際探偵事務所は、ロシアの秘密組織と裏で繋がっており、トミーは探偵所長を演じながら、その秘密組織の検挙に協力していくのでした。

 

   本作は短編集ではあるのですが、上記のテーマを軸にしながら連作短編としての形式にもなっています。ただ、ほとんどの短編は、秘密組織の検挙と直接関係は無く、二人は自身の冒険欲を満たすためだけに、一般の探偵依頼も引き受けます。この、なんの根拠もない、非現実的な設定が功を奏しているのか、数々のユーモア描写とあわせて、肩肘張らずゆとりある心で読むことができるでしょう。

   また、探偵として特別な技能や知識を有しない二人が、今まで読んだ推理小説内の有名な名探偵たちの捜査方法を模倣しながら事件に挑む、という設定が実によくできていて、模倣や引用の度合いは作品によってバラつきはあるものの、どれも効果的に且つユーモラスに書かれています。中にはクリスティ自身の創造したエルキュール・ポワロを模した作品もあるのだから楽しめないはずはありません。

 

   そんな突拍子もない設定ではあるものの、彼らが取り組む問題は、趣向を凝らした難事件ばかりで、短編集の質としては決して低くありません。なによりクリスティが生き生きとした筆致で、本作を書いていることは文面からありありと伝わってくるので、読んでいて高揚感を感じること請け合いです。

   ただし、クリスティのスパイものを取り扱うセンスだけは、どうも高くないようで、本題のロシアの秘密組織との決着に関しては、お粗末で尻すぼみ感は否めません。

   ハッピーエンドの結末は心地よく、二人の明るい未来に(続編に)期待が高まるだけに、少し残念な気もしますが、本作の国際探偵事務所で受け付けを務めるアルバートしかり、自身の創り上げたキャラクターに対する並々ならぬ愛着を感じると、そんな些細なことはどうでもよくなってきます。

   やっぱりクリスティは偉大だと感じる一作でした。

 

では!