『O・ヘンリー短編集(1)』O・ヘンリー【感想】皮肉っぽい筆致すら愛しい

1906年~ 大久保康雄訳 新潮文庫発行

初O・ヘンリーです。

 

O・ヘンリーという男

O・ヘンリー(本名:ウィリアム・シドニー・ポーター)は、1862年にアメリカのノースカロライナ州で生まれました。3歳で母親を亡くし、父方の祖母の家で暮らすことになったポーターは幼少期から古典作品を読み漁り、25歳になるまでの間に羊飼いや料理人、ベビーシッター、薬剤師、音楽家などの職を転々としながら、数多の人間を観察しその作家としての素地を築きました。その後結婚し、子どもにも恵まれたポーターでしたが、1897年に妻が結核で死亡、1898年には過去に働いていた銀行での横領罪で逮捕され、3年間服役します。しかし、ポーターは服役中にも執筆活動をやめず、多くの仮名で作品を執筆し、この時期に使用した仮名の一つこそ「O・ヘンリー」でした。釈放後は拠点をニューヨークに移し、以降約10年近くもの間に400弱の短編を世に送り出します。しかしながら、1910年、生来の大酒がたたり、47歳で亡くなりました。

O・ヘンリーの作品の一番の特徴は、やはり自身もそうだったように労働者階級の人々が多く登場することです。彼らが紡ぐ悲喜の起伏がある物語と、作者の機知に富んだ叙述、唯一無二のツイストが見事に決まるプロットが、荒唐無稽なものにならず、ごくごく身近に感じられる点も美点の一つです。

本書は、新潮社によって独自に編集された三巻から成る短編集で、合計すると46編あります。O・ヘンリーの短編集は、多くの出版社がいろいろな傑作選を出しておられるので、どれを買ったらよいか悩むところ。いつの日か”全集”が刊行されることを待ち望みましょう。

 

各話感想

上述のとおり、どの短編集にどの短編が載っているのか把握するのが大変なので、一応本の掲載順ではなく、原書の発表順に書くことにします。

各話のボリュームはかなり少ないので、あらすじを含めた感想は省略します。

 

 

警官と讃美歌 The Cop and the Anthem 1906

辛み☆☆☆☆

意外性☆☆☆

最後の一文がキレッキレ。

 

緑の扉 The Green Door 1906

ミステリ☆☆☆☆

ロマンス☆☆☆

謎と解決があるのでミステリとしても読める。

 

アラカルトの春 Springtime a'la Carte 1906

ロマンス☆☆☆

ニヤニヤ☆☆☆☆

伏線がちゃんとサプライズに繋がっているのが巧い。

 

多忙な仲買人のロマンス The Romance of a Busy Broker 1906

意外性☆☆☆☆☆

サスペンス☆☆☆

何が起こっているのかわからない予測不能の展開と、それらをすべて裏切るラストが最高。

 

黄金の神と恋の射手 Mammon and the Archer 1906

意外性☆☆☆

オシャレ☆☆☆☆

マモン(富の神/悪魔)とキューピッドというタイトルの妙技

 

馭者台から From the Cabby’s Seat 1906

皮肉☆☆

ドンマイ☆☆☆☆

酔っぱらいに起こるべくして起こった事件。ドンマイ。そしておめでとう。

 

振子 The Pendulum 1907

辛み☆☆☆

人間らしさ☆☆☆☆

控えめに言ってめっちゃ好き。

 

運命の衝撃 The Shocks of Doom 1908

運命☆☆☆

衝撃☆

まあ出木杉かな、とは思う

 

ラッパのひびき The Clarion Call 1908

ミステリ☆☆☆☆☆

シンプルに名作ショートショートミステリ

 

自動車を待つ間 While the Auto Waits 1908

皮肉☆☆☆☆

言葉にできないエモさ☆☆☆☆☆

これは……いいものだ。

 

桃源郷の短期滞在客 Transients in Arcadia 1908

O・H(ヘンリー)らしさ☆☆☆

エモさ☆☆☆

本作のような登場人物たちのモチーフがO・ヘンリーの特徴かもしれない。

貧富や階級の二面性・表と裏が奇妙に逆転したりしなかったり。とはいえ、立場がガラッと変わっても、相反する二つの要素が交じり合ったりはしない。

 

よみがえった改心 A Retrieved Reformation 1909

感動☆☆☆☆☆

ハートフル☆☆☆☆☆

全おれが泣いた

 

赤い酋長の身代金 The Ransom of Red Chief 1910

辛み☆☆☆

ユーモア☆☆☆

アイロニックなユーモアがさく裂

 

ハーグレイブズの一人二役 The Duplicity of Hargraves 1911

ミステリ☆☆☆

性格の悪さ☆☆☆☆☆

ネタの仕込みもプロットも巧いが無性に腹が立つ笑

 

善女のパン Witches’Loaves 1911

意外性☆☆☆

可哀そう☆☆☆☆

小粒なネタをロマンスと絡めてピリッと辛めに味付けてみました

 

水車のある教会 The Church with an Overshot-Wheel 1911

神秘的☆☆☆

童話☆☆☆

ほっこり☆☆☆

できすぎ?うるせえ。

 

おわりに

ほっこりする感動的な作品もちらほらありますが、やっぱり特徴である労働者階級の人々が織りなす、皮肉めいた波乱に富んだ人生そのものが詰まった物語が印象に残ります。また、ミステリに多用される手法やトリックを駆使した作品も多く、「意外性」の部分でも秀でた作品が多かったです。

ベストは『警官と讃美歌』『振子』『よみがえった改心』かなあ(ミステリちゃうんかい)

では!