ベイビー・ドライバー【映画】お前はおれか?


 ちょうどNetflixでも公開されていたので、見てみました。
 アカデミー賞ノミネート作品ということと、定期購読している偽物の映画館さんでも「一番好きな映画」と大絶賛だったので、期待値は上がりまくり。

 事前情報も、天才的なドライバー通称”ベイビー”が銀行強盗しまくるお話、くらいしか聞いていなかったので、ある程度ニュートラルな視点で鑑賞できたと思います。

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で、見終わった感想なんですが、その前に実は……

 

ベイビーって俺なんですよね。テヘ

 

 主人公みたいに190㎝を超える身長もないし、ダンスも演技もできないんですけど、高校生くらいの時に授業中に妄想していたことがそのまんま映画になっているので、やっぱりベイビーって俺なんですよね。

ってか監督ももしかして俺?

 

 

 
 こちとらエモいの意味をまだわかっていないおじさんなんだけど、個人的には、エモさって、理想としてた/夢見てた青春時代なんじゃないかと思っています。喜怒哀楽どれにも当てはまらないような、全部がごちゃ混ぜになったような複雑な何か。もう二度と味わいたくないのに、懐かしく思い出してしまうようなアイロニカルな記憶。恥ずかしくて打ち明けられないけど、誰かに知ってほしい秘めた思い。性としても人間としても成熟しきっていない若いからだという器に、どんどん新しい未知のものが流れ込んできて、混乱し、興奮し、憤り、泣き喚くときにおこる無秩序に暴れまわる感情、それがエモさなんですか?

 


 兎に角、この映画を見て思ったのは、十数年前、あの多感な時期に本作を見ていたら、「俺、どうなっちゃってたんだろう」という恐ろしさでした。自分自身の妄想を体現したかのような映画を見て、精神錯乱を起こしていたんじゃないか。万物を手にしたような万能感に支配された結果、ダーウィン賞にノミネートしそうな死に方をしてたんじゃないか。そんなことさえ考えてしまいます。

 

 さて、何でしたっけ?

 まあとにかく言いたいのは、若いって美しいってことなんですよ。じゃあ年老いたら美しくないのかって話になっちゃうのが嫌なんで補足しますけど、“「若い」というだけで美しい”という意味ね。

 無謀/向こう見ず/蛮勇、なんでもいいけどド直線をスピードに任せて駆け抜けてきた若い頃って、今思えば清々しくて美しいものだったんじゃないか/そうあって欲しいなと思う訳です。

 で、この若さは、おじさんが新卒の若人に言う「さすが、若いね~」とは違って、「おじさんもそうなりたい」という殻を脱ぎ捨てた素直な願望なんですよ。俗世のヘドロで塗り固められた何色とも形容しがたい殻を一瞬で溶かして、理想と夢を追いかけていたあの頃にタイムスリップさせてくれる。そう、それが『ベイビー・ドライバー』という映画の正体です。
 以上の前置きを踏まえて、ちゃんとレビューしましょう。

 

 
 以下、物語の核心をネタバレしてはいませんが、展開・登場人物に関する情報が多々登場します。

 

 

 

 

 本作の美点と言われている音楽と映像とのシンクロについてはスルーします。最高だったので。(一番好きなのは銃撃戦のTequila/The Champs)

 まず触れておきたいのは、音楽を再生する媒体について。本作では、最初っからiPodが登場します。そして、2001年に発売された第一世代をはじめ、作中の時系列と各世代のiPodがちゃんとシンクロするようにできています。それが、物語が進むと、音楽の再生方法がぐっと古くなってカセットになります。(一応、間にLP盤も挟まっていたけど)そして物語の終盤には、音楽はラジオから流れてきます。

 このように、徐々に時代が退行していく様は、観客を過去にタイムスリップさせるサブリミナルなのかもしれないし全然関係ないかもしれません。もちろん、いつだって音楽がともにあるという強いメッセージにも思えます。

 


 お次は豪華すぎる共演者たち。アカデミー賞俳優のケヴィン・スペイシージェイミー・フォックスとか豪華すぎでしょ。特にジェイミー・フォックスはピアノの腕もプロ級だし、音楽が絡む映画に出てるだけでニンマリしちゃいます。主人公が鍵盤をたたく指の動きにそそぐ目線とかが大好き。

 あと、脇役も豪華です。序盤に登場する鼻なしエディは、世界一のベーシストと名高いフリー。フリーと言えば、日本でもDEATHNOTEの主題歌で有名なバンド・RED HOT CHILI PEPPERSのベーシストで、お父さんもジャズミュージシャン。本作で登場するオールドジャズにも造形は深いはずです。

Blood Sugar Sex Magik

Blood Sugar Sex Magik

 

問答無用の名盤。

 

 序盤に登場する強盗役のジョン・バーンサルもめっちゃ好きなんですよねえ。粗暴で粗野なキャラクターなのにお茶目で根は良いやつ、みたいな役がぴったりです。もしジョン・バーンサルが気になったら、冷酷非道なインテリヤクザを見れる『ザ・コンサルタント』がおすすめです。

 最後は、脇役じゃないですけど、ジョン・ハムですよ。実は全然知らなくてですね。この俳優さん。どこのシーンを切り取っても男の色気が噴き出してるのすごくないですか?途中で「あれ?おれLEON(雑誌)見てるんだっけ」って錯覚するぐらいずっとカッコよくてまじで涎出ました。

 

 

 あ、そうか。やっぱり本作って(自分にとっては)なりたい(なりたかった)自分との決別を描く映画なんだと改めて思いました。

 男なんてずっと誰かにモテつづけたい人生じゃないですか(ほら、みんな殻を脱ぎ捨てて)。でも実際にはそんなことはファンタジーだし、今の人生と比べて圧倒的に魅力的かというとそうじゃなくて、もう一人自分がいたとしたら、くらいの軽い妄想なんですよ(ね?)。

 顔がイケメンで、頭も良い。頭脳を活かした職に就いているけど、ひょんなことから犯罪に手を染めるようになって脛に瑕ある人生を歩むようになる。こういう後ろ暗い過去のあるニヒルな大人って、子どもにとっては、めちゃくちゃカッコいいですよね。

 

 

 ネタバレになりそうなんで、ぼかしますけど、本作にも「子ども」と「大人」がいて、「子ども」はただ仕方なく目の前にあるレールを進むわけです。でも色々な「大人」に出会って、「こうはなりたくない」「こうなりたい」というビジョンが少しずつ出来上がってくる。誰かに決められた人生を否定し、自分で決断し実行することで大人の階段を昇っていく。そして、その時の判断基準というか指針が音楽と愛、そして同じ経験をした大人たちの一挙手一投足なわけですよ。

 アダルトになった自分自身を見ても、決して自分一人で大人になった人間なんかじゃ絶対にありません。今までに出会ったたくさんの人々、色んな経験、聞いた音楽、見た映画、行った場所に大なり小なり影響を受けて、時には拒絶したいのに受けて、今の自分ができあがっています。それを本作では、愛と音楽と、それを知る/識る大人たちだけにフォーカスして描いている。

 じゃあ音楽を知らない(聞けない人)はどうなんだってなるんですが、音楽はね、ビート/鼓動なんですよ。心臓が動いてさえいれば、音楽は聞こえるんですよ。生きているって最高ですよね。

 

 

 ふー……。ほんとうに思春期の時にこの映画に出会っていなくて良かった。

 

 最後までまとまりがなくて申し訳ないんですが、「ベイビー」が大人になるまでの成長劇という主軸だけでなく、「ベイビー」がベイビーであるがゆえの人としての魅力みたいな部分がちゃんと描かれているのが堪りません。血の中を流れる音楽と、心に染み付いた良心の赴くまま、まっすぐ生きていいんだよと背中を押してくれる熱さにもガツンとやられました。

 

 大人になってこの映画に出会った弊害もあって、別に急にワルになったりジョン・ハムみたいに渋くはなりませんでしたけど、

 

iPod買いました。

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ロック史を改めて学び直そうとElvis Presleyから聞きまくっています。

 

 

 

 音楽好きじゃなくてもいいんです。

 青春時代に、好きなあの子をさらって、ルート66をただひたすらに真っ直ぐに突き進む妄想をした男子なら確実にハマって抜け出せなくなると思います。

 

 では。

 

ベイビー・ドライバー (字幕版)

ベイビー・ドライバー (字幕版)

  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: Prime Video