『宇宙戦争』H.G.ウェルズ【感想】歴史的名作に異論なし

The War of the Worlds

1898年発表 H.G.ウェルズ著 中村融訳 創元SF文庫発行

 

 SF小説の歴史を作った作家H.G.ウェルズの代表作を読みました。

 新潮文庫の『ウェルズ傑作集1』収録の前日譚『水晶の卵』で予習も十分。

 正直こういう「歴史的名作」と謳われている作品って、過大評価だったり肩透かしを食らうことも多々ありますし、特に本作においてはトム・クルーズ主演の映画版の印象も強くて、期待を大きく超えることは無いと思っていました。

 しかしですね。かなり良い試合はしましたよ。ラウンドが進むにつれボディがじわじわと効いてきましてね。往年の名作家は伊達じゃない、というか、そりゃ世間を賑わす作品だったんだろうな、と痛感しました。アメリカのラジオ番組で本作が朗読されたときに、実際に宇宙人の襲来があったと聴衆がパニックに陥った、という噂もまんざらじゃないんじゃないか、という気もします。

 

 閑話休題。っていうか、久々のブログ過ぎて、書き方がよくわかりません。どんなだっけ?

 

 まず冒頭からショッキングな単語が目に飛び込んできます。

 『第一部 火星人襲来』うん。良い。前触れ、とか前兆とかそういう遠回しな/回りくどい表現じゃなくて、シンプルかつダイレクトリーな”火星人襲来”は、一言で本作がどんな作品かを物語っています。

 よくよく自分のか細いSF経験を振り返ってみると、近未来における異星人の襲来物/戦争物(『スター・ウォーズ』『スター・シップ・トゥルーパーズ』など)は体験していても、本作のような、現世を舞台にした侵略物って意外に出会ってないなと思いました。
 記憶を辿ってみてようやく見つけたのが有名なTVドラマ『X-ファイル』シリーズなのですが、現実世界と侵略物を結び付けると、どうしてもホラー/サスペンスよりになる気がします。それを、あくまでも火星人という未知の生物の生態や形態などのSF要素にフォーカスして、淡々と侵略描写のみを描いていく本作は、やはり原点にして至高のSF小説なのでしょう。

 

 シンプルかつ一貫したプロットは、時代を超えて通用するものであることは言うまでもありません。今なお未知の領域である火星という星に、人間とは違う生物がいて、さらには彼奴らが長年地球を観察し、綿密な計画を練っており、時機が熟したある日突然襲ってくる。この筋書きが通用しないはずはありません。ある意味、SFでありながら災厄/天災、どちらかというとディザスター/パニックムービー的な要素が現代の人々の心をもぐっと掴むはずです。

 

 火星人の造形と高度文明の描写/アイデアも秀抜で、宇宙における高度文明の代名詞とも言えるレーザービームの元祖がここにあります。また、火星人の特性や生態というものが少しずつ人類に明かされるにつれて、どんどん火星人への恐怖が増すように構成されているのも巧い部分。 

 

 さらに、火星人に抗戦する人間一人ひとりの姿も丁寧に描写されています。特に、物語の後半、火星人の蹂躙を生き延びた砲兵の一人と主人公が交わす、生き延びるための秘策についての章は、恐怖と狂気が最大にまで膨れ上がった醜悪なワンシーンとして、鮮烈な印象を残します。遠く見えもしない幻想を追い求める者と、目の前の、手が届く場所の大切なものを守らんと必死で足掻く者の対比が際立っている、本書のハイライトの一つです。

 

 

 なるだけ、あらすじの紹介を控えたので、かなりとっ散らかった感想書きになってしまいました。すいません。シンプルに”火星人の侵略モノ”という題材だけ知っていれば十分楽しめる作品なので、気軽に手に取って大丈夫だと思います。頁数も約300と短めですし。

 あと、本書を読む前に、ウェルズの短編『タイム・マシン』や『水晶の卵』を読んでおくと、本書までの道程や作者の思考の一端に触れることができるので、併せて読むのがおすすめです。

では! 

 

宇宙戦争 (創元SF文庫)

宇宙戦争 (創元SF文庫)