1954年発表 瀬田貞二・田中明子訳 評論社文庫発行
前回のおさらい
ホビット族の青年フロドは、誕生日におじ(実際にはいとこで養父)のビルボから魔法の指輪を譲り受ける。しかし、その魔法の指輪の正体は、「一つの指輪」と呼ばれる凄まじい力を秘めた指輪であり、元の持ち主は世界を支配しようと目論む冥王サウロンだという曰くつきの代物だった。かくして、魔法使い“灰色のガンダルフ”の力を借り、ホビット荘の友人であるサム・メリー・ピピンら3人、流浪の王位継承者アラゴルンとともに、指輪の破壊のための大冒険へと旅立つのであった。
上巻は旅立ち~エルフが住む「裂け谷」までの旅程でしたが、その間にはファンタジーらしい柔らかで温かい挿話があったり、不死の怪物との戦いや次第に世界を覆う暗い影の気配など、世界を広く見せる王道ファンタジーといった印象を受けました。
しかし、本作(『旅の仲間 下1・2』)は、旅の仲間の全員が顔を合わせる「エルロンドの会議」に始まり、「霜ふり山脈」を超えるための緊張感漲る苛酷な旅路を経て、陥ちたドワーフの国モリアまでが第1巻。そして、オークと焔の魔人バルログの襲来と辛すぎる悲劇に始まり、美しいエルフの国ロスロリアンでのつかの間の休息、そして傷も癒えぬ間に訪れる仲間の離散が第2巻、と、上巻と打って変わって、「中つ国」を覆う影が、旅の仲間ひとり一人の周囲に影響を及ぼす薄暗くもの悲しい雰囲気が満ちています。
そんなネガティブな事件が多い下巻の中でも、フロドと彼の友人であるサム(従者)、メリー、ピピンとの間で深められる友情や愛情が心を温かくさせてくれます。とくにサムが良い味出してるんですよねえ。間抜けなように見えて、妙に鋭いところがあったり、フロドに対する忠義の心が常にあって、彼に信頼されることで奮い立つ勇気がこの先の冒険にも必要になるはずです。
また、エルフとドワーフ間の軋轢が紹介されながらも、そんな苦境化で育まれる友情がしっかり描かれていたり、人間の持つ欲や利己的な様と、それに対するような不屈の強い心、小さきものホビットの持つ想像以上の勇気など、「旅の仲間」のキャラクターの掘り下げも本作で完成しています。
以下映画版では省略された、もしくは詳細の描写が無く原作の魅力を欠いている部分を補っておきます。物語のネタバレには気を付けるつもりですが、登場人物や固有名詞が目白押しなので気になる方はご注意ください。
- グロールフィンデルがめっちゃ雰囲気出してくるやんけ。
- 大鷲王グワイヒア、かっこよすぎ(喋り方もイケメン)
- ブリー村の宿主バタバーが思ったよりもキーマン
- アラゴルンの剣「アンドゥリル」、フロドの「つらぬき丸」と「ミスリルの鎖帷子」、ガンダルフの名剣「グラムドリング」、レゴラスの「細身の白い短剣」、エルロンドがくれたミルヴォール(強壮飲料)、ガラズリムで受け取った「エルフ特製のマント」など一つひとつのアイテムの描写が至極。
- 大鴉クリバインのスパイ部隊はファンゴルンと褐色人の国から来たとな…?ふむふむ
- アムロスとニムロデル(どちらもエルフ)のお伽噺、語り手はレゴラス
- シルヴァン・エルフのハルディンの存在感
続いては、『旅の仲間 下1・2』における旅の行程と世界観の理解を深めるために、本書で登場した“中つ国”データもまとめておきます(前作からしておけばよかった)。完全に物語のネタバレになっています。ご注意ください。
エルロンドの会議
十月二十四日朝十時にフロドがエルロンドの館で目覚める。アラゴルンが、かつてサウロンを倒した王エレンディルの末裔だと判明。黒の乗り手(ナズグル)の黒馬はモルドールで生まれ育てられたナズグル専用馬。エルロンドの館での会食時、『ホビットの冒険』のグローインとフロドの会話や、弓の達人バルドが治めている国の挿話、熊人ビヨルンの子による治世など。エルフ語でドゥナダン=アラゴルン。エルフの価値観を吐露するエルフ、リンディア。エルロンドの宮廷顧問エレストールとガルドール。ボロミアと弟が見た夢の中の「折れたる剣」と「小さき人」のお告げ。ガンダルフがローハンで見出した名馬“飛蔭”。トム・ボンバディルの変名ヤールワイン・ベン=アダール、フォルン、オラルド。←『指輪物語』の中でも格別奇妙な存在。もしかして神格?
出立
エルロンドの会議の約2か月後に出立。九人の仲間の選定(悪しき九人の乗り手に対して)。鍛えなおされたエレンディル=アンドゥリル(西方の焔)。ビルボからの贈り物、つらぬき丸と鎖帷子。無慈悲なカラズラスへの登攀。そして敗退。モリアの坑道への決死の冒険。バーリンの墓……悲しい。
ガザド=ドゥム(かつてのドワーフの都市)からの脱出
大広間の戦い。バルログ登場!そしてガンダルフの退場……どうなるの(知ってる)。悲しみに包まれたままロスロリアンへ。ギムリが興奮する観光地「ドゥリンの石」一行を尾ける不穏な影。
ロスロリアンへの旅路
旅の汚れや疲れまでも流し去る清冽な川ニムロデル。シルヴァン・エルフ(ハルディアと弟ルーミル)の案内でロリアンへ。しかしギムリが嫌われている(彼だけ目隠し)。結局全員が(エルフのレゴラス含む)目隠しで出発。「私は身内だぞ」と怒るレゴラスが可愛い。ロスロリアンの描写が秀麗。瑕や病、欠陥など染み一つない美しい都。
サム「おらはまたエルフちゅうと月や星の光とばかり結びつけてましただ。だが、ここは今まで話に聞いたどれよりもエルフらしいところですだ。おらまるで自分が歌の中にはいっちまったような気がします。おらのいうことわかってくださいますか?」わかる。
ケレボルン、ガラドリエルとの会談
ギムリがガラドリエルにがっしり心を掴まれる(笑)そしてつかの間の休息。ガラドリエルの鏡による予言?そして試練。映画もそうだったが、ガラドリエルの変容に中々の迫力があって怖い。
針路が定まらないまま旅は続く
ガンダルフのいない状況で、一行が抱える苦悩がよくわかる。ミナス・ティリスに行きたいボロミアと、悩み続けるアラゴルン。そして、指輪の悪しき力が旅の仲間へと……。ガラドリエルから旅の仲間への贈り物。アラゴルン:アンドゥリルの鞘「この鞘から抜かれた刃は、汚れることもなければ、折れることもない」、エルフの名エレスサールを授かる。 ボロミア:金のベルト(金のベルト?) メリーとピピン:小さな銀のベルト(小さな銀のベルト?) レゴラス:ガラズリム御用達の弓と矢筒 サム:ガラドリエルのGがあしらわれた小箱。中にある「わらわの庭の土」が凄い。 ギムリ:ガラドリエル様の御髪(笑)水晶に閉じ込めて家宝にするつもりらしい。これでドワーフに対する欲深で無愛想という差別や偏見を払しょくできた。グッジョブ、ギムリ! フロド:「エアレンディルの星の光がわが泉の水に映じたのを」集めたらしい。「の」?気体なの?液体なの?光なの?たぶん永久的に使用できる懐中電灯みたいなもの。
ガラドリエルたちと別れ、レゴラスとギムリが語り合いながら、船が川を下っていくシーンは、これから先は安息もなく、猛烈に苛酷な旅が待ち受けていることを暗示させる悲しいシーン。
アンドゥイン大河を下って
アルゴナスの門を通り、湖ネン・ヒソイルへ。より一層深まるゴクリの気配とオークの影。そして旅の仲間の離散へ……。ここからが『指輪物語』の本編と言って良い。続きは第二部『二つの塔』。ここでは、離散した一行それぞれの行動と、降りかかる災難、訪れる大暗黒について語られるらしい。超楽しみ。
では!