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『ギルフォードの犯罪』F.W.クロフツ【感想】等身大で原寸大の身近なミステリ

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1935年発表

フレンチ警部13

前作『サウサンプトンの殺人

中山善之訳

創元推理文庫発行

 

 

    宝石商ノーンズ商会の役員会議から始まる本書は、作者F.W.クロフツがアリバイや鉄道に並んで得意とする企業犯罪がテーマの骨太な一作。

 

    関係者の死と大量の貴金属の盗難というたった二つの謎が出揃うまでは、僅か50頁。早々にフレンチ警部が登場し、スピーディーに捜査は進行する。メインの謎はたった二つだが、それらを解明するためにフレンチ警部がとる捜査方法は手が込んでいる。「初動捜査」に始まり「化学分析」「法医学」「アリバイ」と続く章立てを見れば明らかだ。

    もちろんこれだけではない。狡猾な犯人が仕組んだトリックを暴くため、フレンチ警部はありとあらゆる人脈・道具・推理を駆使し真相に迫って行く。

 

    本作は400頁近いボリューミーな長編で、全編にわたってフレンチ警部の停滞感や焦りが滲み出ている。しかし、読者にとっては一つひとつの警察の捜査が面白く、さらには、謎の解明のため着実に前進している、という手ごたえがあるので、頁数ほどのストレスは感じられない。まあここまでフェアだと、犯人当てにも苦労しないので、つまらない、という一面もあるにはあるが……。

 

    また、フレンチ警部と上司や部下との会話には、常にフレンチ警部らしさ/彼の優れた魅力的な人柄が出ており、シリーズものとして/またリアルな警察小説として読む価値は十分あると言える。

   

    しかし、純粋なミステリとして眺めてみると、首を傾げたくなる部分もチラホラ……。

    まず、先述のように警察のリアルな捜査を追体験する警察小説/企業の計画された犯罪を記録する犯罪小説、以外の魅力が乏しいこと。

    これは、クロフツの作品にはよく見られることだから、今更鬼の首をとったように指摘するまでも無いのだが、本書のような系統の作品(『製材所の秘密』『フレンチ警部と紫色の鎌』)と比較しても差があまりない。むしろ、作者クロフツの作家としての熟練や、フレンチ警部の成長物語、準レギュラーたちの友情出演など、シリーズものの楽しみ方を知っている読者意外には、ミステリとしてオススメできる根拠は無い

    同じ企業犯罪をテーマにしていても前作『サウサンプトンの殺人』や次作『ヴォスパー号の遭難(喪失)』の格段に上なので、クロフツ愛なくしては読めないのが正直なところ。逆に言えば、クロフツLOVEな私はシンプルに大好き!手放しで面白い!と言える一作だった。

 

ネタバレを飛ばす

 

 

 

以下超ネタバレ

《謎探偵の推理過程》

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

    淡々と、スピード感を保ったまま物語が進行する。一つ言えるのはスローリーが悪そうな奴ってこと。そのほかは推理も何もねえなあ……。

    被害者のミンターが死ぬ前にこそこそと動いていたのは、替え玉を疑わせるし、スローリー、シーンライドの協力関係が明らかになるとほぼ推理については完成。

 

推理

レジナルド・スローリー

ヘンリー・シーン

ランバート・ライド

 

    うんうん。

    謎解きの面白さは皆無と言っていいが、ミスリードというか、偽ミンターのグラスに付いた指紋の謎はなかなか良くできていると感じる。

    ミスディレクションでもあるノーンの行動には、普通の人間だったらそうするだろう、というリアリティがあるし、真っ正直な人間を、化学分析と心理分析によってシロだと推理する警察諸氏の活躍も見事。

    あと、飛躍した推理や、目撃者だけで推理を組み立てるのではなく、被害者のカラー(襟)についた扮装したライドの指紋という決定的な物的証拠を用意しているのも上手。

    最後の逃走劇はやや弛むが、宝石の隠し場所についての小ネタがあるなど、クロフツがかなり注力して書き上げたことは容易に想像できる。

 

 

 

 

 ネタバレ終わり

    たしかに本書には、アッと驚かされるようなサプライズは無いし、探偵を手玉に取る悪のカリスマがいるわけでもなく、いたって等身大で原寸大の、事件・被害者・犯人・動機、そして解決があるのみ。しかし、その物語を紡ぐ正義を背負った警察官たちと平和を願う市民たちの、生気あるドラマはクロフツ作品の最大の特徴であり魅力でもある。

    自分たちの住む隣町でいつ起きてもおかしくない、リアリティあるミステリなので、「つまらない」とは言わずぜひ手に取って読んで欲しい。

では!

 

ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)

ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)