僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです

『すねた娘(怒りっぽい女)』E.S.ガードナー【感想】理想の探偵であり上司

【スポンサーリンク】

1933年発表 弁護士ペリー・メイスン2 大岡昇平訳 創元推理文庫発行

f:id:tsurezurenarumama:20190717170836j:image

 

    E.Sガードナーと言えば、推理小説界屈指の多作な作家です。多い時で年5冊ものペースでぼこぼこと作品を生み出した彼の代表的な作品群【弁護士ペリー・メイスンシリーズ】は、ガードナー自身が弁護士だったこともあり、その経験が色濃く反映された作品群になっています。

 

    1933年『ビロードの爪』で初登場したメイスンは、エキセントリックな女依頼人が絡んだ難事件を見事に解決しました。そして、興奮冷めやらぬうちに、またもや型破りな依頼人が弁護士事務所のドアを叩きます。本作も1933年発表なんですよねえ。ただただ凄い。

 

   『ビロードの爪』のラストで紹介された依頼人“すねた娘”の登場によって進みだす物語は、前作と違い王道のリーガルミステリ。弁護士にすら真っ正直に依頼しない捻くれた依頼人ですが、メイスンには全てお見通し。アッという間に、依頼内容の本質と目的を探ってしまいます。ここで事件が発生し、関係者が窮地に立たされるのもフォーマットどおりです。

    ここまでのスピード感が凄まじく、メイスンの推理同様に軽やかかつ流麗です。さらにドラマ仕立てかのようにスムーズな舞台転換と、一話一話に用意されたドラマチックな展開のおかげで、どんどんそのスピード感は増していきます。

    間怠っこい余計な挿話が全く無く、常に物語の解決にベクトルが向き、クライマックスである法廷での戦いまで一直線に進む力強さも魅力的なポイントです。

    また、弁護士ペリー・メイスンに対立する軸を、法の手を逃れ依頼人を貶める凶悪犯以外にも用意している点が上手いと思います。

 

    謎解きの山場でもある法廷での戦いでは、ライバル検事ドラムとの丁々発止のやり取りを中心に、巧みな弁舌で窮地をくぐり抜け、一発逆転の瞬間にまで漕ぎつけるメイスンの手腕を堪能できるに違いありません。そして、その終幕は、スリリングな現場検証や法廷劇を経てたどり着く静かすぎる無言の判決です。

    オーソドックスな推理小説では決して体感できない、法という名の牢獄に四方を囲まれた絶望感と、裁判という評決の場にある凍り付くような空気が見事に一体となり、物語は大団円を迎えます。

 

    オチだけは都合が良過ぎるきらいがありますが、シリーズの醍醐味でもある次回予告はバッチリ決まっているので、早く次作が読みたくなること間違いなし!

    法廷ミステリの入り口としても、万人にオススメできる作品です。

 

ネタバレを飛ばす

 

 

 

 

以下超ネタバレ

《謎探偵の推理過程》

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

    いや、もう二作続いてとんでもない女が依頼人。

    ただ、前作で上手く転がされたメイスンも、本作では序盤からかなりのキレを見せる。私立探偵ドレイクの使い方やライバル弁護士や関係者への狸っぷりも面白い。

 

    肝心の殺人事件に目を向けてみると、二階から呼びかけた被害者ノートンは、声だけで生きている姿は見られていないことから、すでに死んでいたと予想できる。ということは?クリンストングレイヴスの共犯、で間違いなさそう。共同経営者という立場上クリンストンの動機も予想しやすいし、目撃者のパーレイ判事が一度も被害者に会ったことが無い、というのも犯人たちにとって好都合で打算的な香りがする。

推理

アーサー・クリンストン&ドン・グレイヴス

 

    犯人当てと動機についてはほぼ満点。まあこれだけヒントが散らばっていたら、謎解きだけで言えば当たらなきゃおかしいか…ただ、解決(評決)までのプロセスとなると、そこは作者ガードナーの独擅場。

    犯人の嘘をどのように暴き、法廷という環視の中で真実を明るみに出すか、ドラマチックでスリリングな演出で構成された解決編は圧巻。これだけでも、今後メイスンものを読み続けようと思わせるだけの旨味が詰まっている。

 

    また、メイスンという探偵の魅力だけでなく、一人の人として魅力的な人物でもあることが確信できた。

    前作では程よいハードボイルド風味も見どころの一つだったが、今回は私立探偵ドレイクとの共同捜査(探偵術の奥義を伝授してもらう)は新鮮かつエキサイティングだし、新聞記者ネバーズを用いてのメディア操作も巧妙だ。法廷では、鬼神の如く攻め抜いた次の瞬間にはのらりくらり脱力して躱してしまう柔軟性を披露してくれるし、法廷外では、見習い弁護士エヴァリイに対して教育者としての温かく頼りがいのある姿も見せてくれる。理想の探偵であると同時に、理想の上司(味方でいてほしい)でもある男だった。

 

 

 

ネタバレ終わり

    弁護士ペリー・メイスンシリーズは全82作ということで、どこまで当ブログで紹介できるかわかりませんが、探偵そして上司としても理想の男メイスンと、魅力に溢れた係者たちがいるかぎり、是非とも読み続けていきたいシリーズではあります。

    と言いつつも次作(『幸運の足の娘(幸運の脚)』)は未所持。まだまだ『嘲笑うゴリラ』(第40作)は先になりそうです。

では!