『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン【感想】約20年振りの再読

1876年発表 大久保康雄訳 新潮文庫発行

 

言わずと知れた少年文学の超傑作を約20年ぶりの再読です。たしか、初読は小学校高学年の頃だったと思います。その所為か、記憶に残っているのはタイトル通り“トム・ソーヤーの冒険”物語部分のみ。

彼らを取り巻く大人たちの心境や、学校というコミュニティ内での子どもらしい苦悩や葛藤は、あまり目に入りませんでした。

 

今回の再読で何よりも感動したのは、一見すると超問題児に映る腕白小僧トム・ソーヤーの人間らしさ、情愛の深さ、そして子どもらしい臆病さとそれに反する熱い正義心などを始めとした、キャラクターの奥深さです。

作者マーク・トウェイン本人のまえがきには以下のように作品に込めた思いが綴られています。

この本は主として少年少女諸君をよろこばすために書かれた本ではあるが、だからといって大人の諸君が遠ざけるようなことはしないでいただきたい。大人の諸君に、その少年時代を思い起こさせ、その時代に感じたり考えたり語ったりしたこと、また、ときにはどんな奇妙なことを企てたかというようなことを思い出していただくのが、私の計画の一部でもあるのだから。

 

モデルとなった時代がまだまだ奴隷制度が色濃く残るアメリカということもあって、本書にも差別的な表現や風習が多くみられます。現代の読者の中には、この内容から不快感を抱き、主人公のトム・ソーヤーのキャラクターにも嫌悪感を示す方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、本書を読む際には、お世辞にも古き“良き”とは言えない時代遅れの表現も読者それぞれのフィルターで濾していただいて、是非とも良いところを探し出して読んで欲しいと思います。

 

では、良いところ、とはどこなのか?

もちろんトウェインの計画通り、自分たちの子ども時代に思いを馳せる体験は必ずでき、大人になってからも楽しめる不朽の名作文学という評は大きく外れていません。

しかし本書に限らず、ここ数年、いろんな媒体の作品を再読・再鑑賞して感じるのは、今(子どもが生まれて以降)、親になったからこそ感じる感動です。

映画版『美女と野獣』や『オリエント急行殺人事件』、アニメ『魔女の宅急便』などなど、今まで子ども目線で見ていた作品が親目線に変わると、急に涙腺が脆くなります。

まあ「親」に成れるってのもひとつの奇跡なわけで、万人が平等に体験できることではありませんが、もし皆さんがその奇跡を掴んだら、ぜひとも一度『トム・ソーヤーの冒険』を読んでみることをオススメします。(特に男の子がいるご家庭は必読です)

 

自分の中にある強い信念に従い、常に自分の考えで行動するトムに宿っているある種の逞しさ、そして、他者との共生の中で稀に発揮される柔軟性は、もしかしたら現代の子どもたちにも必要なものかもしれません。

トムみたいに他人に心配ばかりかけて、悪戯の才能ばかり伸びたら厄介ですが、別の側面である強く逞しく、そして優しい人間には育ってほしいものです。

では!