ルパンの多面性を堪能【感想】モーリス・ルブラン『ルパンの告白』

発表年:1911年~1913年

作者:モーリス・ルブラン

シリーズ:アルセーヌ・ルパン

訳者:堀口大學

 

年2ルパンの2作目。この感じだと年4は読めそうです。

さすが幾つも邦訳化されているだけって、タイトルも訳者によって様々なバリエーションがあります。当記事は、新潮文庫版堀口大學訳をベースにしております。各話感想のタイトル()内の単語は、その他の主要な翻訳のタイトルです。

 

各話感想の前に、総評だけ述べてしまいましょう。やっぱりルパンものは短編に限る!もちろん長編の出来がイマイチってわけじゃございません。

 

まず、短編だと、二転三転する展開がなんともスッキリ感じられます。これが長編になると二転三転じゃ済まず、三転四転・五転六転とドッタンバッタン物語がひっくり返るので、ついて行くのが精一杯になることもしばしば。

また、アルセーヌ・ルパンの個性が強烈過ぎ、彼の奔放な性格に振り回される度に疲れてしまいます。

それが、短編では、ルパンのしつこいくらいの騎士道精神も、ドラマチック・ロマンティックな物語もスーッと入ってくる不思議。

さらに、堀口大學訳は言い回しや表現が旧式(なんと60年近く前の翻訳!)ではあるのですが、むしろそれが妙に耳と目に残ります。

 

では、ようやく各話感想とまいりましょう。

大作『奇岩城』や『813』に先立つ珠玉の短編たちは、全てがオススメ作品といっても過言じゃない出来です。今まで読んだルパンシリーズの中でも上位に来るオススメ度合なので、是非お試しあれ。

 

 

『太陽のたわむれ(手品)』(1911)

他に類を見ない暗号、卑劣な悪党、結末のグロテスクさ、隠された財宝、魅力的な報酬、それらをギュギュっと一纏めにしたシリーズ屈指の短編。

よくよく考えると、暗号は多少時間的な制約もあってしんどい部分もありますが、結末部では、一見センチにも思えるルパンの、実際的な一面が垣間見える名作短編です。

また、作中で仄めかされる、他の短編のタイトル、

ニコラ・ジュグリバン(デュグリバルの間違い?)の細君に君が与えた5万フランの贈り物の話、『影の手引き(本書『影の指図』)』、『結婚リング』、『うろつく死神』

など、モーリス・ルブランが読者の期待を煽る、巧みな手法にもニヤニヤ。ちゃんと本短編集で語られるので、ゆるりと読み進めましょう。

 

『結婚リング(指輪)』(1911)

カッコ良すぎですよ、ルパンさん。

昔魅かれていた女に、名刺を渡して、

救援が必要な場合…この名刺を、ためらわずに投函なさるがよい。…僕はかならずやってきますから。

ですからねえ。

また、苦境に陥った女性に、このアイテムが、どれほど偉大なパワーと強力な安心を与えるか。男なら誰しも心の中に少しは宿ってるであろう、ロマンチックでナルシシズムの部分をくすぐる演出です。

ただ、そんな甘美で情緒的な物語で終わらないのが、ルパンシリーズの凄いところ。最後にルパンが仕掛けたあっと驚かされる手際のいいトリックには騙されること間違いなし。

本作筆頭と呼ぶべき名作短編です。

 

『影の指図(合図)』(1911)

ホームズの某短編を彷彿とさせる宝探しが題材の短編。

同じ風景が描かれた二枚の絵画と、15-4-2という共通して記された日付、そして、毎年その日付、同じ風景の場所にわらわらと集まる共通点の無い人物たち。

と謎の発端からして最高です。

ありきたりな財宝探しで終わらない、ルパンらしい皮肉めいたオチも印象的です。

 

『地獄(の)罠』(1911)

衝撃度ナンバ-1の異色作。

本作は『太陽のたわむれ』内で語られた、

ニコラ・デュグリバンの細君に5万フラン与えた話です。

冒頭の鮮やかな盗難劇から、よもやあんな結末が待っていようとは…絶体絶命の危機に瀕しても不可思議な能力で窮地をくぐり抜けるのは、やはり悪人の魅力たっぷりのルパンだからこそ許される所業でしょう。

 

『赤い絹のマフラー(スカーフ)』(1911)

ルパンの宿敵ガニマール警部が物語の進行役ですが、ルパン自身安楽椅子探偵ものとして活躍するベスト級の短編です。

まず、ルパンの物語への関わり方がとてつもなく面白い。

ガニマール警部の捜査へと舞台が移ってからも、ルパンの名推理は冴え渡り、ガニマールの心中穏やかでない雰囲気が堪りません。

そして、待ちに待ったライバル同士の対決シーンでは、切れ味鋭い素晴らしいラストが用意されています。何回読んでも楽しめる傑作です。

 

『うろつく死神』(1911)

前作『赤い絹のマフラー』事件後の物語なので、順番通りに読むことをオススメします。

ミステリの観点から、そこまで着目すべき作品ではないのですが、オチはユーモラスでニヤニヤさせられます。

 

『白鳥の首のエディス』(1913)

なんとも美しいタイトルで始まり、由緒あるお宝が登場し、ルパンの代名詞でもある犯行予告があって…のはずが、いつのまにか息もつかせぬ推理小説に早変わりしているのには脱帽です。

ルパンシリーズだけでなく、今まで読んだ短編ミステリの中でもトップクラスに面白いガニマール警部が登場すること以外、あまり物語の紹介をしたくないのですが、アルセーヌ・ルパンが探偵ではなく、怪盗であることを最大限に活かした傑作短編です。

※何故かは言えませんが、できたら『ルパンの冒険』は読んでおいた方が良いと思います。

 

『麦がら(わら)のストロー』(1913)

ルパンにしてはスケールがちっちゃい事件なんですが、個人的には結構好きな作品です。ルパンものの長編『水晶の栓』にも似た隠し場所系のトリックが駆使された短編、ということで、ミステリファンなら後学のためにも勉強がてら読んでおきたい一作です。

もしかしてルパンってこうやって手下を増やしていくのかも、と思わされるような素敵なオチも好きなんですよねえ

 

『ルパンの結婚』(1912)

さてさて、最後にして最大の問題作が登場です。どんな話か、もちろんタイトルどおりルパンが結婚しちゃう話なんですが、どうも後味は良くない。で良くないかと思ったら、ちょっと心を動かされている自分もいたり…

ルパンって、ただの浮気性の軟派男なのか、それとも強きを砕き弱きを救う、騎士道精神を貫くロマンチストなのか。

本作はそんなルパンの様々な特性を絶妙にミックスさせ、彼の多面性を押し出したドラマ部分が見どころです。

 

 

まとめ

何度も言いますが、傑作短編集だと思います。

訳の古さなんてなんのそので、物語の面白さが障がいを凌駕する瞬間に立ち会えるでしょう。とはいえ、新訳化されれば尚良し。ルパン愛好家、ミステリファンだけでなく多くの人に手に取っていただきたい短編集でした。

では!