引用:2018 Marvel
お新年一発目のマーベル作品は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で華々しいデビューを飾ったブラックパンサーです。前半はなるべくネタバレなし、徐々にネタバレしていきます。まずは予告編をどうぞ。
ネタバレベル0
漆黒のスーツに野性味あふれるアクション、というだけで大好物です。
ブラックパンサー/ティ・チャラ国王を演じるチャドウィック・ボーズマンの長い手足としなやかな筋肉を用いたアクションは、今までのマーベル作品であまり見られなかった高いレベルに仕上がっています。
もちろんCGが多用されてはいますが、ゴリゴリの肉弾戦や原始的な決闘もあって、アクション映画としては合格点。
でもストーリーはねえ…
予告編から掴める情報としては、
主人公ティ・チャラは、アフリカの小国ワカンダの国王でありながらブラックパンサーというヒーローであり、ワカンダは国家ぐるみで最先端のテクノロジーを有する事実と秘宝ヴィヴラニウムの存在を隠し全世界を騙している。そして、それを狙う敵対勢力がいて…
という構図が見えてきます。
ネタバレなし感想で言えることは、とにかく悪役(ヴィラン)がカッコいい!ということ。敵でカッコいいと思えたマーベル作品で言えば『キャプテン・アメリカ』のウィンター・ソルジャー以来じゃなかろうか。
メインのスーパーヴィラン/キルモンガーを演じるマイケル・B・ジョーダンが素晴らしい。
少し首を傾げながらねめ付ける目線や人を食った雰囲気がイカしてます。
あと、もう一人のヴィラン/ユリシーズ・クロウ役のアンディ・サーキスはさすがの演技力。マーティン・フリーマンとの共演で言えば『ホビット』が思い出されますが、この二人だけ仄かに感じられるロンドン感ににやけてしまいます。
以上のとおり、新感覚のアクションと魅力的な悪役だけでも楽しめる映画ではあると思います。
是非この週末にでも映画館に行ってみるのはいかがでしょうか。
ネタバレベル3
全体的にゆるゆるの設定にはちょっとげんなり。
何から行きましょうか。
まず、ハイテクなのかローテクなのかどっちなんでしょうか。ワカンダ原産の万能鉱物ヴィヴラニウムが、国に繁栄と高度な文明をもたらしているという部分は、まあ呑めます。
それを商品として、国に利益をもたらす金の卵として用いているなら、の話ですが。
ワカンダという国を見る限り、ヴィヴラニウムは国外に対しては極秘中の極秘で、取引や輸出などもってのほか。ただ、持ってて、加工して、生活に使っているだけなんですよね。
それなのに、なんだか文明が飛躍しすぎてやしませんか。
ただの石なのに。
石を加工する人間の技術力も他国以上のものがあるということでしょうか。
もしかして、意思か知能かなんか持ってるんですか石だけに。
どう国益に繋がっているかあまりに見えにくい=ワカンダが超文明国だとの説得力が皆無です。
あと、あまりに生活感が無いのも問題です。
彼らは何を食べて過ごしているんでしょうか。もしかしてヴィヴラニウムは、蒸かせばホクホクのお菓子にでもなるんでしょうか。
あと、ヴィヴラニウムの運搬シーンはあっても、加工や開発描写がないのが不満です。
アイアンマン/トニー・スタークのように試行錯誤しながらの開発シーンがないのは、ご都合的だと思われてもしかたありません。
技術者でティ・チャラの妹シュリは設定上トニー・スタークよりも賢いとされるキャラクターなだけに、もったいなさすぎます。
少なくとも、ヴィヴラニウムがVivelationつまりは震動(衝撃や音波)を吸収してしまう、という特殊な特性は、もっと掘り下げても良かったと思います。
じゃあヴィヴラニウム同士の戦いならどうなるんだろう、とか、ヴィヴラニウムを無効化する具体の方法など、アクションに説得力とアレンジを加えるチャンスをみすみす逃しているような気がしてなりません。(多少の説明はありましたが)
アカデミー賞俳優フォレスト・ウィテカーを無駄遣いするくらいなら、もっと考証がしっかりしたものであればと思ってしまいます。
ネタバレベル5
ヒーロー対ヴィランの戦いという大筋に交差するのが、ワカンダの未来、世界との共存・共栄という横筋です。
今後のMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の大作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の伏線でしょうが、ワカンダがそして国王ティ・チャラがどのような決断をするかは、予め決まっていて、決まっている以上ここにも説得力が必要です。
つまり、
ティ・チャラが、信頼し尊敬していた前国王の秘密を知り、世界を知り、現実を突き付けられたことにより、自分の正しいと思う道に一歩踏み出す、
という心の過程が全然見えません。
例えば、ワカンダが今まで平和だったことが疑問の塊です。
武器商人のクロウを恨むボーダー族の族長ウカビとティ・チャラの簡単に壊れてしまう人間関係を見ると、彼らには相当な不満が溜まっていただろうし、それならなぜ内乱の一つもないのか。
国の隅へ追いやられたジャバリ族はなぜなんの行動も起こさないのか。
なぜ、彼らが平和で幸せっぽいのか理解に苦しみます。
超人的な能力を持つのが、ブラックパンサーただ一人というのも気になるところ。
力の源であるハーブの警備だって緩そうだし、長い歴史の中、強固な意志を持って、外の世界に討って出たワカンダ人が一人もいないというのは、さすがに無理があるのではないでしょうか。しかも実際に裏切り者がいたわけですし…
最後にやっぱり人種・民族の問題には触れなければならないでしょう。
物語の最後にティ・チャラ国王は、公の場に顔を出し、国交の開始や共存・共栄の意思表示をして、ナショナリズムを否定する立場に翻るわけですが、どうもよくやった!と思えない。素晴らしい決断だ!と思えない。
アフリカと言えば、まだまだ生活水準が低く、治安も悪い国が多いはずです。
そんな中、民族至上主義の頂点を極めたとも思えるワカンダ人が、同族を無視し続けたことに対する謝罪や、弁明は何一つありませんでした。
ティ・チャラの言う世界の中に、アフリカは入っているのかな。
もちろん最終盤でそれなりの解決策は提示されていましたが…
そもそも、前半部分で他民族・他国との消極的な応対が無かったのは気になりました。むしろアジア人には友好的で、ワカンダに紛れ込んだアメリカ人にも無反応。
ティ・チャラとその友人連以外のワカンダ人には、強い偏見や差別があってという描写があれば、それなりに最後グッと来たはずです。
以上、当ブログでは珍しく辛口な気がしますが、単純にクールなアクションが見たい、という映画ファンには楽しめる作品だと思います。
ビームが出たり、銃でドンパチが少ない分、オリジナリティある中身にもなっています。
悪役のキャラクターも魅力的だし、ティ・チャラの味方にも個性的なアクションが用意されています。
続編『アベンジャーズ』にも引き続き登場することから、マーベルファンなら見るべき映画でしょうし、ブラックパンサーのフォルムだけ見て興味が沸いた未鑑賞者も多いはず。
ストーリー・設定の粗さには目を瞑って、ポップコーン片手に軽~く見るのをオススメします。
では!